8月の家族たち August:Osage County

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2016.04.11 UP

【コラム】本日の家族たち Vol.1

仁義なき家族バトルはビターなコメディ
キャスト陣の火花散る白熱の稽古場

3月下旬、いよいよ『8月の家族たち』の稽古が始まった。キャスト・スタッフが全員揃う顔合わせの日、演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)は「この作品をコメディとしてつくっていきます」と宣言。台本だけ読むと母バイオレットは常に攻撃的で言わんでいいことばかり口にする毒舌家だし、母に翻弄されまくる三姉妹同士も実は微妙な関係性だし、劇中で明らかになる家族の秘密は爆弾級だし──と、シリアスに読めばとことんシリアスでヘビーな家族劇だと受け止めることもできる。ところがそこはKERAならでは、「関係性やトーン、目線から生まれるニヤニヤやクスクスでお客さんをリラックスさせたい。明らかに辛い中でも笑ってしまう、また笑いの中にも一抹の哀しみがあるというコメディにできたら」と、スタンスは明快だ。読み合わせを数日行ったあとは、立ち稽古に。さすがにこれだけ手だれ揃いのキャストだけに、戯曲の言葉が立体化してくるともう目が離せない。闘病のためとはいえ薬漬けでラリッてるのか生来エキセントリックなのか判然としないバイオレットの麻実れい、母親の一番の信頼を得ている秋山菜津子の長女バーバラは、夫ビルの生瀬勝久と何やら不穏な様子。心優しい次女アイビー・常盤貴子の秘密の恋にハラハラし、男を見る目のない音月桂の三女カレンは明らかにうさんくさい婚約者の橋本さとしにベタ惚れ。陽気な叔母の犬山イヌコと穏やかな夫・木場勝己という一見どこにでもいそうな典型的アメリカの夫婦にも“何か”がある。彼らの悩みのタネは、いつまで経っても“リトル”な息子チャールズの中村靖日だ。そしてそもそもの大騒動の発端となったこの家の主人、村井國夫のベバリーは、一体どんな夫であり父であり詩人だったのか?
からみ合った人間関係は、家族劇&群像劇の名手・KERAの的確な手さばきでみるみる明確になっていく。なにげない台詞のやり取りやリアクションで笑いが生まれ、シーンの意味がクリアになっていく様子にわくわくさせられる。まだまだ稽古序盤、劇中の白眉は、一家が勢揃いするスリリングなディナーのシーンだ。仁義なき家族バトルの行方、そして何よりバチバチと火花散る実力派同士の演技バトルを、刮目して見守りたい。


文:市川安紀  撮影:引地信彦