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久末航ピアニスト

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。ベルリンを拠点に国際的に活躍し、2025年エリザベート王妃国際音楽コンクール ピアノ部門で日本人として歴代最高位となる第2位に輝いたピアニスト、久末航さん。舞台に立つ緊張感のなかで、音楽を届け続けるその姿勢と思いを伺いました。

いたずらっ子だった幼少期、そのエネルギーをピアノに注ぐ

 穏やかで優しく、しかし芯のあるお人柄がそのまま演奏する音楽に投影されているかのような、久末航さん。18歳でドイツに留学して、現在はベルリンを拠点に活動、2025年、世界最高峰の登竜門として知られるエリザベート王妃国際音楽コンクール ピアノ部門で第2位に入賞して、活躍の場を広げました。
 滋賀県大津市に生まれた彼は、「意外にも積極的な子供だった」そうで、「3、4歳の頃、三輪車の上におもちゃのピアノをのせて近所の家を訪ね、インターホンを押して気に入った曲を聴かせて回っていた」といいます。
「幼稚園に入ったばかりの頃は、やんちゃでいたずらばかりしていたのに、その後、5歳でピアノを習いはじめたらそのエネルギーが全部ピアノに向かったのか、急に落ち着いたそうです。当時からいわゆる“汚い和音”に敏感で、不協和音が鳴ると顔をゆがめて、“この音、変!”と言っていたと聞きます」

理系の大学に進学するつもりが、ドイツの音楽大学へ

  ピアニストとしての素質がこれでもかというほど感じられるエピソードばかりですが、実際のところ、音楽の道に進むことになったのは偶然が重なった結果でした。
「中学まではレッスンやコンクールを積極的に受けていましたが、普通高校に進学してからは理系の勉強への関心が強くなり、そちらの分野で大学受験をしました。でも実はこれがうまくいかなくて、1年浪人して再挑戦しようか迷っていたとき、のちにフライブルクの音大で師事することになるギレアド・ミショリ先生から突然お電話があって、「ドイツに留学してみないか」と誘われたのです。ミショリ先生とは、中学1年生のときに大阪でのマスタークラスを受講して以来、6年間まったくと言っていいほど連絡を取っていませんでした。最初は戸惑いましたが、いろいろな偶然やタイミングが重なって今この話が来ていることに人生の大きな流れを感じ、一度それに乗ってみようと、半ば勢いでドイツ行きを決めました」
 その師がよく言っていたことで、久末さんが今も忘れずにいる考え方があるといいます。
「事前に作品をよく勉強し、考え、十分に練習することは大切だけれど、本番の舞台ではそれを全て忘れ、その瞬間に音楽が生まれているように弾かなくてはならないということです。同じレパートリーを何度も演奏する中、慣れで弾くようになったら、音楽は死んでしまいます。自分が曲を弾く意味は、今この瞬間に音楽を生みだしているからにほかならないということ、そのためにできることは何かを常に考えていますね」
 こうしてその場のインスピレーションや感性を大切にしているのと同時に、やはり理系の道を志した性質も根底に残っているようです。
「秋に『Pianos' Conversation』で共演する、留学時代からの友人の務川慧悟君が、僕は音楽の理解力が高いと言ってくれましたが 、実際のところ楽譜って、見方によっては横軸、縦軸のあるグラフであり、システムなんですよね……こう言うとなんだかとても味気ない感じがしますが(笑)。でもだからこそ僕は、楽譜を読んで、パズルのような構造を理解するということが、昔から苦でないのかもしれません」

舞台で誰かに音楽を届ける感触を味わい続けていたい

 そんな久末さんが、これからの長い音楽家人生で大切にしていきたいことは?
「舞台で誰かに音楽を届ける感触を味わい続けることですね。今後、仮に教える立場になったとしても、ソロや室内楽などどんな形でも舞台に立っていたいです。
 演奏家は、先行きが確証されない中でも、それぞれが表現したいものを表現し続けていく仕事です。音楽のように目に見えないものを扱うのは、とても難しいことです。その緊張感に自分をさらし、身を削り続けていなければ、音楽の本質には肉薄できないように思うのです」
 そんな厳しい緊張も喜びに変えられる人でなければ、ピアニストとして生きていくことはできないのでしょうか。
「そうかもしれませんね。僕は自分ではわりと繊細なタイプだと思っているのですが、母からは “あんた、意外と図太いよ!”(※関西のイントネーションで)ってよく言われます(笑)」

 一人孤独にステージに立ち、ピアノ一台で自由に音楽を生み出してゆく、その魅力は昔から今までずっと変わらないと話していました。

取材・文:高坂はる香(音楽ライター)


公演特集ページでは、務川慧悟さんと久末航さんのインタビューを公開中!
ぜひご覧ください!


〈プロフィール〉

2025年エリザベート王妃国際音楽コンクールで日本人史上最高位となる第2位を受賞し国際的に注目を集める。2017年ミュンヘン国際音楽コンクールで第3位および委嘱作品特別賞を受賞するなど国内外で多数受賞。ヨーロッパ各地の音楽祭に出演しており、バイエルン放送交響楽団やブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、東京都交響楽団などと共演。2021年CD「ザ・リサイタル」、2025年GENUIN classicsよりデュザパン作品集「Did it again」をリリース。第36回日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、第35回出光音楽賞受賞。

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〈公演情報〉

務川慧悟×久末航 Pianos' Conversation 2026
2026/9/6(日)
会場:Bunkamuraオーチャードホール

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