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「レオ・レオーニの絵本づくり展」トリビア 【plaplax】編
2025.08.24 UP
構想段階の第3章イメージスケッチ:plaplax
Bunkamura : 本日は第3章の《レオレオリウム!》の構成・デザイン、映像・インスタレーション制作を担当されたplaplaxのお二人、近森基さんと小原藍さんをお招きしています。《レオレオリウム!》は“レオ・レオーニ”と“テラリウム”を掛け合わせた造語になっています。まずは全体の構想をお話しいただけますか?
近森 : みなさん《レオレオリウム!》へようこそ!
まずこのタイトルについてですが、レオーニさんが子どもの頃に夢中になっていたテラリウムというものが原点にあります。テラリウムとは、透明な容器の中で植物や小さな生き物を飼育・栽培する手法のこと。レオーニさんも石や植物、トカゲやカメといったいろんな生き物を、自分が作った小さな世界の中に配置して眺めて楽しんでいたそうで、そこに着想を得ました。
のちにレオーニさんは自分の作品のことを振り返って、子どもの頃にやっていたテラリウムづくりと絵本づくりはほとんど同じ作業だったと話しています。テラリウムはレオーニさんの絵本づくりにおいて重要なものの見方・考え方だと思ったので、今回の空間づくりに応用できないかと考えました。実はレオーニさんは小さいワニまで水槽の中に入れて遊んでいたらしく、それがのちの“コーネリアス”に繋がったようです。
また、レオーニさんの名前は日本語にすると “レオニ” か “レオーニ” と表記されますが、いずれにしても“レオレオ”とオノマトペのように繰り返される音がおもしろいな、と思って。それを合わせて《レオレオリウム!》というタイトルを考えました。
小原 : レオーニさんが作られたテラリウムの水槽の大きさと絵本の大きさがほぼ一緒だったという話もありますよね。
Bunkamura : 絵本の見開き分の大きさが水槽の大きさと同じだったという話ですよね。そう考えてみるとそれほど大きな水槽でもなかったんですね。
近森 : “世界を作る” ということがレオーニさんにとっては一番重要だったのではないかと思って。《レオレオリウム!》の書き割りパネルやスクリーンの映像は、絵本の世界に僕らが入り込んだような状況をイメージして、スケール感などを考えました。テラリウムの中に人が入り込むという感覚を味わってもらえればと思っています。
Bunkamura : それが最も体感できるのが《空想の庭》ですよね。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
近森 : そうですね。円形のスクリーンになっていて、中に入ると大きな映像で囲まれるという状況になっているのですが、人と映像の中の世界が同スケールというか、人が絵本の中に入ったらこういう感じかなという視点で制作しています。
小原 : ひとつめのアニメーションでは、大きな手が出てきて石を置くというシーンがいくつか出てきます。ご想像はみなさんの自由なのですが、私はこの手の主がレオーニさんだと思って作りました。レオーニさんが絵本を作る時の途中経過の資料が少ないので正しいかどうかは検証できないのですが、たとえば石をここに置いて、その石の周りにどんどん風景を広げていったり…レオーニさんの心の中の風景を取り出していくと、きっとこんな動きがあったのではないかと思いながらひとつの画面にしています。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
この手がレオーニの手だと想像しながら見るとワクワク感が増します!
近森 : レオーニさんの頭の中を映像にしてみた感じです。
Bunkamura : この中では4編のアニメーションを作っていただいています。
小原 : レオーニさんのキャラクターにはねずみがたくさん出てきます。パーツを切り抜いて作っているものが多いので、次のアニメーションでは、5つの絵本からそれぞれのねずみがどのようなパーツ構成で作られているかなどを見ていただきます。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
スクリーンに映し出されたねずみのパーツを切り抜いて合わせると…
Bunkamura : 第一章の原画でご覧いただいたコラージュの技法を可視化できるようなものになっています。紙から切り取って、パーツを組み合わせることでキャラクターが作られているということが、とてもわかりやすくなっていますね。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
パーツが組み合わさってキャラクターに!
