─KERAさんは『陥没』を含む「昭和三部作」を通して、描きたかったことはありましたか。
- KERA
- このシリーズを通して、なんとなく時代の裏側を描きたいという気持ちはありますね。今回は高度成長で浮かれている裏側にいる、浮かれてもいられない人たちを描くのが面白いかな、と。
─井上さんと小池さんは、昭和にどんなイメージがありますか。
- 小池
- バブル期に親が浮かれていたのが印象的でしたね(笑)。ジェットコースターみたいに思い切りのいい生き方をしていた両親と祖父母だったので。人生はギャンブルだというのが、私のモットーなんですけど(笑)、あの時代からも影響を受けているんだろうという気がします。
- 井上
- 昭和生まれだから、もちろん自分が知っている時代という感覚はあったんですが、最近は平成生まれが増えているじゃないですか。だんだん昭和が、自分たちにとっての明治、大正みたいなことになるのかと思うと不思議ですね。
- KERA
- 設定としてはオリンピックを目指して建てられた施設があって、建てた人は志半ばで死んでしまい、その人の娘と婚約者が結婚しないまま何年か経ってしまっている。この二人が揺れながら、刻一刻と変わる事態の中でどうしていくのか。井上くんと小池には、そのドラマを背負ってもらおうと思っています。
─KERAさんは、今回が井上さんと初めてのお仕事ですね。
- KERA
- 井上くんの舞台はこまつ座の『イーハトーボの劇列車』(2013年)で初めて観て、ミュージカルのようないわゆるショウではなく、お客が覗き見るような世界にいるのも似合うと感じたんです。それで楽屋で会ったときにぜひ一緒にやりたいと伝えた。ある種の生活感が感じられてそれが非常に魅力的だったんです。……もうちょっといい言葉がないかと思っているんですけど。
- 井上
- うれしいです。取材でKERAさんに起用された理由を聞かれる度に、僕が聞きたいですと言い続けていたので、そういうことだったのかと思いました(笑)。KERAさんの作品は拝見していましたが、なかなかお仕事での接点がないだろうと思っていただけに、声をかけていただいて、ぜひやらせていただきたいという気持ちでした。
- KERA
- だから、きっと新鮮な気持ちでやってもらえるんじゃないかな。小池には『グッドバイ』(2015年)の幕が開いてすぐに、こういう話があるけどやってもらえないかと伝えましたね。
- 小池
- うれしかったですけど、『グッドバイ』の出来栄え次第でこの話はなくなるのかな、というプレッシャーもありました(笑)。
- KERA
- (笑)。彼女はダメ出しの捉え方が的確で、最初から振り切って演じてくれるからやりやすいんですよ。違うときには全然違う! と言えばすぐに全く異なる方向から切り出してくれる。
- 小池
- 井上さんとは年齢は一つ違いだけど、歩んできた道が違うから、どういう意見、考え方で芝居を作られるのか興味深いですし、ご一緒することがいい刺激になると思います。
- 井上
- 僕は小池さんの舞台を拝見して、すべて持っていく印象があったので一緒にやりたくないなと思っていました(笑)。でも、やらせていただくからにはボロボロになろうとも、なにかを拾って帰りたいですね。
─お二人は、KERA作品のどこに魅力を感じているのでしょうか。
- 小池
- 私はあまり言葉の裏を考えずに発言したり、人の話を聞くタイプだから、KERAさんの作品を稽古でやってみると、さっきの会話がこんなことに繋がるなんて! と思うようなことが多くて。だからKERAさんの作品は騙す側に回れるのがうれしいですね。
- 井上
- 僕も、小池さんと一緒で素直なタイプなので、人の言葉に裏があるなんて思っていませんでしたね。25歳くらいでやっと反抗期が来て、なんでうちの親は裏側を教えてくれなかったんだと怒った覚えがありますから。役者として今、めっちゃ苦労してるじゃないか! って(笑)。だからKERAさんの世界に入るのは楽しみですけど、入りきれるかどうか挑戦ですね。ドロドロになって帰ってくるかも(笑)。
- KERA
- (笑)。これは二人を中心にした群像劇ですけど、これまでに僕が登場人物を全員、着地させられたと完全に満足できた群像劇は『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』(2012年)が初めてなんですね。この作品でも全員を着地させたいと思っていますし、そういう部分でも面白いものになるだろうと思います。