深く知り、さらに楽しむウェブマガジン

vol.30 2013年

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、イリ・ブベニチェク振付作品をパリ・オペラ座エトワールが踊った『ブベニチェク・ニューイヤーガラ カノン』や、唐十郎と蜷川幸雄が組んだ伝説の舞台『盲導犬』『唐版 滝の白糸』の再演など、2013年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。

■オーチャードホール①:ポーランドの鬼才振付家の新作バレエを世界初演!『ブベニチェク・ニューイヤーガラ カノン』を開催

ハンブルク・バレエでプリンシパルとして活躍後、ドレスデン・バレエで振付の才能を開花し、たちまち世界が最も注目する振付家の一人となったイリ・ブベニチェク。Bunkamuraプロデュースの『エトワール・ガラ』に2005年の第1回公演から連続参加し、その魅力は日本の観客にも広く知られています。そんな彼の代表作から日本初演作、さらに世界初演作まで披露する『ブベニチェク・ニューイヤーガラ カノン』を2013年1月にオーチャードホールで上演しました。
本公演で上演したのは、ブベニチェクの代表作「ル・スフル・ドゥ・レスプリ~魂のため息~」、日本初演となる「トッカータ」「牧神」「ドリアン・グレイの肖像」、そして世界初演作「プレリュードとフーガ」の5作品。なかでも「プレリュードとフーガ」は、ドロテ・ジルベールとエルヴェ・モローのパリ・オペラ座エトワールのために振り付けられたもので、2人は強靭なテクニックと情感あふれる踊りを披露。古典バレエの舞踊技術に斬新な変容と解釈を加えたブベニチェクならではの現代バレエは、バレエ初心者から長年のファンまで幅広い観客に歓迎されました。

世界初演となった「プレリュードとフーガ」は、ブベニチェクが2人のエトワールとBunkamuraのため新たに振り付けたもの。ブベニチェクの代表作「ル・スフル・ドゥ・レスプリ~魂のため息~」では、はつらつとした若さと死を暗示する静けさが交錯した振付を「G線上のアリア」と「カノン」のメロディに乗せて踊り、観客を深い内省の世界へと誘いました。

■オーチャードホール②:現代最高峰のフラメンコダンサーが2年ぶりに来日!マリア・パヘス舞踊団『UTOPÍA〜ユートピア〜』を上演

そのドラマチックかつスタイリッシュなフラメンコスタイルで日本にもファンが多いマリア・パヘスが、フラメンコ最大のフェスティバル「ヘレス・フェスティバル2012」で観客賞を受賞した新作『UTOPÍA〜ユートピア〜』をひっさげて2年ぶりに来日。自ら率いる舞踊団と共に、2013年5月にオーチャードホールで上演しました。
本作は、16世紀の思想家トマス・モアが描いた架空の国「ユートピア」を題材に、アレグリアス、タラント、ファルーカなど伝統的なフラメンコ楽曲の他に、ブラジル人歌手のフレッド・マルティンズのオリジナル曲を加えた全8場面で構成。製作にあたって建築界の巨匠オスカー・ニーマイヤーの作品にインスパイアされたというマリアは、シンプルながら様々なニュアンスを醸し出す舞台空間で、ニーマイヤーが愛する“自然が生み出すライン”を自らの身体に投影することで心の理想郷を体現。従来の華やかさが光るパフォ-マンスとは違ったアーティスティックな表現で新境地を開拓し、観客を自らのユートピアへと誘いました。

ニーマイヤーの「(建築は)夢とファンタジーで作られる」という言葉に導かれたステージは、天井から3本のスチール棒が吊るされているだけと至ってシンプル。そうした空間に立った主役のマリアは、赤のドレス、白のバタ・デ・コーラ、抜群のスタイルを際立たせるズボン姿など、華やかな色とデザインでアクセントを付けながらアーティスティックな踊りを披露しました。

