2014.12.22 UP

プロダクションノートVol.2公開!

ラルビの頭の中には演劇とダンスの区別はない
緻密で大胆な演出と振付を支えるアシスタント登場

俳優陣が揃った本稽古に入って、約3週間。ラルビの演出は、より緻密さと大胆さを増して、ビジョンの具現化に邁進している。この日はまず、ディレクターズ・テーブルでゲジヒト役の寺脇康文さんにひとしきり意図を伝え、話し合いを行った後、「こういうことを試してほしいんです」と言って一緒に装置に移動。ゲジヒトがここで起こす行動に至る背景や感情の流れ、視線や表情、動きのタイミングなどを、綿密かつ的確に言葉にしていた。

寝室で悪夢にうなされるゲジヒトの様子を心配するヘレナ役の永作博美さんに対しては、「ヘレナは心配する時、たいてい顔に手をやるんだよ。ほら」と原作漫画を持ってきて示し、「ここは、ちょっとメランコリックな感じ。ウラン(永作さんの2役)の明るさと対照的になるよう、コントラストをつけたいから」。テーブルの花にちょっと手をやるしぐさについては、「ヘレナが『育む』ということを好
む質であることを示したいんです。そのためには、もっと部屋の中の植物を増やした方がいいね」etc.……。

 (写真左から)振付助手のジェイソン・キッテルバーガーと演出・振付のシディ・ラルビ・シェルカウイ

ロボットであるゲジヒトやヘレナ/ウランには、それぞれ3人のダンサーが、マニピュレイター(※プロダクションノート1参照)としてぴったり寄り添う場面があるが、マニピュレイター役のダンサー陣に対しても、動線の整理を行うだけでなく「ここは天使が見護るようにヘレナを見上げて」などと、演技指導を行う。ラルビは、俳優との仕事はこれまでにも経験があるそうだけど、「演劇」を演出するのは、今回が初めてと聞いていた。でも稽古を見ていると、そもそも、ダンスと演劇の区別をつけること自体が無意味、ということに気づかされる。

「ラルビの稽古の様子は、これまでとぜんぜん変わらないよ。文字で書かれたテキストから、身体的な要素をどんどん発展させていこうとしているよね。見ていて、すごくエキサイティングでおもしろい」

と、振付助手として参加しているジェイソン・キッテルバーガーは言う。ジェイソンは7年前にニューヨークのシダーレイク・コンテンポラリー・バレエで上演された『Orbo Novo』出演の際に、振付を手がけたラルビに出会って以来、絶大な信頼を寄せられているダンサーで、今回もダンスに限らず、稽古で生じるあらゆる出来事にフレキシブルに対応している。

「必要なことはぜんぶやるのが、僕の役割。たとえばラルビがいまロボットが欲しいと思っていたら、そこにロボットがある状態にしたいし、1回言ったことを、また言わせるようなことがないように動きたいと思ってる。だいたい役割を限定してしまうと、その中でしか動かないことになるし、ラルビは、誰もがさまざまなものに関わっていけるということを、すごく強く信じてる人なんだよね。
ラルビが考えていることは何でもわかるかって? まあ、いま何が彼にストレスをかけているかは、わかる。でも、それ以外の頭の中はわからないよ。僕が彼を好きなのは、つねに僕らを驚かせ続けてくれるからだもん。いつも彼の一歩先に行こうと努力するんだけど、必ず置いていかれてる(笑)」

いつも陽気なニューヨーカーのジェイソンは、見た目に反して、まるで日本人のような細やかな気遣いと献身ぶり。「とにかくやること多いんだよね、『プルートゥ PLUTO』は」と言いながら、稽古場にプラス・オーラを振りまいている。




文:演劇ジャーナリスト 伊達なつめ  撮影:小林由恵