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2026.06.15 UP
務川慧悟×久末航 インタビューを公開!
日本各地、海外で活躍中のお二人。忙しい合間を縫って本公演のインタビューにお答えいただきました。
—お二人は留学先のパリで知り合っているそうですね。
務川 僕が当時勉強していたパリのコンセルヴァトワールに、航がフライブルクから1年間交換留学に来たんです。その後彼はドイツに帰ったのですが、数年後、年に4回くらいエコール・ノルマル音楽院の講習会を受けるためパリに来ていて。
久末 そう、その時にいつもむーご君(※務川の愛称)の家に泊めてもらっていました。
務川 ある時、遊びで一緒にベートーヴェンの交響曲の4番を連弾したら、近所の人から聴かせてほしいとリクエストされて、その人の前で二人で弾いたことがあったよね。
久末 そんなことがあったね。
務川 今回それを思い出して、航はベートーヴェンを得意としているし、いつかやってみたいと思っていた憧れの曲である「第九」を一緒に弾こうと提案したんです。
久末 そういう理由だったんだ!務川くんといえばフランスもののイメージが強いし、まさかの提案で驚いていたんだけど、きっかけがなければ取り組めない曲なので楽しみです。
務川 あとは去年、阪田知樹さんと共演して、この広いホールなら大きな曲をやってみたいと感じたこと、2027年のベートーヴェン・イヤーに向けて最近晩年の作品を研究していることなど、いくつかの理由が重なりました。

—共演者に久末さんをご指名されたのは?
務川 まずはピアノが上手いから!あとは、学生時代の友達と弾くことをやってみたかったこと。それから、前回の阪田くんと僕は一緒にエリザベート王妃国際音楽コンクールに入賞していて、航は去年行われた次の回で入賞したので、そのつながりも意識しました。
—久末さんは、オファーを受けていかがでしたか?
久末 すごく嬉しかったですね。僕は2台ピアノの経験が少ないのですが、難しい分野だと思っています。他の楽器とのデュオと違い、音量がワッと出るピアノ同士は音が飽和しかねないので、バランスの取り方が難しそうで、本当に気をつけないと良い音楽にならないのではないかと感じるのです。務川君とそんなチャレンジングな分野に取り組めるなんて、とても贅沢な機会です。
—前半はフランス音楽が並んでいます。
久末 ベートーヴェンに何を合わせようかという話になったとき、せっかく務川君との共演なのでフランスものをやりたいと僕がリクエストしました。ビゼーの連弾曲「子供の遊び」は、あまり演奏される機会がないと思いますが、彼が提案してくれて。
務川 2台ピアノと連弾は求められるものが違って、個人的には連弾の方が難しいと思います。弾ける鍵盤の範囲が狭いし、ペダルも片方使えないという、普段慣れているのとは違う形でピアノを弾かなくてはいけません。作品によって、2台ピアノでも連弾でも演奏可となっているものもありますが、どちらの形をとるかで響きも変わります。そんな違いを聴いていただくのもおもしろいと思って、連弾作品を入れたいと思いました。
—後半は「第九」です。お二人にとってどんな作品ですか?
久末 僕は19歳でドイツに行きましたが、その前まではベートーヴェンの魅力を十分に理解できていなくて、むしろショパンやリスト、ラフマニノフをよく弾いていたんです。
務川 そうなんだ、意外!
久末 そう。でもドイツで暮らし、ドイツ語を話し、日々の営みの中でベートーヴェンなどドイツの音楽に親近感を持って過ごして十数年となった今は、レパートリーの中で重要な存在になりました。ヴァイオリン・ソナタは10曲やりましたし、32曲のピアノソナタも、いつか全曲弾けたらどんな景色が見えるのだろうかという好奇心があります。毎曲、前の時代の人が考えつかなかったようなことを試み、それを芸術として昇華させた、本当にすごい所業です。
「第九」もベートーヴェンの作品の中のマイルストーンのような存在ですから、弾き終えたとき新しいものが見えるのではないかと期待しています。
務川 僕にとって「第九」は好きとか嫌いという次元を越えた特別な作品です。ベートーヴェンは20代でシラーの詩に出会い、曲を書きたいと思ったけれど、それに見合った音楽を作れるようになるまで温め、50代になってこの交響曲を書きました。
そのメッセージは、例えばソナタ型式にある第一主題、第二主題、展開部で物事を区切る考え方……つまり人種などで区別する考え方を取り払おうとしたということなのだと思います。過去にあったものを否定してより良いものを目指す、いわゆる弁証法の試みでもあります。それをまず最後の3つのピアノ・ソナタで行い、さらにその試みが結実したのがこの「第九」だと思います。
リストの編曲版で、ベートーヴェンのメッセージをどこまで蘇らせて弾くことができるか取り組んでみたいと思いました。……70分もかかる作品なのに、付き合ってくれてありがとう(笑)。
久末 こちらこそ誘ってくれてありがとう(笑)。フランスものから「第九」まで、メリハリがあり聴きごたえたっぷりのプログラムなので、ぜひ皆さんに楽しんでいただきたいですね。

