グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ

COMMENTARY章解説

SECTION 1第1章ミュシャ:アイコン/1900年/ユートピア

本章では迫力ある映像を駆使したイマーシブな空間の中で、アール・ヌーヴォー様式を経て大画家へと転身するアルフォンス・ミュシャの作品世界を3幕構成で追います。第1幕の「アイコン」では一世を風靡したミュシャのアール・ヌーヴォー様式時代の優美な女性像が、曲線と花々で織りなされる耽美的な世界観に浸ります。続く第2幕「1900年」では、その後の創作活動のターニングポイントとなった1900年パリ万博でのボスニア・ヘルツェゴビナ館の内装を写真・資料をもとに映像で再現。そして晩年の集大成〈スラヴ叙事詩〉にフォーカスする第3幕の「ユートピア」では、他民族の支配による苦難と解放を歴史的場面で追いながら、壮大でファンタジックにまとめ上げたスラヴ民族の歴史叙事詩を大画面で堪能します。

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パリ展会場風景 ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Immersif 《ルビー ― 連作〈四つの宝石〉より》(部分) 1900年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵  ©2024 Mucha Trust
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パリ展会場風景 ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Immersif 《連作〈四芸術〉より》(部分) 1898年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵  ©2024 Mucha Trust
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アルフォンス・ミュシャ 《羽根》(部分) 1899年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵  ©2024 Mucha Trust

香りの演出について

会場内に4つの体験できる「香り」を演出。ミュシャの故郷・モラヴィア、ミュシャのアトリエ、サラ・ベルナールをイメージした香り、そしてミュシャ作品にも多く登場する花の香り…視覚だけではない、五感で楽しめるミュシャの世界が広がります。本展のためにパリの調香師が作り出した世界観を会場でお楽しみください。

SECTION 2第2章ヒストリー

画業の転換期となった作品や代表作を織り交ぜながら、ミュシャの生涯を年譜で追っていく、第1章の内容をより深堀りできるエリア。晩年の集大成〈スラヴ叙事詩〉へとつながる後半生の思想的な創作活動の原点となった挿絵本『主の祈り』のモニター展示や、作品に込められた哲学を体感する「ミュシャの声」コーナーを展開。ホログラムで表現されたミュシャの姿に実際の肉声が重なり、時空を超えて存在するミュシャの姿を感じることができます。

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アルフォンス・ミュシャ 《原故郷のスラヴ民族―連作〈スラヴ叙事詩〉より》 1912年 油彩、テンペラ/キャンバス ミュシャ財団蔵 ©2024 Mucha Trust

〈スラヴ叙事詩〉とは

1910年からミュシャが手掛けた20点からなる連作〈スラヴ叙事詩〉は、スラヴ民族の統一を祝賀する作品です。サイズは大きいものではおよそ6×8メートルに達し、完成までに18年を要しました。1900年のパリ万博でミュシャがボスニア・ヘルツェゴビナ館の内装を依頼され、スラヴ民族の歴史を調査したことが制作のきっかけとされています。その時ミュシャは「残りの人生をひたすら我が民族に捧げるという誓い」を立てました。

SECTION 3第3章ミュシャのアトリエ

〈スラヴ叙事詩〉を制作するミュシャ 1923年 ミュシャ財団蔵 ©2024 Mucha Trust
〈スラヴ叙事詩〉を制作するミュシャ 1923年 ミュシャ財団蔵 ©2024 Mucha Trust

ミュシャのアトリエにようこそ。アール・ヌーヴォー・スタイルの家具に、動物の毛皮、ヤシの木、銀の香炉…印象的なミュシャのアトリエ写真とともに、制作のために撮影されたモデルの写真や制作風景を映像で紹介します。足を踏み入れた瞬間にほのかに漂うミュシャお気に入りの香りに、筆を動かす音。様々な要素に囲まれて、世紀末のミュシャのアトリエを体感します。

SECTION 4第4章ミュシャのインスピレーション

大女優サラ・ベルナールが演じた戯曲『ジスモンダ』のポスターによって、ミュシャは自らの様式の基盤を確立しました。ここではサラ・ベルナール主演の戯曲など、傑作ポスターの人物像を実在する俳優に置き換えた3Dアニメーションを展開します。作品と同じ衣装を身にまとい、大スクリーンの中でポスターの主人公を演じる俳優たち。手を伸ばせばそこに存在するかのような空間体験で、作品に命が吹き込まれる瞬間を目撃します。

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パリ展会場風景 ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Immersif
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アルフォンス・ミュシャ 《ジスモンダ》 1894年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵  ©2024 Mucha Trust
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アルフォンス・ミュシャ 《椿姫》(部分) 1896年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©2024 Mucha Trust

サラ・ベルナール

19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までの、パリが繁栄し大衆文化が花開いた時代「ベル・エポック(美しい時代)」を象徴する舞台女優。1894年、ミュシャが手がけた舞台ポスター『ジスモンダ』の仕上がりに感服し6年間の専属契約に署名した、ミュシャの画家人生を花開かせた重要な人物。『椿姫』『ロレンザッチオ』『メディア』『トスカ』『ハムレット』など多数の舞台ポスターをミュシャが手がけ、人気を博しました。

SECTION 5第5章インフルエンサー、ミュシャ

1960年代にアール・ヌーヴォーが再評価される中で、ミュシャ作品も再び脚光を浴びることになります。アメリカのフラワームーブメントから発生したサイケデリック・アートや、1970年代以降の日本の少女マンガの世界にミュシャ風の表現が現れました。このセクションでは波津彬子(ルビ:はつあきこ)や天野喜孝のほか、海外の現代作家のインタビューと映像やタペストリーによる作品紹介を関連するミュシャ作品とともに追っていきます。いったいミュシャ作品の何が多くの人の心をとらえるのか、その秘密を探る機会となるでしょう。

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アルフォンス・ミュシャ 《ビザンティン風の頭部「ブロンド」》 1897年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵  ©2024 Mucha
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天野喜孝 《「アルスラーン戦記2 王子二人」(田中芳樹著/角川書店)のためのイラスト》 1987年 アクリル、カラーインク・紙

日本におけるミュシャ

古くは明治時代から、ミュシャに影響を受けた作品は日本で多々見られます。1970年代には日本初のミュシャ回顧展が開催されたことも契機となり、少女マンガの世界ではミュシャの影響を受けた作家による、その世界観をオマージュした構図が生み出されました。

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スタンレー・マウス&オールトン・ケリー 《ジム・クウェスキン・ジャグ・バンド コンサート(1966年10月7–8日、アヴァロン・ボールルーム)》 1966年頃 オフセット・リトグラフ Artwork by Stanley Mouse and Alton Kelly. © Rhino Entertainment Company. Used with permission. All rights reserved.
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アルフォンス・ミュシャ 《ジョブ》 1896年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵  ©2024 Mucha