超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵

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2020.02.25 UP

コラム&レポート

学芸員によるコラム:昆虫採集に夢中だった少年が、画家になってあのころの興奮を再現!

島村信之《幻想ロブスター》2013年 油彩・キャンバス

 

『超写実絵画の襲来』という展覧会名はホキ美術館で《幻想ロブスター》(2013)という横2mを超す迫力の大品に出合ったことが発端でした。あたかもこのロブスターが他の作品を引き連れて殴り込みをかけてくるような、と言っては大げさですが、写実絵画の殿堂ホキ美術館に集結した力の籠った作品群が、美術界に急襲を仕掛けるために待機しているように思えたのでした。

 


作者の島村信之(1965 ~)は柔和な女性像に定評があり、本展にも名作《籐寝椅子》(2007)が出品されています。レースのカーテン越しの白い光の中でくつろぐ女性の姿を克明に描いた作品には絵画でしかできない細かな配慮が行き届き、観る者の目はいつの間にか画家の目に代わり、自分もそこにいるかのような不思議な感覚に囚われます。

 

島村信之《籐寝椅子》2007年 油彩・キャンバス

 


好きなものを慈しみを持って見つめる画家の目。これこそが巨大ロブスターと籐椅子の麗しい女性とをつなぐ接点なのです。本作の前に《ロブスター(戦闘形態)》という初代作品を描いていますが、画廊に長らく置かれていたのをホキ美術館が引き取ってからは一躍人気を集め、画家の挑戦の後押しをしたのです。そして本作を描き、更に《オオコノハムシ-擬態-》(2014)、カブトムシと20匹ものクワガタが並ぶ大作《夢の箱》(2017)(共に本展出品作)という昆虫シリーズが勢いよく展開していきます。特に後者は男の子感満載の昆虫採集の夢を描いた作品。画家は少年の頃クワガタに夢中になり、恐竜展やテレビの特撮シリーズやメカものの虜でした。かたや細部のメカ、かたや柔らかな人肌ですが、そこには彼にとって同価の愛すべき存在が描かれているのです。

 

ザ ・ ミュージアム 上席学芸員 宮澤政男