2015.03.13 UP

プロダクションノートVol.6公開!

ダンサー・インタビュー

巨大なプルートゥや小さなロボットたちを操作し、アトムたちヒューマノイドに寄り添い、数十パターンにおよぶパネルを瞬時に組み立て、 ボラーを現出させ……。ラルビのアイデアを具現化して『PLUTO』の舞台化を実現させた真の主役、ダンサー8人のコメントです。

 

紅一点のAYUMIさんは、関西に拠点を置くヒップホップ系の注目株。マニピュレイターとしてウラン/ヘレナに寄り添いながら、最後にウランと別れて、ひとり弾けるように踊るソロが印象的だ。

AYUMIさん  「あそこは、マニピュレイターがウランちゃんから『さようならー』って離れていく場面なんです(そういえば確かに2人はお互い手を上げて挨拶を交わしているように見える)。ラルビには『とりあえずAYUMIらしく踊ってくれ』とだけ言われたので、毎回、感じたままに動くようにしています。女性どうし、強力なパワーを、下にいる私からウランちゃんへ与えるつもりで踊ってます。あそこ以外は、マニピュレイターもパネルも、ぜんぶ、作り込まれた動きをしっかりやらなければいけなくて、つねに頭を回転させて集中していないと、間違ってしまうんです。ずっと緊張しているので、唯一、あそこで爆発しないと発散させるところがないんです(笑)。完全に自由に、感性でいってますね。 こうやってお芝居的なことなど、ダンス以外のことをするのは初めてですけど、絶対に必要なことやなって思いました。踊るのが上手なだけでは、幅が狭くなっちゃう。今回はダンスの箇所は少ないですけど、それ以外の部分ですごい勉強になるから、とってもやり甲斐があります」

2008年以降、『BABEL』『TeZukA』など数多くのラルビ作品に出演している上月さん。常連だけあって、ダンスだけでなく、歌に、せりふに、人形遣いにと、マルチな活躍を託されてきたが、今回は特に、体長120センチの花売りロボット・アリの操作がタフだったそう。

上月一臣さん  「はじめはダンサー4人で操っていたんですが、最終的にAYUMIちゃんとのコンボ以外、ほぼひとりでやることになりました。ロット(操作用の持ち手)の長さを変えたり、人形の胴体を僕の腰にベルトで巻き付けたり、いろいろ研究を重ねて、今日に至ります。小さくても15kgくらいあるので、頭のロットを右手で持ち、胴体部分を腰のベルトで支え、両足は自分の足にくっつけて全身で吊って立っているだけでも、けっこう全身にこたえるんですよね。でも、踊るだけではなくて、いろんなことをやるのがラルビ作品の醍醐味だと思っているので、今回も、いつものように『こんなすごいことできる機会は、そうそうない』って、毎回思ってやってます(笑)。 僕はだいたい腹づもりはできていましたけど、他のダンサーさんたちは、ラルビとのクリエーションやそのプロセスにびっくりして、理解や把握に多少の時間はかかるかなと思っていましたが、やっぱりみんな腕も勘もいいので、いまは僕よりうまくて、助けてもらったり(笑)。ラルビは、ちゃんと人を見て割り振りをしてるので、できないことは、させないんですよ。言われた方は『できるはずない』と思っても、ラルビには絶対できるという確信と信頼があるから、ダンサーもそれに応えようとして、がんばる。そうやってラルビは、少しずつ難易度を上げていくんです。 今回はラルビにとっては初めての演劇でしたけど、演出に関しては、ダンスの時と何ら変わったところはありませんでした。ただ、俳優さんと話をしてる時のラルビは、すごくいきいきとしてましたね。俳優さんたちは、演出家として言ったことをスッと理解して、すぐに目に見える形でやってみせてくれるからでしょう。『素晴らしい役者さんたちだ』といつも言っていました。僕も、間近で俳優さんたちのせりふを聞いていて、そのパワーがビンビン伝わってくることに感動しています」

ニューヨークでタップダンスを学び、次第にパントマイムのようにストーリーを伝えるタイプのストリート・ダンスを好むようになったという大宮大奨さん。今回も第2幕の冒頭で大道芸人ロボットのソロを見せるなど、その個性を活かしている。

