演出・振付 シディ・ラルビ・シェルカウイ

演出・振付 シディ・ラルビ・シェルカウイ Sidi Larbi Cherkaoui

© Koen Broos

パリ・オペラ座バレエ団のエトワール、フラメンコのレジェンド、アルゼンチンタンゴの名手、少林寺の武僧――。コンテンポラリーダンスの範疇を超え、 世界中のさまざまなジャンルの踊り手たちと作品を創出し続けて、忙しすぎる振付家、シディ・ラルビ・シェルカウイ。深遠な思索を、豊富なアイデアでビジュアル化する天才は、因習や制限の類いからまったく自由で、「俳優が踊るのも、ダンサーが演技をするのも、ごく普通のこと」と言い切ってしまう。
「モロッコ(人の父)とベルギー(人の母)という二つの文化の中で育ってきた僕は、子どもの頃から人間とロボットが共生することを夢見る『鉄腕アトム』に 強く惹かれていた」と、自身の境遇をアトムに重ねて取り組んだ『テ ヅカ TeZukA』('11年ロンドン初演、12年Bunkamuraオーチャードホール公演)では、ポップで、コミカルで、妖しく美しい手塚治虫の世界をクールに表現。同時に、手塚へのオマージュを3.11後の日本につなげるという、切実でアクチュアルな視線を忘れなかった。ダンスと演劇、芸術とエンターテインメント、人間とロボット……。ラルビの世界では、すべてが等価で優劣なく、共存している。アトムが夢見た理想を舞台の上で体現する彼が『PLUTO』に挑むのは、ごく自然な流れであり、運命だったのだと思う。

演劇ジャーナリスト 伊達なつめ

シディ・ラルビ・シェルカウイ振付ダンス作品
イギリス×日本×ベルギー国際共同製作

「テ ヅカ TeZukA」
2012/2/23(木)~2/27(月) Bunkamuraオーチャードホール

プロフィール

1976年、ベルギー、アントワープでモロッコ人の父親とベルギー人の母親の間に生まれる。
2000年にダンスカンパニー、レ・バレー・セドゥラベ (Les Ballets C. dela B.) の一員としてRien de Rienを振付けた。この作品が欧州各地で上演され、ベルグラード・フェスティバルで特別賞を獲得。同作品はその後もツアーを続け、2002年モンテカルロにてニジンスキー賞を受賞。その後知的障害者の劇団Stapとの共同作業などを通じて、演じることの意味などを考えることになる。

2002年秋には、ベルリンで4人のダンサーによるD'avantを発表。のち2006年には来日公演(びわ湖ホール)を行う。

2004年にはモンテカルロ王立バレエ団に委嘱され、In Memoriamを、スイスのジュネーブバレエ団には2005年春にLoin を振付ける。

2005年、英国のダンサー/振付家アクラム・カーンと共作・共演、美術に英国における現代アートの第一人者アントニー・ゴームレイ、音楽にニティン・ソウニー を迎えた作品Zero Degreesを発表。2006年のローレンス・オリビエ賞にノミネートされる。

2006年春には再びモンテカルロ王立バレエ団に招請されMea Culpaを振付ける。また、同年スウェーデンの国立クルベリバレエ団に振付けたEnd はゴーテンベリィダンス演劇フェスティバルで初演された。レバノンにおけるイスラエルとヒズボラとの戦いと同時期に創作されたこの作品でシェルカウイは地政学的現実をダンスにした。

同じく2006年には地元アントワープの劇場トゥネールフイスの理事に選ばれ、Mythを制作開始した。同作品は2007年6月に世界初演。

それに先立つ2007年5月には、デンマーク王立バレエ団に招かれ、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」を使い、L'Homme de boisを振付ける。

2007年9月にはベルギー王立劇場のためにApocrifu、2008年2月にはアントワープでOrigineを発表。同年、中国河南省少林寺に2ヶ月滞在し、禅僧たちと対話しながらSutraを作り、2008年5月に英国サドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演され、7月には欧州の主要フェスティバルをツアー、現在までに2010年まで欧州、アジア、北米でのツアーが予定されている。

2009年10月にフラメンコの第一人者マリア・パヘスとの共同演出/共演によりDunasを初演。また彼自身初となった北米での委嘱作品 Orbo Novoをシダーレイク・コンテンポラリー・バレエに振付けた。

2010年にはダミアン・ジャレとの共同演出、アンドニー・ゴームレイ美術によるBabel (words)をFoi, Mythに続く三部作の最終作として発表。同作品は2011年英国オリビエ賞を受賞。同年インド古典舞踊クチプディの名手でありピーター・ブルック演出作品などで女優としても活躍するシャンタラ・シヴァリンガッパとの共作Playを発表。
2011年9月、手塚治虫の思想/生涯をダンスというメディアで展開した意欲作TeZukAをロンドンで初演、2012年には共同製作した東京Bunkamuraで上演された。同年オランダ国立バレエ団にLabyrinthを振付。

2012年、フランス、アヴィニョン芸術祭のために製作されたPuz/zle は11人のダンサーとコルシカのアカペラグループ、ア・フィレッタが出演した。この作品は世界ツアーの一環として2013年にロンドンで上演され、2014年オリビエ賞を受賞。同年ジョー・ライト監督、キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロー主演「アンナ・カレーニナ」(2013年3月日本公開)で振付を担当。ジョー・ライトとは2013年にもロンドンのヤング・ビックにてA Season in Congoを作っている。

2013年にはパリオペラ座バレエ団に Bolero を振付。またブエノスアイレスのタンゴダンサー達に振付けたM¡longaは現在世界ツアー中である。最新作は今年3月初演したヨーテボリオペラ・バレエ団のためのNoetic。またこの秋にはブリュッセルの王立モネ劇場で第1次大戦百周年としてオペラShell Shockの演出を手掛ける。

コメント

「ロボットは人間と同じなのか」。

手塚治虫さんの原作に描かれ、『PLUTO』でさらに深められたこのテーマに対する私の答えは、Yesです。彼らは人間に奴隷のように扱われているにもかかわらず、人類を救うために学び、人類以上に倫理的な存在であろうとします。彼らは、私たち人間が忘れてしまいがちな、相手の身になって考えることの尊さを、教えてくれるのです。
私はまず、『PLUTO』の政治的な視点に強く惹かれましたが、同時に、人間のロボットに対するアパルトヘイトを描いている点に共感し、また、父子関係といった普遍的な問題に焦点が当てられていることにも、深く魅了されました。つまり『PLUTO』は、聖書レベルの強力な物語なのです。
あまりにも濃厚な内容を持つこの作品を、これまで私が培ってきたダンス、演劇、映画、そして日本での経験を総動員することで、舞台化できると確信しています。(談)

Sidi Larbi Cherkaoui