超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵

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2020.01.17 UP

インタビュー

インタビュー:石黒賢一郎さん

展覧会に先がけ、出展作家の石黒賢一郎さんに直撃インタビューを行いました。

アニメシリーズ、廃墟シリーズ、ガスマスクシリーズなど、現代の世相を問うテーマを細密描写で次々に発表する写実画家の石黒賢一郎さん。現在は広島市立大学で油画を教えながら、さらに立体、映像へと活躍の場を広げていらっしゃいます。

「超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵」では4点が紹介されますが、作品への思いや写実絵画についてなど、興味深いお話を伺いました。

 

Q.《存在の在処》の制作には10年かかっていらっしゃるとのことですが。

石黒氏:はい。高校の教師だった父親が退職した春休みに学校で壁や黒板などを描きまして、あとは父を家で描いて、服などは持って帰ってマネキンに着せて描きました。作品は最初にどこかで展示してから、その後何度も展示していただいたのですが、展示のたびに加筆をしていた記憶があります。僕は描いていいと言われたら、ずっと描いていられるんです。絵がアトリエに戻ってきたら、また加筆してしまうんですね。それでトータル10年くらい描いていました。

石黒賢一郎《存在の在処》2001〜2011年 油彩・パネル・綿布

 

Q.《存在の在処》が完成した時のお父様の感想はいかがでしたか?

石黒氏:厳格で怖い父でした。男同士は恥ずかしくてあまりしゃべらないというのがあるではないですか。何も言っていなかったような感じがします。母が図工の教師で、父は体育の教師だったのです。今はコミュニケーションがありますが、当時はそんなにないから、何を言ったか全然記憶にないです(笑)。 

 

Q.90年代にはホームレスの方を描いたりもされていますがどういった部分に惹かれたのでしょうか?

石黒氏:当時、若かったこともあって、あまりきれいなものを描こうという意識がなかったかもしれないですね。普通に描きたいものを描いたらたまたまそうなってしまったという感じだと思います。最初に写実で描いたのが上野のホームレスの方だったのです。お酒を一緒に飲んだりしてしばらく話をしてから描かせてもらいました。

 

Q.《SHAFT TOWER(赤平)》のような機械的なもの、無機質なものを描くのはどういう部分に惹かれるのでしょうか。

石黒氏:廃墟という負の遺産のようなものに興味があり、元々機械が好きというのもあります。

私が描いているのは、ガスマスクシリーズと廃墟的なものや機械的なもの、自分でストーリーを作ったものに即した作品の三つで、根底的なテーマは一緒の部分があります。毎年のようにスペインに行っているのですが、現地では情勢にあわせて移民やテロなどをテーマにした作品が多く、日本のニュースで流れていても現実的でない部分もあるのを常々思っていて、その辺から大体モチーフが生まれてきています。

 

石黒賢一郎《SHAFT TOWER(赤平)》2010年 油彩・パネル・キャンバス

 

Q.作品にアニメ的要素を取り入れている理由は?

石黒氏:スペインではよくアニメフェアがあって、好きな人が多いのです。例えばマジンガーZなどは70%の視聴率があったらしいのです。僕の世代はテレビしかなくて同級生や親も1つのアニメを共有する時代を過ごしてきました。それでサブカルやアニメが僕自身を作っている構成物質のかなりの要素になっているということにスペインの友達と話をしているうちに気づいたのです。それで日本に帰ってからは徐々にそうした作品を描くようになりました。最初は永井豪さんなどのアニメ作品からヒントを得てやっていて、その後自分でストーリーを作って平面、立体、映像と展開していけるように段階を踏んで進んでいます。

 

石黒賢一郎《綾○○○的な》2014年 油彩・パネル

 

Q.お嬢さんを描かれた作品がありましたけれども、ご本人はどのように思われているのですか。

石黒氏:娘が小学校2、3年くらいのとき、七夕の短冊に願い事が2枚はってあって、1つは「モデルになりたい」、もう一方には「絵が上手になりたい」と書いてありました。今新作で娘を描いていますが、多分喜んでモデルをやってくれていると思います。

 

Q.他の方に言われたご自身の作品の感想でハッとしたことや印象的なことはありますか。

石黒氏:前原冬樹さんという超絶技巧の木彫作品を制作している方に、僕の作品は「凄く細かいことをやって肌を描いているけれど、実際の作品を見ないとその細かさはわからない」と言われました。全体のふわっとした雰囲気はわかっても再現している部分は多分、印刷物では出てこないのだなというのを感じました。ぜひ展覧会で実際の作品を見ていただきたいです。

 

Q.2010年にホキ美術館ができて9年たちますが、ご自身を取り巻く環境で何か変わったことはありますか?