小原 : 同じねずみなんですけど、使っている色とか大きさの比率とか、細かく見ていくとそれぞれ全部違っているので、そのあたりを見ていただきたいです。
近森 : 画面の下からどんどん植物が出てくるこのアニメーションは『ひとあし ひとあし』をモチーフにしています。垂直方向に画面が展開するように作っていて、絵本の世界を空間的に表現しています。一方で『あいうえおの き』をモチーフにした次のアニメーションは、葉っぱが風に流れてくる動きを横向きで展開しています。
円形スペースの中央にジオラマがありますが、これは《レオレオリウム!》全体の世界を作るということと呼応した入れ子構造のようになっていて…空間全体に等身大の絵本の世界があって、その中央にスクリーンのアニメーションの世界があって、さらにその中心にはジオラマによる小さな世界があるというような、スケールを変えた世界を同心円状に構成しています。真中のジオラマは、レオーニさんが絵本を作るベースにしたいろいろなエピソードを元にしています。例えば、庭を歩いていた時に岩陰からねずみが出てきたのを発見して『フレデリック』ができたという話からイメージして、ジオラマのボタンを押すとフレデリックが現れるというのを作りました。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
レオーニさんのアイデアの源泉をイメージしたジオラマ
Bunkamura : ジオラマはレオーニさんの“アイデアの源泉”となっているようなものをモチーフとしてピックアップして作られていますよね。
近森 : そうなんです。まず《リグーリア海岸》ですが、レオーニさんの3作目の絵本『はまべには いしが いっぱい』という海辺の石をテーマにしたものがあります。実際はトスカーナ地方ポルチニアーノにあるレオーニさんのアトリエとリグーリア海岸とは離れた場所にあるのですが、レオーニさんが家族と共に休暇を過ごした場所と聞いていたので(注1)、レオーニさんの頭の中をギュッと凝縮したような形で入っています。また、『平行植物』は第1章の最後のところにもデッサンの展示がありますが、空想の植物を題材に学術的な書き方をしたおもしろい世界観の本が出ています。レオーニさんは、その植物群を大きな彫刻で制作して、庭に展示(設置)していました。今回、その小さなレプリカを制作して、ジオラマにも登場させました。
Bunkamura : 彫刻の実物は3メートルぐらいあるんですよね。イタリアのポルチニアーノという場所をレオーニさんが惚れ込み自分の敷地として購入して、そこに平行植物の大きな彫刻が森と一体化して乱立していたと聞いています。
次に《絵本の自然採集》についてですが、こちらは全て絵本の中から取り出しています。
近森 : そうですね。レオーニさんのいろんな絵本の中からピックアップしてきた植物採集です。絵本から採集した、ほぼ全部実際の大きさと同じです。作品名と登場するページも一緒に表示しています。普通は自然界からいろいろなものをを採集しますが、今回はレオーニさんの世界の中から「植物」「動物」「石」を標本として取り出してみました。
また、あちらの壁の部分はさまざまな絵本から地面だけを取り出して展示しています。レオーニさんの絵本では、キャラクターはもちろんですが、実は背景や世界を構成する要素がとても魅力的だと思っていて。その部分をピックアップしたくて “採集” という作品にしてみました。
例えば生き物の中にある伊勢エビも取り出してみると「こんなに大きかった?」と思うんですが、絵本の中では見開きで載っていたりするので実はそのままのスケールなんです。逆にスイミーに出てくる魚は小さめ、『ひとあし ひとあし』のしゃくとりむしなんてもっと小さいし、主人公以外の生き物たちもかなり魅力的な描き方がされています。あとは同じ葉っぱでも作品によって違う書き方、あるいは切り取られ方をしているのがおもしろくて。切り絵で作られているもの、絵具で塗られているもの、パステルで描かれているもの…技法の違いで全く違う表現になっているので見比べるのがおもしろいと思います。
第3章《レオレオリウム!》の《絵本の自然採集》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
小原 : 今回のように集めてみると、思いのほかカエルがたくさんあって、レオーニさんがカエル好きだったということに気付きました(笑)
Bunkamura : 会場でお客様に「絵本を切り抜いたんですか?」とよく聞かれるんですけど、実際には絵本のデータを出版社からいただいて、それをplaplaxさんが抽出して…切り取るのが大変だったと聞いています。あと設置するときに台の上にピンを打って、そのピンの頭に糊を付けてその上に作品を置いているんですけど、ピンの高さを均一にするのが大変な作業でしたよね。
近森 : 博物館の展示物のようにしたかったので、どのようにしたらそれっぽくなるかと思って。ピンの高さもですが、配置の仕方も大きいのから外側に向けて小さくしたり、似たような植物を隣り合うように並べたりと、試行錯誤しながら作業しました。
Bunkamura : ピンが標本っぽさを演出していますよね…最初私はピンで刺すのかと思っていました。ただケースに置くだけだとその感じが出ませんし…
近森 : 平面の絵本から、三次元の世界に持ち出したときにいかに立体感を持たせるかということを工夫しましたね。最初はピンで刺していたのですが、レオーニさんの絵に穴をあけるというのに抵抗もあって…(笑)
Bunkamura : そうだったんですね!鳥だけアクリルにされたのはなぜですか?
