岩松了×森田剛 待望の初タッグが実現
「純愛」のない世界で、「恋愛」の本質を探る
「恋愛なんて誤解にすぎない」とはよく言うものの、誤解が解けたときにはたいてい愛も覚めているのだから、果たして「純愛」なんてものは存在するのだろうか。劇作・演出家、岩松了が、3年半ぶりにシアターコクーンで発表する新作『空ばかり見ていた』は、そんな誤解に気づきながらもなお、恋愛をまっとうしようと葛藤する青年の物語だ。
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「恋愛がそれ単体では成立しない面白さを描きたかった」と岩松は執筆の動機を語る。「たとえば社長の娘と恋をしている男が、社長との仲をこじらせると、娘との関係も悪くなっちゃう。だとすると、それは純粋な恋じゃない。男は、俺はそんなに不純なやつだったの? と自分を責めたりする。じゃあ、その恋愛を全うするために結婚するのか……そんなふうに考えていく流れには、どこか悲劇色がある。もちろん、喜劇でもあるけどね」。
そんな悲喜劇にあふれた恋愛の深層を探るために岩松が選んだ背景は「内戦」。劇中では、敬愛する反政府軍のリーダーの妹と恋に落ちた男と、恋人と兄との関係により近づくため戦闘員に志願する女との揺れ動く関係が、時に大胆に時に緻密に紐解かれていく。欲望と人情が交錯するヤクザの人間模様を描く『シダの群れ』シリーズ(10年、12年、13年)、帰還兵とその家族の葛藤を追った『青い瞳』(15年)など、岩松が描く「戦争」や「暴力」は、これまでにも、人間の心理、その不条理を、残酷なまでに浮き彫りにしてきた。今回も、戦闘シーンこそないが、非常時ならではの緊張感が登場人物たちの心模様をジリジリするほどリアルに伝える舞台になるだろう。
また、今回は、主人公の青年役に、岩松作品初参加の森田剛が挑むのも話題だ。兵士の物語は「僕が好きな俳優は、ちょっと影があるような人」という岩松が、ここ数年、森田をイメージしてあたためていたものでもある。蜷川幸雄演出作品での硬質かつ孤独な存在感も印象に残る森田が、岩松戯曲との出会いを経て、どんな表情を見せるのか。見逃せないステージの幕が開く。