●シアターコクーン:蜷川幸雄が唐十郎の名作戯曲に再び挑む!『盲導犬 ―澁澤龍彦「犬狼都市」より―』『唐版 滝の白糸』を上演

現代演劇を代表する劇作家・唐十郎と演出家・蜷川幸雄が初めて組んだのは、1973年に唐が蜷川率いる櫻社のために書き下ろした『盲導犬』でのこと。1989年の再演から十数年の時を経た2013年、この伝説の初タッグ作品を『盲導犬 ―澁澤龍彦「犬狼都市」より―』というタイトルで蘇らせ、7月にシアターコクーンで上演されました。
本作は新宿駅・地下街のコインロッカーを舞台に“伝説の盲導犬”を探し求める盲目の男を描いた物語で、初演当時は1970年代の世情を反映した内容から「アジテーション演劇」とも評され強烈な印象を残しました。蜷川は大劇場で行った1989年の再演を「後悔が山のようにある」と振り返り、「70年代初期の怪しげなにおいを出したい」という思いから舞台を初演と同じ規模に小さくし、音楽も初演に戻すことにこだわりました。そうしたシンプルな世界観を、古田新太、宮沢りえ、小出恵介ら魅力的なキャストが体現。普遍的なテーマを備えた70年代の傑作に新たな命を吹き込み、現代の観客を魅了しました。

『盲導犬 ―澁澤龍彦「犬狼都市」より―』は古田新太や宮沢りえを筆頭に、確かな演技力を誇る実力派キャストが集結。猥雑でいて透明感にあふれるセリフ、日常の世界から別空間へと飛躍するダイナミズム、そして底辺を生きながらも高潔な魂を感じさせる剥き出しの登場人物たちが集う、唐と蜷川の劇世界を体現しました。

さらに同年10月には、同じく唐と蜷川のタッグ作であり、1975年の初演を含めて過去に3度上演された『唐版 滝の白糸』を上演しました。本作は、心中の生き残りである水芸人、孤独な少年、過去を追い求める謎の男を中心に織りなす演劇スペクタクル。蜷川が「俳優が変わることで生まれ変わる」と語るように、時代ごとに新たな俳優を迎えて再演が重ねられ、今回は宝塚歌劇団を退団し初めて“女優”として舞台に立つ大空祐飛を、窪田正孝と平幹二朗が支えるという異色の布陣が実現。哀しくも痛切な抒情が込められた台詞の数々、そしてクライマックスの壮大な水芸など、唐独自のロマンティシズムと蜷川のダイナミズムが融合する見ごたえ満点の舞台となりました。

『唐版 滝の白糸』は1975年の初演時に通常の劇場では上演不可能とされる究極のスペクタクル性を伴う芝居でセンセーションを呼んだ伝説の作品。今回の再演では、宝塚歌劇団を退団したばかりの元宙組男役トップスター・大空祐飛が宝塚以外のストレートプレイで初めて女性役を演じたことでも話題を集めました。

▼ザ・ミュージアム:「500年に一人の禅僧」と称えられた禅僧の初めての本格展『白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ』を開催

江戸時代中期の禅僧であり、自らの生涯を民衆教化に捧げた白隠慧鶴(はくいんえかく)。その手段として彼が残した大量の書画を全国各地から集めた、史上初めての本格展『白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ』を2012年12月から2013年2月までザ・ミュージアムで開催しました。
白隠が描いた画題は、禅宗の初祖である達磨や観音といった仏教的なものにとどまらず、七福神やお福など庶民信仰に基づくもの、また猿や鼠を擬人化したものなど多岐にわたっています。本展では、合計で1万点を超えるとされている作品群の中から、大作を中心に100余点を厳選して展示。多くは絵と言葉を対にした画賛形式で構成される白隠禅画に、白隠研究の第一人者である禅宗史研究者・芳澤勝弘氏と美術史家・山下裕二氏の共同監修による分かりやすい解説を添え、時にユーモアを込めながら白隠が書画に託したメッセージを21世紀に生きる人々へ届けました。

