20年以上前のことです。
大人計画を初めて見に来た蜷川幸雄さんと楽屋前でお会いしたとき、蜷川さんは、「うんうん」というような表情をしていらっしゃいました。それは「コクーンをまかせた、松尾くん」という意味合いだったと思う。もちろんそれは、今後のコクーン、という意味ではなく、来年あたりのコクーン、ということで、わたしが初めてコクーンに書き下ろした『キレイ』を観た蜷川さんは、がぜんご立腹だったとか。
その頃わたしは、コクーンの演出席にいながら、コクーン的なるものと必死で抗っていたわけですから。当然のリアクションです。
しかし、気がつけば、20年以上新作や再演をコクーンでやり続け、さらに気がつけば、芸術監督までやっておる次第で、コクーン的なるものと抗い続けていたはずのものが、しれっとコクーンの内部にいるという状況に、天国の蜷川さんは納得してくださったのかどうか…。
ともあれ、就任した途端、コロナ禍となり、それもあけぬまま、休館の憂き目。まだ、なんの爪痕も残せぬままであります。
『シブヤデマタアイマショウ』
この言葉は、未練でしょうか。開き直りでしょうか。蜷川さんへの懺悔でしょうか。
せめて長いお別れの前の一夜の祭りだけは、バカみたいに明るく成し遂げたいと思っております。
総合演出 松尾スズキ