8月の家族たち August:Osage County

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2016.04.18 UP

【コラム】本日の家族たち Vol.2

毒舌ブラック・コメディ、ブロードウェイから東京へ
日本版カンパニーへの募る期待

2008年夏、ブロードウェイ。いまいちピンとくる舞台作品に出会えなかった中で、その年のトニー賞とピューリッツァー賞をダブル受賞したトレーシー・レッツ作「8月の家族たち」は大満足の観劇となった。それぞれ強烈な個性をもつ三世代家族が繰り広げる、上演時間三時間半のストレートプレイ。だが、長さをいっさい感じない。薬物中毒、アルコール中毒、離婚などなど、さまざまな問題、悩みを抱える登場人物それぞれが、ある事件をきっかけに一堂に会し、本音をむきだしにしてお互いを壮絶に罵り合う。その様はほとんど“人間動物園”さながら。けれども、決して品のない露悪趣味となることはなく、……この人たちの物語をずっとずっと見ていたい……と感じさせる奥の深いおもしろさがあるのだ。痛烈なブラック・ユーモアと乾いた哀しみとのさじ加減も絶妙で、爆笑に次ぐ爆笑の中に、人間存在の深淵を見る思い。そして、観劇後、泣きたいのに泣けないような、どこかせつない感覚にとらわれる。チームワークが大いに必要となる作品だが、キャスト全体のレベルも非常に高く、なかでも長女バーバラを演じたエイミー・モートンの演技は愛すべき人間くささを感じさせた。

その後、映画化もされたこの戯曲の日本版演出に、ケラリーノ・サンドロヴィッチが挑むという。彼自身が手がけた上演台本を読んだが、日本版キャストへの宛て書きがすばらしく、……あの人がこのセリフを……と、想像するだけで笑いがこぼれるほど。ブラックな笑いの中に人間を描く演出手腕は定評のあるところで、演出家とこの戯曲との出会いを喜ばずにはいられない。集結した豪華キャストも、……この人たちが家族って、いったいどんな生活が繰り広げられるんだ~……とわくわくせずにはいられない実力派、個性派揃い。薬物中毒&認知症ゆえか話し相手を激しく攻撃しまくる母バイオレットに扮する麻実れいは、「KERAさんはしぶとく何度もくりかえす辛抱強い演出家。作品への愛を感じますね。キャスト、スタッフ全員で腕を組んで作品に向かっていっている感じで、いい舞台になると思う」とカンパニー全体への信頼を語る。一見奔放な中に思いを秘めた三女を演じる音月桂も、「ほめて伸ばすタイプの演出をされるKERAさんのもと、この素敵なキャストの方々と本物の家族以上の家族になれたら」と意気込みは熱い。共に宝塚歌劇団雪組トップスターを務めたこの二人が母と娘として火花を散らす様もまた楽しみだ。今回の上演が実現して、日本の演劇ファンは実に幸せである。

文=藤本真由(舞台評論家)