深く知り、さらに楽しむウェブマガジン

vol.31 2014年

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、Bunkamuraが開館25周年を迎えた2014年をクローズアップ。熊川哲也が総合監修を務めた夢の祝典『オーチャードホール25周年ガラ~伝説の一夜~』や、文学界の鬼才・古川日出男の一大叙事詩に蜷川幸雄が挑んだ『冬眠する熊に添い寝してごらん』など、記念すべき年にふさわしい特別公演や展覧会を紹介します。

■オーチャードホール:日本を代表する至宝のアーティストたちが勢揃い!Bunkamura25周年記念『オーチャードホール25周年ガラ~伝説の一夜~』を開催

Bunkamura開館25周年という記念の年を祝福すべく、オーチャードホールの上演演目の軸を成すオペラ・バレエ・クラシック音楽を総合的に構成する豪華なガラ公演が実現。2012年に芸術監督に就任した熊川哲也の総合監修で贈る『オーチャードホール25周年ガラ~伝説の一夜~』を、2014年9月にオーチャードホールで開催しました。
本公演では、熊川と吉田都という日本が生んだスターダンサー2人が7年ぶりに競演したほか、国内外の音楽監督を歴任する指揮者の広上淳一、東急ジルベスターコンサートへの出演経験もある人気歌手の森麻季、幸田浩子、錦織健らオーチャードホールに縁の深いアーティストが一堂に集結。オペラ歌手とダンサーが同じ舞台に立つという、祝典ならではの特別な一幕も。さらに、熊川が選んだ次世代の才能あふれるダンサーたちも出演し、Bunkamuraの25年の集大成を見せるとともに、これからのBunkamuraの未来を予感させる夢のステージとなりました。






Bunkamuraの開館日にあたる9月3日を含む2日間にわたってガラ公演を実施。これまでオーチャードホールには多くのアーティストが舞台に立ってきましたが、クラシック、オペラ、バレエなどジャンルを超えて一堂に会するのは極めてまれ。バレエとオペラの複合ガラという劇場初の試みを通じて、そうそうたるスターたちがオーチャードホールに祝福を捧げました。

●シアターコクーン:文学界の鬼才・古川日出男の書き下ろし戯曲を蜷川幸雄が演出!『冬眠する熊に添い寝してごらん』を上演

圧倒的な言葉のリズムとイマジネーションで読者を幻惑し、文学界の枠を超えて多方面に熱狂的なファンを持つ人気作家・古川日出男。そんな独自の世界観に惚れ込んだ蜷川幸雄が戯曲の書き下ろしを持ち掛け、自ら演出を手がけた『冬眠する熊に添い寝してごらん』を、Bunkamura25周年記念企画第1弾として2014年1月にシアターコクーンで上演しました。
本作は、伝説の熊猟師の子孫である兄弟を中心に、100年の時空を超えてヒトと熊と犬をめぐって織りなす一大叙事詩。初めて古川作品と対峙した蜷川は、出来上がった奔放な戯曲を「古川さんからの楽しい挑戦状」と受け止め、いつしか忘れ去られた日本の近現代史の闇をも演劇的に具体化。さらに、蜷川作品に初挑戦した人気アイドルの上田竜也を中心に、若手とベテラン世代の俳優たちが絶妙な化学反応を生み出し、文学界の怪物が創造したパワフルなイマジネーションを体現して観客の度肝を抜きました。

蜷川から戯曲の書き下ろしを持ちかけられた古川は、「やるからには小説家として勝負しよう」と決意。一気に時間が遡るかと思えば、阿弥陀如来や回転寿司の機械が突然登場するなど、奔放なまでに自由な物語を大量のト書きと共に執筆しました。こうした演出家への挑戦状とも言える戯曲に対して、蜷川はパワフルな演出やセットで作品のイメージを具現化し、観客を圧倒する世界を創出したのです。

▼ザ・ミュージアム:壁画の巨匠の日本初となる回顧展『シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界』を開催