大宮大奨さん  「即興がすごく好きなので、毎回、動きを変えて、ある種、好きにやらせてもらっています。未來さんとも話したんですが、大道芸人ロボットということは頭に置きつつ、ペルシャの空気感とか、生活する人々の貧しさの陰といった、ペルシャの雰囲気を出すことが大事なのだと思っています。 稽古中、ロボットの人形がめちゃくちゃ動かしにくくてゆき詰まっていたら、ラルビに『君の視野が狭いからできないんだよ』と言われたことが、ずっと頭の中に残っています。原因はひとつだけとは限らない。できないと諦めるより、どうやって解決するかを考える方が賢明だ、ということですよね。僕は集中すると他が見えなくなりがちなので、指摘してもらえてよかったと思っています。 稽古では、すべてにおいてラルビのリクエストに応えることで精一杯でしたけど、動きが身体に入ってきてからは、パネルを動かすことも表現ということがわかって、『今日はこういう気分でいこう』と、毎日変化をつけるようになりました。マニピュレイターでも、ウランはアクティブなので必死についていく感じですが、ヘレナは、彼女の落ち着いたキャラクターと僕のパーソナルな部分が合う気がして、とてもやりやすいんです。僕自身、ヘレナの凛とした雰囲気に憧れるので、自然と気持ちが入るんですね。ダンスって、おもしろいです。気持ちが入らないと、やっていても気持ちが悪いし、自分が気持ち悪いと、それがお客さんにも伝わってしまう。感情や思考の細かい動線を仕上げることに必死だった時期から、それがナチュラルにできるようになって、気持ちに余裕がでてきました。いまは、永作博美さんがさらに細やかに表現している部分に気づいて、それを反映することもできるようになり、マニピュレイターというツールを使うのが、とても楽しくなってきています」

パネルの移動やマニピュレイターなど、見える部分だけでも、ダンサー陣の活躍には目を見張る。さらに、客席からは見えにくい部分の過酷さを、もっとも多く背負っているのが鈴木竜さんだと思う。ラスト近くの見せ場で、アトムが飛び込み翻弄されるバルーン状のボラーの中で、大植真太郎さんとともにアトムをリフトしているのも彼だ。

鈴木竜さん  「今回はダンサーがひとり欠けたら成り立たなくなるくらい、各自の責任がイーブンですけど、僕のパートは確かにかぶり物が多くて、すごく地味な割にしんどい気はします(笑)。ボラーのバルーンの中は、僕と真太郎さんと、アブラー役の松重豊さんが入っるほか、池島優さんが、アブラーやプルートゥの影をつくるためのライトを照らしに入ってきます。その後、大宮大奨くんが入ってきてライトを交換し、さらにスタッフが2人入ってバルーンをワサワサ揺らし、僕と真太郎さんは次のシーンのために抜けて……と、けっこう出入りが激しくて、中は意外と混み合ってます。外が完全に見えないので手探りだし、やることが決まってから初日まで日がなかったので、しばらくはひたすらパニックになりながら、試行錯誤していましたね。 パネルは、持ち手の部分が角材だけだったところにベニヤを足してもらって持ちやすくなったし、馴れてきたこともあって、意外と大丈夫です。公演中はトレーナーさんが楽屋に来てくれる日があるんですが、『この筋肉の張り方は、ダンサーのものじゃない。引っ越し業者だよ』って言われました(笑)。 身体そのものは、ふつうのダンス作品と比べてしんどくはないんですが、これほど脳みそを酷使するのは久しぶりです。パネルやマニピュレーションだけでなく、すべてが非常に繊細にできているうえに、アイデアの量もすごく多いので、1回やるだけで、集中力を使い果たす感じになるんです。最初の2回公演の後は、もう放心状態でした。 ラルビは、自分の振付を振り移すのではなく『こういうことやりたいから、何か創ってみて』という姿勢で創っていくタイプなので、我々が発信し、話し合いを重ねないことには何も進みません。彼が欲することと、こちらが提案することが合致すると、すごくうれしそうな顔をするし、しないと、彼のまわりだけ雨が降ってるように、シュンとして悲しそうな顔になる。かわいいんですよね。その意味でもコミュニケーションが重要であることを痛感しましたが、今回はダンサーも俳優陣もスタッフも、みんないい人ばかりなので、とても仕事がしやすい、いい環境ですね」

ダンスの舞台だけでなく、蜷川幸雄作品など演劇での振付の仕事も多く、ダンサー、振付家、そして俳優としても活躍している池島さん。ダンサー陣としてフル稼働するうえに、花畑の男、そしてサハド=プルートゥという、重要な役も演じている。

