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担当学芸員によるコラム①『からだをはる、モフモフ』
2025.03.26 UP
からだをはる、モフモフ
代表作として『スイミー』や『あおくんときいろちゃん』が挙げられるレオ・レオーニの絵本は、1959年から1994年までにおよそ年1冊のペースで発表されました。日本でも絵本としては27冊、子供向けのボードブックまでを含めると36冊もの作品が出版されています。
「現代のイソップ」とも呼ばれるレオの絵本では、概ね動物が主人公に据えられています。なかでも断トツで一番多く登場するのがねずみたちです。『フレデリック』、『アレクサンダとぜんまいねずみ』、『シオドアとものいうきのこ』、『みどりのしっぽのねずみ』、『おんがくねずみジェラルディン』、『ニコラスどこにいってたの?』、『ティリーとかべ』、『マシューのゆめ』、『マックマウスさん』の9作品に加え、すべてのボードブックでもねずみたちがメインキャラクターを務めます。
レオ・レオーニ 《フレデリック》原画 1967年 Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family
グラフィックデザイナーを経て雑誌のアートディレクターをしていたレオは、それまでに培った経験を存分に生かし、絵本づくりに挑んでいます。様々な技法を絵本に取り入れたレオですが、もっとも頻繁に採用しているのがコラージュです。好きな素材を切って組み合わせ、画面に貼り付ける、というシンプルなものながら、組み合わせ次第で多種多様な表現が可能となるコラージュ技法。ピカソとブラックというキュビスムの二大作家によって世に送り出された技法ですが、レオは絵本にこそ適していると考えていたようです。『みどりのしっぽのねずみ』と『おんがくねずみジェラルディン』の2作品を除き、レオの絵本のねずみたちは全て紙を使ったコラージュで表現されています。そうです、レオのねずみたちは文字通り、体をはっているのです!
資料:どちらもレオ・レオーニの孫であるアニー・レオーニさんより借用したレオーニの作品のパーツ画像
コラージュねずみたちの愛らしさの秘密、それはモフモフです。レオはねずみたちのモフモフとした毛の感じを出すために、紙を手でちぎっています。モフモフしていない手足やしっぽにはハサミを使用していますが、毛の生えている部分は必ず手ちぎりです。このちぎり方があまりにも上手く、またほかのパーツとの調和もとれているため、絵本のページをめくっている時にはあまり気がつかなかったかもしれません。しかしご心配なく、本展会場では原画を通してこの手ちぎりのモフモフ感を余すところなくおたのしみいただけます。
実はこの手ちぎりによるコラージュ技法は、レオの最初の絵本『あおくんときいろちゃん』でも使用されています。1959年の『あおくんときいろちゃん』発刊直前に、デザインサンプル帳『ページのためのデザイン』の中でレオは手ちぎりについて次のように述べています。
「手で破いて」作った不規則な輪郭をもった形は、インフォーマルで直接訴えてくる力を持ち、当時のアメリカの雑誌や広告全般に見られる「機械的な完璧さ」とは対照的なのでとても目立ち、効果的である(*1)
今回本展では『あおくんときいろちゃん』の原画は出展されませんが、代わりにねずみたちのモフモフで、その機械的ではない、手しごとの温かみと力強さを感じ取っていただけることと思います。
さらにレオはコラージュのねずみたちをすぐに作成できるよう、いくつものパーツをストックしていました。モフモフのボディーに加え、ハサミで切った耳や手足、しっぽ、そしてまん丸なしろ目。このしろ目の中に瞳を描きこむと、ねずみたちに息が吹き込まれ、完成です。本展ではこのようなねずみになる前のパーツを展示し、またレオがパーツからねずみを組み合わせていく様子を動画でご紹介します。ぜひレオのモフモフたちに会いにいらしてください、お待ちしています。
Bunkamura ザ・ミュージアム 岡田 由里(本展担当学芸員)
*1:森泉文美、特別Column「レオの庭」、『レオ・レオーニと仲間たち』、株式会社青幻舎、2024年、p.186