近森 : 鳥のもっている浮遊感というか、ちょっと浮いた感じが欲しかったので、厚めのアクリルに印刷することにしました。『ひとあし ひとあし』というさまざまな鳥が登場する作品の背景をベースにしています。
第3章《レオレオリウム!》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
左:《絵本の自然採集》 右:《レオと石》
Bunkamura : レオーニさんは石もすごく好きで集めていたんですよね?
近森 : レオーニさんは浜辺に行くと究極の丸い石を探していた、という話をお孫さんのアニーさんから伺いました。『はまべには いしが いっぱい』は鉛筆で描かれたモノクロの絵本なんですけど、僕が一番好きな作品です。《レオと石》では『はまべには いしが いっぱい』に出てくる石を取り出して、それに動きを付けたりして、絵本の世界を拡張した作品として体験できるようにしました。
Bunkamura : 大人も子どもも楽しんでくれている大人気なスポットです!
近森 : 最後に《スイミー・スクロール!》について。僕の子どもの頃にもありましたが、教科書に出てくるお話しなのでほとんどの人が知っている…おそらく日本で一番知名度のあるお話だと思うんですけど、今回 “展示” にするにあたってどんなことをしようかと思って、もう一回スイミーの絵本を読み直しました。
それで気が付いたのが、絵本の最初から最後までほぼスイミーの大きさが決まっている、つまり同じ距離感・視点で描かれていたんです。レオーニさんの絵本は低いところに地面があって割と引いた視点で描かれていることが多いのですが、スイミーでも海底の位置がほぼ同じ高さです。レオーニさん以外の人の絵本を見ていると、何か重要なシーンだとキャラクターに寄ったり拡大したりするんですが、レオーニさんの絵本はだいたい静観した視点なんです。それに気づいた時、何か同じ描き方をしているものがあったなーと思っていたら、日本の絵巻物も俯瞰した視点で描かれている。ということは、スイミーの絵をつなげたら絵巻物みたいになるんじゃないかと思ってやってみたら意外とうまくいって。
第3章《レオレオリウム!》の《スイミー・スクロール!》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
近森 : あとスイミーは日本だと、みんなで協力するのが素晴らしいという解釈ばかりが取り上げられがちですが、実はこの本の中で一番ページが割かれているのは、いろいろな生き物と出会うシーンで、海の中ってこんなに素晴らしい!という部分なんです。この魅力を伝えるべきだと思って40メートルの絵巻物として作ったのが《スイミー・スクロール!》の制作意図なんです。さまざまな生き物と出会う場面は、少し囲われたような空間になっていて、アクアリウムに入ったような感じを味わえると思います。
Bunkamura : たくさんの貴重なお話が聞けました!ありがとうございました。
(注1)住居・アトリエのあったポルチニアーノに移る前、レオーニはイタリア北西部に位置するリグーリア州を拠点としていました
【プロフィール】
plaplax 近森基氏、小原藍氏
インタラクティブ作品の制作をベースに、空間・映像・プロダクトなど、領域を横断しながら活動。扱うテーマやモチーフの中に潜んでいる物語を掘り下げ、様々なメディアを使って作品化することで、新しい発見、創造的な学びや、ワクワクするような体験の創造に取り組んでいる。
近年の主な出展:「デザインあ展」(2018年)、「いわさきちひろぼつご50年 こどものみなさまへ」(2024年)他