池島優さん  「花畑の男は、身体はホームレスの男ですけど、人工知能が入っていないロボットで、メモリという実態のない状態で動いている。それをどう表現すればいいのかは、考えても出てこないので、とにかくやって見せました、『僕はこう思う』と。さまざまなアプローチをしたつもりですけど、それもみな、結局はラルビさんから引き出されたものなんでしょうね。そう思います。ゲネプロの時に、彼が『アトムは数学的、花畑の男は芸術的』と言葉で説明してくれたんですが、なんだか、『それが森山未來であり、池島優である』と言い当てられたような気がしました。未來はとても知的で考えを立体化してゆく人で、僕は、あまり形にならない声を出しているようなところがあるから。この人(ラルビ)には言葉はいらない。ぜんぶわかってるんだと思いました。サハドは、どう見てもやさしさ一辺倒の人ですから、自由にやらせてもらいました。ラルビは無理するような創り方をしないから、みんな気持ちよかったんじゃないかな。すごく健全で、協力的になれるし、尊敬し合えています。 物理的には、とにかくプルートゥの操作が大変。あれ、持ってみるといいよ、中に鉄骨が入っていて、ふつう持てるはずない重さなんだから(※100kg弱!)。年末まではウレタンで出来た仮の人形で稽古してたので楽だったんですけど、本物が来た時の恐怖たるや! そして触った時の重さたるや! 人体に近い構造になっている巨大な人形を、ダンサー全員で分担して動かすので、どこか一カ所だけ動かそうとしても動かないんですよ。僕の担当は左腕で、いちばん客席からも見えやすい部位なので、その気遣いは半端じゃないです。だからアンケートで『鋼鉄のロボットにしか見えなかった』なんて書いてくれてるのを読むと、すごくうれしいです。 それにしても、今回みたいにメイン・キャストもアンサンブルもひとつになれている作品は、日本では経験したことないですね。それもひっくるめて、ラルビのマジックなのかなと思います」

開演と同時に、ゲジヒトに追いつめられて断末魔の叫びを上げる男や、キテレツなテディベア姿の人工知能Dr.ルーズベルトと会話する、アレキサンダー大統領のシルエットを演じていた渋谷さん。

渋谷亘宏さん  「普段は、形よりも感情から動きをつくることもあるので、冒頭の逃げる男をやるのにも、特に戸惑いはなかったです。演技とダンスの境は、あんまりない感じがします。まあ、自分ができることの中でどう挑戦していくか、しかないですからね。アレキサンダー大統領についても、あまり固定したイメージはつくらないようにしています。自分で枠をつくると形だけになってしまうので、相手の言ったことに、いかにナチュラルに反応できるかを意識しています。Dr.ルーズベルトの声は吉見一豊さんが毎回生でやってらっしゃるんですが、アレキサンダー大統領の声は録音なので、ちょっとタイミングは難しいですけど、つねにその場で正直にしていればいいかなと思っています。 マニピュレイターとしては、主にアトムとゲジヒトに付いていますが、楽しいですよ。触らずに相手を動かすというような振付は、やったことはあったんですが、ここまで長時間、対象の人間に触れないのは初めてです。20秒程度のシーンをつくるのに、一日以上かかったりしてましたけど、いまは、すべての流れを納得してできるようになっています。森山未來さんの動きは素晴らしいので、一体感を感じられて、やっててすごく気持ちいいんです。 いちばん大変なのは、間違いなくプルートゥです(笑)。踊りの中でダンサーをリフトするのとはぜんぜん違って、5~7人がかりで呼吸を合わせて一体を動かすので、重さもすごいですけど、なかなかうまくいかないんですよ。本番用のプルートゥが来た時はびっくりしました。なんせ重さが練習用の倍以上になってましたから(笑)。本番までの残りの稽古はかなり焦りましたね。けど正味一週間くらい。誰も口には出しませんでしたけど、あの緊迫感が、かえってよかったのかも。最後のみんなの集中力はすごかったです。 手探りのことばかりで、稽古中は先は見えなかったんですが、不安はぜんぜん感じませんでした。ラルビを信じて、自分たちがどう応えていくかに集中するだけ。ラルビの頭の中にあったものが、だんだん具体化していくことにワクワクしていました。未知なるものへと挑戦している感じで楽しいです」

マシュー・ボーン作品や東宝ミュージカルにも出演経験がある原田さんは、俳優になりたくてダンスを始めたそうで、ダンスと演劇のボーダーを超えたラルビ作品への親和性は、『TeZukA』で確認済み。2度目のラルビ作品参加となる今回は、開幕した翌日からソロ・シーンが加わった。