巨大な頭にギョロっとした目が印象的な白隠の代表作《半身達磨》は大分・萬壽寺の所蔵で、関東地方で公開されたのは今回の展覧会が初。ほかにも各地の寺院や個人コレクションとして散在していたユニークな書画の数々を一度に鑑賞できるよう、40数カ所の所蔵者から大作を中心に約100点を厳選して一堂に集め、質・量ともに史上最高の白隠展となりました。

◆ル・シネマ①:“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンの出演作『偽りなき者』『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』を連続上映

デンマークが世界に誇る国際派俳優としてハリウッドでも活躍し、“北欧の至宝”と称えられているマッツ・ミケルセン。そんな名優の真髄を堪能できる2作品『偽りなき者』『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』を、それぞれ2013年3月と4月にル・シネマで上映しました。
『偽りなき者』はミケルセンの母国デンマークを代表する名匠トマス・ヴィンターベア監督が手がけたヒューマンドラマ。幼い少女のささいな噓をきっかけに人生を狂わされていく男の哀しみ、怒り、絶望を、ミケルセンは静かな眼差しで雄弁に表現し、見事にカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。その眼差しは、スクリーンの向こうの観客の心の底まで射抜くような力強さで、人間の尊厳のもろさを問いかける作品テーマが観る者の胸に刻み込まれました。

幼い少女の作り話を妄信する人々に変質者の烙印を押され、身の潔白を証明しようとするが誰も耳を傾けてくれず、仕事も親友も失ってしまう…。そうした孤立無援の逆境に立たされてもなお、自らの尊厳を守り抜くため苦闘する平凡な男性をミケルセンがリアルに熱演。その抑制の利いた演技で観客の胸をぎゅっと締め付けました。

一方の『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』も、ベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝き、アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表に選ばれるなど、高い評価を得た歴史ロマンス。18世紀のデンマーク王室で実際にあった王と王妃と侍医の三角関係という一大スキャンダルを、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の脚本家ニコライ・アーセルが絢爛豪華な映像美とともに織りなしています。本作でミケルセンは三角関係の当事者である侍医を気品豊かに演じ、王と王妃を同時に魅了する気高いオーラを存分に振りまき、観客をも虜にしました。

王室での三角関係というデンマークで誰もが知る歴史的スキャンダルを、ことさらセンセーショナルに取り立てるのではなく、その奥にあった人間ドラマを掘り下げる形で物語を構築。ミケルセンはドイツ人医師ストルーエンセに扮し、侍医の身分で王に取り入って王妃と愛し合う様をポニーテール&コスチューム姿で色気たっぷりに魅せました。

◆ル・シネマ②:憧れの老舗高級デパートの表と裏に迫る『ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート』を上映

世界中の女性たちが夢中になった大ヒットTVドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』にも登場した、ニューヨーク5番街にある老舗デパート、バーグドルフ・グッドマン。モデルやセレブをも魅了する、世界のファッション・アイコンと呼ぶべき百貨店の表と裏を覗くことができる魅惑のドキュメンタリー『ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート』を2013年10月にル・シネマで上映しました。
本作には、ジョルジオ・アルマーニ、マノロ・ブラニク、マーク・ジェイコブス、クリスチャン・ルブタンなどそうそうたる有名デザイナーが登場し、世界の最先端を走り続けるバーグドルフ・グッドマンの特別な魅力を証言。さらに、存在自体がアートとも称されるショーウィンドウへのこだわりなど、夢のような世界が作られていく過程も紹介。世界的なファッション・アイコン百貨店を支えるプロフェッショナルたちの熱量を通じて、観客を“バーグドルフ・グッドマンの魔法”にかけました。

厳選された世界の一流ブランドを集め、新人デザイナーの発掘や芸術的なウィンドウディスプレイなど斬新なアイデアでファッション業界をリードしてきたバーグドルフ・グッドマン。憧れの老舗デパートに特別な思い入れを持つ大物セレブや有名デザイナーたちの貴重な証言や愉快な逸話などを集め、その魅力を紐解くドキュメンタリーに仕上がりました。