チェーホフの最高傑作『桜の園』が登場
串田和美がシアターコクーンに新たな伝説を生む
アントン・チェーホフの最高傑作にして生涯最後の戯曲『桜の園』は、『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』とともに「チェーホフ四大戯曲」と呼ばれ、1904年モスクワ芸術座での初演以来、世界中で親しまれ続けてきた西洋戯曲だ。日本では1915年の初演以来、現在まで繰り返し上演され、数々の名優たちが演じてきた。
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今回、演出を手がけるのはシアターコクーン初代芸術監督を務め、演劇界を牽引し続ける串田和美。今回が初めてのチェーホフ作品の演出となる。串田版『桜の園』は、原作をベースに独自の視点を加え新たな世界を構想している。チェーホフの短篇小説や一幕劇などを挿入し、俳優は『桜の園』の登場人物を演じるのみならず、あるときはチェーホフの小説に出てくる役を演じ、あるときは役の化身を演じる。魂のようなものが舞台一面に漂っているようなノスタルジックな世界を生み出すべく、様々な役を演じ分けることになりそうだ。
ロパーヒンを演じるのは、5年振りの舞台出演となる高橋克典。串田とは1999年『セツアンの善人』以来、久々にタッグを組む。ロパーヒンについて串田は次のように言っている。「『無法松の一生』の阪東妻三郎が演じた松五郎みたいな部分もある。農奴の出身の男が憧れの人のために生きるけど、そこには喜びだけではなく、哀しみもある」。さらに高橋が演じることについて「克典さんが撮影のときにソファに首を垂らす様子がロパーヒンの複雑な心情と重なった。克典さんは何を考えていたんだろう」と役の内面のイメージも膨らます。『24番地の桜の園』というタイトルも串田がシアターコクーンの住所から着想を得て付けたもの。「ロシアの話でありながら東北のさくらんぼ畑のような、重層的なイメージを感じる作品にしたい」とも語る串田は個性豊かな俳優陣とどのような魅力溢れる作品に仕上げていくのか。ここでしか味わえない『桜の園』が今から待ち遠しい。
原作『桜の園』あらすじ
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20世紀初頭のロシア。“桜の園”と呼ばれる領地。地主であるラネーフスカヤが娘・アーニャとともにパリから5年ぶりに帰国した。待ち受ける兄のガーエフ、養女のワーリャは再会を喜ぶが、一家の財産は尽き、地所の“桜の園”は売却を迫られていた。一家につかえてきた農奴の家の出であるロパーヒンは、今は若き商人として頭角を現している。“桜の園”の売却を避けるべく、ロパーヒンは別荘地として貸し出す事を提案するが、ラネーフスカヤとガーエフは現実を直視しようとしない。
娘のアーニャは、亡き弟の家庭教師であったトロフィーモフと未来を語り合う。ワーリャとロパーヒンは以前から互いに思い合っているが、どちらからも歩み寄れないままでいる。
“桜の園”が競売にかけられる当日にも舞踏会を開いているラネーフスカヤ。競売の行方に気もそぞろの夫人に、駆け戻ったロパーヒンが“桜の園”を競り落としたのは自分だと告げる――。