原田みのるさん  「初日の終演後にちょっとラルビと話した時に、『今回はみのるを活かすシーンを見つけられなくてごめん。でも大丈夫。また次回に』と言われたんですが、翌日、本番前に舞台で確認や変更の稽古をしていた時に、ラスト近くの転換のところで、急にラルビから『この時間に入ってくれ』と指示されたんです。ここはもともと装置の転換だけが行われる場面で、音楽の吉井盛悟さんも、何か入った方がいいと言っていた箇所でした。1分に満たないほどのソロですけど、ラルビからは、エネルギーの流れを切らないように、アダージオ(ゆったりした動き)のように踊ってくれと言われました。転換のエネルギーに翻弄されているようでもあり、逆にこちらがうねりを操っているかのようでもある動きを、心がけています。ひとつ決まった技を入れる以外は、なるべくその時のテンションに従って、決めずに踊っています。 ダンスを始めたころ、僕は身体がすごく柔らかかったので、ジャズダンスのカシッとした硬い動きが苦手だったんですが、コンテンポラリーは、流れていくような振りが多いので、気持ちよく踊れることに気づきました。ラルビの動きは、そんな自分には合っていると思いますし、思考的にもロジカルで、ムーブメントがアナトミック(解剖学的)に分析されています。僕も解剖学を勉強していたので、身体の仕組みにドンピシャではまっているラルビのクリエイションには、何の疑問も感じることなく取り組めるんです。 ただ、今回は新しいことが多かったので、大変だったのは確かです。人形や映像を使うので、そのフォルムを客観的にとらえるのが、車体感覚の違いに馴れていくような過程の難しさでした。でも、まあ馴れてくるもんですね。最初はパネルの大きさや重さにも苦労していたのに、巨大なプルートゥ人形が来たら、パネルなんか何でもない。『もういくらでも動かしますよ!』って感じになってますから(笑)。こんなにダンサーが空間の主要な部分を占めることは、ふつうの舞台ではないですし、ほんとに刺激的で楽しい毎日を過ごせています」

自身のプロジェクトでもヨーロッパとアジアを往き来する多忙ななか、ラルビのたっての希望で『プルートゥ』への出演を決めた大植さん。踊るシーンが少なくて、ダンス・ファンを悲しませたかもしれないけれど、ラルビとメンバーの精神的支柱として、なくてはならない存在だ。ストーリーの鍵を握る『一体、500ゼウスでいいよ』のせりふも、日に日に進化していた。

大植真太郎さん  「稽古中、自分の仕事と重なって抜けなければならない期間もあったので迷ったんですけど、これだけひとつの作品を集中的に何十回もやる機会は、ダンスではなかなかないことなので、どんな感じか経験したいというのもあって、やることにしました。ラルビとは、人としては理解し合っているんですが、つくる作品のテイストは違うので、僕の提案はだいたい却下されるんですよ。『それは自分の作品でやった方がいいんじゃない?』って、ぜんぜん悪気無く言われる(笑)。ラルビも、稽古中は無茶なこと言ったりキレることもあるので、そういう時にフォローするのが、僕の役目かなと。あとは雰囲気づくりと健康管理。一応みんな大きなケガもなく、楽しそうにやってますね。 『TeZukA』では、新しい形を突きつめようとしていましたけど、『PLUTO』では、ラルビは書き手ではなく読み聞かせる立場で、彼がめくったページの基軸を舞台に導入しています。自分が何かを注入するよりは、ページから飛び出さないようにすることを、徹底させていますね。最近のラルビの作品に共通していると思うんですけど、自分は動かず、舞台の方が動いているみたいな、長い旅を電車の中からずっと、窓を開けずに眺めているような感覚があるんですよね。これは肯定でも否定でもない。いま彼がやりたいことなんだと思います。 『500ゼウスでいいよ』と言うのは、台本では老人なので、最初は老人をやろうとしてたんですけど、だんだん、老人である必要はないんじゃないかと思うようになりました。リサイクルできるものを探すのが仕事で、何回もこういう発言を繰り返してる感じが出れば、それでいいのかなと。まあ疲れてきたというのもあるんですけど(笑)、これも実際に何回も繰り返したから気づいたことで、やっぱり貴重な経験ができたなと思っています」

文:演劇ジャーナリスト 伊達なつめ 撮影:小林由恵