シュテーデル美術館所蔵 フェルメール 《地理学者》 と オランダ・フランドル絵画展
ヨハネス・フェルメール 《地理学者》(部分) 1669年 油彩・キャンヴァス シュテーデル美術館所蔵
2011年3月3日(木)−5月22日(日)
Bunkamura ザ・ミュージアム
フェルメールと《地理学者》
G.& L. ファルク 17世紀を通じて海上貿易で栄えたオランダは、地図製作の一大中心地となっていた。背景の棚の上に置かれた台座つきの地球儀は、アムステルダムの代表的な地図製作者、ホンディウス家により天球儀とペアで構想され、1600年に製作されたもの。本展には、平戸藩主松浦家に伝わる、18世紀にアムステルダムのファルク父子により製作された、美しい彩色が施された地球儀・天球儀の逸品が出品される。 |
W.J.ブラウ 人物の右の壁に黒い額に入れて飾られた地図は、W.J.ブラウにより発行された「ヨーロッパ図」のうちの一つとされる。オランダ東インド会社の公認地図製作者を代々務めたブラウの一族が発行する地図は、高度な彫版技術と豊かな装飾性を誇り人気を博した。 |
オランダ南部の小都市デルフトに生まれ、この地で43年の生涯を送ったとされるが、画家の生涯を知る記録は極めて少ない。1653年に結婚後、同年に画家たちの同業組合である聖ルカ組合に登録。初期の作品では聖書や神話から主題がとられているが、1650年代後半から風俗画・室内画へと転じた。日常的なしぐさの女性のいる室内の情景を数多く描き、物の見事な質感を室内に漂う光の中で精緻に描き出し、独特な静寂なる世界を生み出した。同時代の科学への関心も高く、カメラの原型であるカメラ・オブスクラのもたらす視覚効果との類似性も指摘されている。
画家の円熟期ともいえる37歳頃に描かれたもの。フェルメールの作品において男性単身像は1年前に描かれた《天文学者》と2点のみが現存し、両作品とも近代科学の黎明期といえる17世紀らしい主題といえる。コンパスを手にする人物は、窓から差し込む光の方へと視線を向け、遠く未知なる世界へと思いを馳せているようだ。ここでは右手前の椅子の上に置かれた直角定規や背後の棚の上にある地球儀、壁にかかる地図だけでなく、机の上や床の上にも地図を思わせる紙が置かれ、「地理学者」の仕事道具をひと通り見ることができる。壁の幅木の代わりには、青い絵付けのデルフト焼タイルがはめ込まれ、そのわきにはゴブラン織りの豪華な椅子が置かれるなど当時の裕福な市民の生活の様子も垣間見える。
よく似た風貌を持つ、《地理学者》と《天文学者》に描かれる男性のモデルには、様々な異論があるものの、同じデルフトに住む科学者で多数の微生物を発見し、顕微鏡の発明にも寄与したアントニー・ファン・レーウェンフックの名が挙げられている。フェルメールの死後、遺産の管財人に任命された人物でもある。いずれにしてもこれらの作品において、フェルメールは「書斎の学者像」という伝統的なテーマを航海国オランダの運命を決定づける2つの学問と結びつけて描き出している。