TOPICSトピックス
「レオ・レオーニの絵本づくり展」開幕レポート
2025.07.10 UP
知恵と勇気で大きな敵に立ち向かう黒い魚の物語『スイミー』や、シンプルな青と黄色の円形が感情豊かに動き回る『あおくんときいろちゃん』など、いくつもの名作を世に送り続けた絵本界の巨匠、レオ・レオーニ(1910-1999)。彼の絵本づくりに焦点をあてた展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」が、7月5日よりヒカリエホールで始まりました。
本展は全国を巡回している『レオ・レオーニと仲間たち展』という展覧会から、「絵本づくり」の部分に焦点を当てた展覧会。まず第1章「レオーニのテクニック(技法)」では、実際の絵本原画を見ながらレオーニの手しごとの世界を探ります。
たとえばフレデリックやアレクサンダといった、レオーニ作品にお馴染みのかわいらしいネズミたちはどう作られるのか?レオーニは様々な素材を「コラージュ(切り貼り)」することで作中のアイテムに独特の質感を生み出す天才ですが、なかでもネズミを表現する時は、胴体の部分を必ず手でちぎり、あのモフモフ感を出したのだとか。そのほか、凸凹のある素材に紙を置き、上からこすって模様を写しとる「フロッタージュ」や、同じ形のスタンプを色や方向を変えながら押していく「スタンピング」など、様々な技法が、レオーニの絵本特有の「ぬくもり」や「やさしさ」をつくりだしていることがわかるでしょう。
第2章では『6わのからす』という作品を原画で読むことで、レオ・レオーニのメッセージを紹介しています。『6わのからす』は、畑の麦をめぐり6羽のカラスと農夫との間で争いが激化しますが、フクロウの仲介により互いに話し合って問題を解決するという物語。「はなしあいに ておくれは ないよ」「ことばには まほうの ちからが ある」という谷川俊太郎さんの訳による、レオ・レオーニのメッセージが深く心に刺さります。
オランダの裕福な家庭に生まれ、イタリアでグラフィックデザイナーとして働いていたレオ・レオーニ。ユダヤ系だった彼は、第二次世界大戦中に亡命したアメリカで、アートディレクターとして活躍し、やがて世界的な絵本作家となりました。様々なコミュニティで、多様な人々とかかわりながら自らの居場所を得てきたレオーニは、相手とわかりあうために対話をすることがいかに大切か、ということを身をもって知り、実践してきたのかもしれません。
以上、第1章と第2章は、『レオ・レオーニと仲間たち』展の絵本セクションを構成しなおしたものですが、次の第3章は、レオーニの絵本ワールドを体感できる、本会場だけのオリジナルコンテンツです。幼い時、水槽の中に様々な小動物を飼い、植物や石などで風景を作る「テラリウム」を楽しんでいたレオ・レオーニ。彼の絵本のイメージを素材につくった空想上の「テラリウム」、すなわち「レオレオリウム!」と名付けられた本章は、インタラクティブな作品を手がけるアートユニットplaplaxが、ヒカリエホールの大空間に作り上げました。
まず最初に私たちを出迎えてくれるのは、『シオドアとものいうきのこ』より「クィルプ、クィルプ」と不思議な言葉をしゃべるキノコたちのインスタレーション。
石好きだったレオーニにちなみ「レオと石」と名付けられたセクションでは、床の上の石を踏むと大きな魚の群れが現れたり、様々な言葉が浮かぶインタラクティブな作品が!これは子どもたちが喜びそう。また満月のように丸い石が、ミステリアスな言葉を絶えずをささやいている展示も、とても神秘的でスピリチュアルな雰囲気です。
会場の中央に位置しているのは、360°円形の「空想の庭」という作品。中に入ると、レオーニが愛した場所や重要なイメージで構成されたジオラマが置かれ、手前のボタンを押すと該当箇所が光ったり、レオーニお馴染みのキャラクターが愛嬌たっぷりに動き出します。周囲のスクリーンには、影絵によるレオーニの手が、テラリウムを作るように絵本のアイテムを投入すると、そこから作品の世界が生き生きと立ち上がっていく様子が映し出されます。「せんそうは もう まっぴら」という、『あいうえおのき』のメッセージも毛虫に乗って現れます。まさに、絵本作家レオ・レオーニの頭の中をのぞいているかのような作品です。
そのほかのplaplaxの作品では、絵本に出てくる動植物を集めた「絵本の自然採集」や、仲間とともに雄大な海を泳ぐスイミーの姿を見ることができる「スイミー・スクロール!」も必見。レオーニが愛したフロッタージュの技法を気軽に楽しめるワークスペースもありますので、ぜひ様々な素材の上に置いた紙をゴシゴシこすって、自分だけのフロッタージュ作品を作ってみてください。本展での体験は、レオ・レオーニの絵本についての印象が深まるだけでなく、作品をめぐるお子様やお友達との会話もあらためてはずむことでしょう。
(取材/文:木谷節子)