石黒氏:確実に変わりました。卒業したばかりの頃は暗黒時代もありました。1994年に大学院を卒業しました。現代美術が全盛期だったので、みな写実の展覧会には見向きもしなかったのですが、ホキ美術館ができて対応も変わりました。いろいろなメディアに出る機会が増えて認知してもらえたので周りが優しくなった感じがありました。それはいろいろな意味でありがたい部分です。

 

Q.大学で学生さんを指導していらっしゃいますが、写実絵画に対してどのような考えが多いのでしょうか。また、生徒に写実絵画について教えるときに気を付けていることはありますか?

石黒氏:広島市立大学は野田弘志先生もいらしたところで、授業ではしっかり人物を描く基礎を教えます。美術大学ですが、学生は将来いろいろな職業にいくわけです。デッサン力は、情報を収集する能力や伝達する能力、ものの本質や構造を理解する能力を身につけることだと思っているので、ただただ技術的に上手になるということではなくて、トータルでそのようなことを学生に伝えています。

 

Q.スペインの写実画家の感性から影響を受けた点はありますか。逆に日本の写実の特徴とは?その中でも石黒先生の作品の見せどころは?

石黒氏:根本的にスペインの画家は理想化して描かないところがあって、僕はそこにはまりました。いい悪いは別として、日本の写実作家は理想化するベクトルに行きます。僕の場合はものをそのまま再現したいだけだから、とにかく理想化しない。先日ホキ美術館でスペインの作品展が開催されましたが、向こうの人たちは絶対に理想化しないという感じです。もちろん日本人作家のほうが器用だという元々の国民性があり、日本の写実絵画の現在あるコンテクスト的な部分はそこから流れてきていると感じています。

僕の場合、細かく描くのは「業」以外の何物でもないと思っています。もともと視力がすごくよかったので、細かなところまで見えてしまうのです。小学校の頃、授業で自分の手を描いたとき、僕のだけ変で、毛穴も輪郭線と同じに描いていた。ものを絵で再現するにあたって、毛穴もあるし産毛もあって人間の肌はそこまできれいではないと思ってしまう。いずれにしても3次元のものを2次元に移し替えるのは不可能と思っているので、ただただ自己矛盾との闘いでもありますね。そのへんを解決する1つの手段として他のインターメディア的な道具を使って3次元をつくることでフィードバックできると考えていて、幅広く自分の周りにある素材を意識して作品を制作しています。 

 

Q.絵画のほかに造形物や作品とコラボするプロジェクションマッピングなども手掛けていらっしゃいますが、今どのようなことに興味がありますか?

石黒氏:アニメですね。2020年には15秒くらいのものを作ります。立体と平面とアニメの映像を3つセットで展示したいなと考えています。いずれはもう少し長めの映像もやりたいと思っています。

 

Q.最後に、今回文化村の展覧会にメッセージをお願いします。

石黒氏:写実絵画が、今ホキ美術館さんのおかげもあって多少認知されてきている中で、見る人によっては同じに見えても、画家がそれぞれ全く違う考え方を持って制作しているということを、作品を見ることで認識ができると思うので、そのへんをじっくり見ていただくと楽しいかなと思います。

Bunkamura ザ・ミュージアムは、僕にとってはアントニオ・ロペス展を開催した印象が強いところなので、最初に「超写実絵画の襲来」展で自分の作品が展示されるという話を聞いた時はびっくりしました。本当にうれしいですね。

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※2020年2月13日発売の雑誌、『時空旅人別冊 大人が観たい美術展2020』にも石黒賢一郎さんのインタビューが掲載されています!

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