19世紀フランスを代表する壁画家として知られ、マルセイユ美術館やパンテオンなどフランスの主要建造物の壁画装飾を次々と手がけたピュヴィス・ド・シャヴァンヌ。その一方、彼はイーゼル絵画においても才能を発揮し、数々の名作を残しました。そうした画業に迫る日本初開催の個展『シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界』を、2014年1月からザ・ミュージアムで開催しました。
シャヴァンヌが独自の解釈によって理想郷アルカディアを描き出した格調高い壁画の数々は、その含意に満ちた世界から象徴主義の先駆者として位置づけられていましたが、壁画という性質上、日本でまとまって鑑賞する機会がなかなかありませんでした。本展は、壁画として制作した作品を手元に残す目的でシャヴァンヌ自ら制作した縮小版を展示することによって実現したもの。イタリアのフレスコ画を思わせる落ち着いた色調を特徴とし、古典的様式を維持しながら斬新な芸術を築き上げたシャヴァンヌの真髄に触れる、貴重な展覧会となりました。

本展は、兄の邸宅のための壁画を皮切りに公共建築や美術館の壁画装飾を次々と手がけ、シャヴァンヌがフランスを代表する壁画家となっていった軌跡を4章に分類。世界の名だたる美術館が所蔵している作品を一堂に会し、神話に謳われた理想郷アルカディアをシャヴァンヌが自らの独創によって豊かに発展させていった創作の変遷が如実に分かる展覧会となりました。

◆ル・シネマ①:変化する中国の社会問題を映し出すジャ・ジャンクー監督の衝撃作『罪の手ざわり』を上映

2006年に『長江哀歌(エレジー)』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝き、世界的な評価を確立した中国の巨匠ジャ・ジャンクー監督。彼にとって同作から7年ぶりの長編映画となった『罪の手ざわり』を、2014年5月にル・シネマで上映しました。
本作は、中国で実際に起きた4つの事件を基に、中国が急速に近代化していく中で生じる“貧富の格差”などのひずみにもがき苦しむ人々が犯してしまった罪を、監督自ら脚本も執筆して描き出したオムニバスドラマ(カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞)。登場人物の一人ひとりはどこにでもいそうな普通の人たちであり、だからこそ彼らが体験する悲劇がリアルに映るという、ドキュメンタリーのような作風を持ち味とする監督の真骨頂。これまでの作品にない暴力的場面も大胆に盛り込み、見る者を打ちのめす衝撃作となりました。

中国のどこにでもいる普通の人々の物語であることを伝えるため、ジャ監督はベテラン俳優から演技のキャリアを持たないものまで幅広く起用。監督作品の常連チャオ・タオのほか、ロケ地でキャスティングした素人の人々も混ぜて物語にリアリティをもたらし、日本でも問題化している社会格差をまざまざと描き出しました。

◆ル・シネマ②:イタリア映画の魅力が詰まった傑作『グレート・ビューティー/追憶のローマ』を上映

古くはフェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティなど、イタリア映画には独自の美学でファンを魅了する名匠が数多く存在しました。その系譜を21世紀に受け継ぐ鬼才こそが、『きっと ここが帰る場所』で高い評価を集めたパオロ・ソレンティーノ監督。彼が同作の次回作として発表し、アカデミー賞外国語映画賞を獲得した『グレート・ビューティー/追憶のローマ』を2014年8月にル・シネマで上映しました。
本作の主人公は、若くして成功を収めて以来、ローマで優雅にして退廃的な日々を送ってきた老ジャーナリスト。夜な夜な華やかなパーティを渡り歩いていた彼が、やがて大きな喪失感に見舞われてローマの街をさすらうという“退廃と空虚”は、さながらフェリーニの傑作『甘い生活』の現代版。ソレンティーノ監督の盟友であるトニ・セルヴィッロのダンディな演技や、長い歴史を重ねてきたローマの街の魅力をとらえた華麗な映像美も相まって、観客を魅了しました。

初恋相手だった女性の訃報を聞いて心に穴が開いた老ジャーナリストが、偉大なる美が集うローマで人生の価値を求めてさまよう様を、ソレンティーノ作品常連のトニ・セルヴィッロが好演。一方で監督は朝焼け、夕暮れ、夜の闇に浮かび上がるローマのさまざまな表情も映し出し、セレブの退廃的な美の世界と悠久の歴史とのコントラストを映し出しました。