
INTRODUCTIONみどころ
松尾スズキ2年ぶりの新作!!
小説家ツダマンをめぐる
狂気のメロドラマ
「師匠である私から、弟子である君に、悪いお知らせがあるんだ…」
作・演出を務めるのは、シアターコクーン芸術監督松尾スズキ。2年ぶりとなる期待の新作『ツダマンの世界』では、日本の昭和初期から戦後を舞台に、主人公「ツダマン」を取り巻く人々の濃密な愛憎劇を描きます。
今回松尾は作・演出のみならず、劇中に登場するオリジナル楽曲の作曲を自ら手掛けます。これまでの公演でも作詞や作曲を行ってきましたが、全編にわたる作曲を自らが手掛けるのは初の試みとなります。
物語の主人公・ツダマンこと、弟子に翻弄される小説家・津田万治を演じるのは、阿部サダヲ。自己愛と名声欲の強い弟子・長谷川葉蔵には間宮祥太朗。この物語の語り部となる女中・オシダホキには江口のりこ。葉蔵の世話係・強張一三には、村杉蝉之介。劇団員で歌手志望の津田の愛人・神林房枝には笠松はる。葉蔵と関係を持とうとする謎の文学少女・兼持栄恵には見上愛。ツダマンの友人の小説家・大名狂児には、皆川猿時。そして津田万治の妻・津田数には吉田羊。さらに町田水城、井上尚、青山祥子、中井千聖、八木光太郎、橋本隆佑、河井克夫ら実力のある舞台俳優らが集結。
松尾スズキが描く濃密な人間ドラマ『ツダマンの世界』にご期待ください。
松尾スズキ コメント
昭和の文豪たちの逸話を読むたび“この人たちやってること滅茶苦茶だな”と思うのに、今では人から許され、愛され、尊敬されている。そうやって近代文学というジャンルを切り開いたパイオニアたちが、コンプライアンスという概念がない時代に、意外と狭い世界でもつれあい周囲を巻き込んで愛憎を繰り広げる悲喜劇姿にはエモさを感じるんです。そんな彼らの生き様を、文学に憑りつかれたエリートたちに巻き込まれた名もなき人々への鎮魂の意味も込めて描いていきたい。
また、個人的には自分の父親が佐賀県にいて原爆のキノコ雲を目にしていたりして、年齢的に戦争というものと地続きのところにまだ自分はいると感じられる今だからこそ、ここで少し戦争の話を書いておきたいという考えもありました。期せずして、まさに戦争が身近に感じられるタイミングになってしまったわけですが。とはいえ、実はちょうど現在のこの紛争が起こった当初、自分はギックリ腰になってしまっていて、それはそれで大変な時期だったんです。個人の中の宇宙とは、現実の戦争に匹敵するほどのカオスでもある。そういうことも今回、書きたいと思っています。実際に戦時中も、まったく関係のないことばかりをのんきに書き綴っていた作家もいて、そういう人たちの中の個人的な宇宙では、きっと戦争はまた別の世界線という認識で捉えられていたはず。とにかくそれぞれの人間の中に広がる宇宙というものは、どでかいんです。振り返ると結局、自分はこれまでそういうことばかり書いている気もしますけど。
今回、阿部に演じてもらう津田万治という男は、周囲の人たちがみんな極限状況で、直情的に気持ちを表す中、一人だけちょっと何を考えているかわからない、不気味な空洞のような人物。彼に関わる人がみんな、抱く印象がそれぞれ違ってくるような不思議な人物像で、その彼の世界をいろいろな人が口々に語るような話になると思います。
僕が芝居を作る時にいつも思うのは“人間の頭の中は何があろうと自由だ”、ということ。そして同時に“劇場の中も常に自由でありたい”、ということ。今回はそれを上回り、“日常生活にまで自由が溢れ出してしまっている”、そんな人たちの頭の中を覗ける劇体験をぜひとも味わっていただきたいと考えています。
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