—お互いの音楽性のどこに魅力を感じますか?
務川 航のすごいところは、僕の百倍ぐらい音楽の理解力が高いこと。構造を浮かび上がらせるような演奏ができるところを尊敬しています。あと、ドイツものもすばらしいけれど、フランスものや近現代を弾いてもとても音楽的で、それぞれで自分の個性を出すというより、作品を第一にした姿勢を貫いているところも素晴らしいと思います。
久末 僕が務川君からいつも感じるのは、まっすぐな音楽への想いや、純粋に音楽が好きでピアノを弾いているという姿勢、幅広いレパートリーに向き合う好奇心や器の大きさです。自分で考え、感じたことを、奇を衒うことなくまっすぐに表現していることが伝わってきます。
音楽だけじゃなくいろいろなものにこだわりが強いタイプだとは思うのですが、それに嫌味がなく、彼の中でごく自然に行われていることなのだとわかります。やろうと思ってできることではないと思います。
—逆にお互いにびっくりした一面はありますか?
務川 航が僕の家に泊まっていた時、本番のために準備してるわけでもないのにデュティユーのソナタの出だしを暗譜で弾いていて、これって暗譜に100年かかるといわれるような作品だから、結構衝撃を受けましたね!初見がすごく早いという噂を聞いたこともあります。あと、練習しないといけない曲があるはずなのにうちの読書チェアに座って一日中本を読んでいて、大丈夫なのかなと思ったこともあります(笑)。
久末 ……本がおもしろくてつい練習そっちのけになってしまったのかな(笑)。務川君はこだわりが強い一面もありますが、このクセものぞろい(!)の音楽界のなかで本当に表裏のない人なので、心から信頼できるんです。それが10年前に出会った時から今までずっと変わっていなくて、嬉しいですね。

—最後に、今回のデュオの演奏に期待してほしいことをお願いします!
務川 2台ピアノは室内楽のなかでも相手との距離が一番遠く、弾き姿が見えないので、確かに難しいところはあります。でも、ピアノの形はうまく2台を組み合わせて置けるようになっていますし、一つの弦が他の弦に共鳴して生まれる響きが2台で噛み合って、相乗効果を生むことがあるんです。僕はそれを実際に経験したことがあるので、2台ピアノの可能性をすごく信じています。
久末 どんなセッションになるのか、我々自身も読めないのですごく楽しみです。室内楽的に二人で一つのものを目指すのか、ソリスト同士のやりとりみたいになるのか、楽しみであり、心配であり……。
務川 心配なの!?
久末 いや、楽しみ(笑)!それぞれが持つ音も全く違うので、それがどう共鳴するのか、どんな化学反応が起きるのか、会場で体験していただきたいですね。
務川 そう、同じ個性同士で合うこともあるけれど、すぐ聴き分けられるほど違う音色の持ち主同士で役割分担が明白になった結果、おもしろくなることもあるんですよね。やってみるまで全く予想がつきませんが、ぜひ期待して聴きに来ていただきたいです!
取材・文:高坂はる香(音楽ライター)