2015.01.09 UP

プロダクションノートVol.3公開!


 

せりふは身体表現であることを実感させる名優たちの声
プルートゥも登場した稽古場最終日レポート

 

2014年12月30日14:30。年内最後の稽古となる、稽古場での全幕通しがスタートした。「俳優によるせりふのやり取りのシーンが固まったら、ダンスシーンを入れていく」とラルビが語っていた通り、いくつかのシーンに、群舞やソロのダンスシーンが挿入されている。装置を動かし、ロボットを操作し、アトムらヒューマノイドたちに寄り添い、あらゆる登場人物を演じるダンサー8人が、個性を発揮して踊る姿は、なんだか開放感に満ちていて、見応えがある。 


 見応えといえば、これまでは彼ら8人によってもたらされる、ユニークな動きと役割にばかり目がゆきがちだったけれど、各場面で交わされる俳優陣のせりふの響きが、とても表情豊かなことにも、改めて気づかされた。柄本明さん・松重豊さん・吉見一豊さんらは、それぞれの役以外の声でも活躍するので、より顕著に それを感じるのかもしれない。日本語が通じない演出家とのやりとりで、単語や文節の意味を伝えることに、よりセンシティブになっている効果かも…… と勘ぐってみたりもする。彼らの声を聞いていると、せりふ=声は身体表現のひとつであることを痛感するし、何よりもまず、要するに俳優のクオリティーが非常に高いのだ、このカンパニーは。


 第2幕に入ると、いよいよプルートゥが登場する。以前は、ウレタンのような素材による簡易版プルートゥを5~7人がかりで操作していたが、数日前に、本番用の精巧なつくりのプルートゥが完成。本日の通し稽古でも、プルートゥの出現シーンに限っては中断があり、搬出入は、操作するダンサーにスタッフが5、6人加勢してなんとか運ぶという、かなりの大仕事になっていた。このプルートゥは高さ約4.5メートル、重さは100㎏近くあり、最初のうちは、持ち上げることも、ままならなかったという。ダンサー陣の負担が、ますます重くなってゆくのが心配だ。折しもヤフー・ニュースでは『紅白歌合戦』のリハーサル報道で「水森かおりの巨大衣裳の高さが6.5メートル」と伝えていて、妙な親近感が……。
原作では、プルートゥよりさらに巨大な存在であるボラーは、膨らませると高さ3.6メートル、幅5.6メートルのバルーンと、全面スクリーンを連動させることで表現するらしい。大きな白い風船を使うアイデアは、ドイツのコンテンポラリーダンスの振付家サシャ・ヴァルツが、彼女の代表作のひとつ 『noBody』で用いていたのを参考にしたそうだ。稽古場で見る限りは、『noBody』の天井の方から降りてくる直方体のバルーンと、『PLUTO』のラグビーボール型バルーンは、まったく別物に見える。「似てたらパクったことになっちゃうからね」とラルビ。ごもっともです。さらに異なるのはその使い方で、『PLUTO』ではバルーンの中にも(人力による)さまざまな仕掛けが織り込まれている。アトムがボラーに立ち向かい、その巨体に翻弄され呑み込まれてゆくシーンは、森山未來さんと、バルーンの中で彼を支えるダンサー、大植真太郎さんと鈴木竜さんによるダンス・シークエンスでもある。ただし、バルーンの中から外は見えないし、外にいる側からも、中の動きは見えない。未來さんが「酸欠になってない?」と中の2人に声を掛けている。過酷だ。空気の注入量によってバルーンの形態も変わってくるし、このシーンは何度か繰り返されたが、3人のコンビネーションは、なかなか思うようにいかない。


 17:54。「Thank you」というラルビの声で、稽古場での全稽古が終了。スタッフは早速撤収にかかり、キャストはダメ出しのため別室へ移動を促されたが、森山、大植、鈴木の3人は、「ボラー対アトム」の動きを検討し続けている。振付助手のジェイソンが、それを後ろから見守っていた。
年が明けると、シアターコクーンに移って舞台稽古が始まる。映像、照明、音楽がすべて加わると、またガラッと別世界が展開するのだろう。

 文:演劇ジャーナリスト 伊達なつめ  撮影:小林由恵