見どころ

愛と暴力にゆがむ自由な若き魂の叫び!
英・俊英の鮮烈な演出に輝く大竹・三浦の初共演

 劇作家テネシー・ウィリアムズが17年もかけて旧作『天使のたたかい』を練り直した作品『地獄のオルフェウス』。自由な心が暴力的な抑圧に踏みにじられていく過程を、濃密な感情の行き交いの中に描いたウィリアムズ絶頂期の渾身の問題作が、初共演を果たす大竹しのぶ、三浦春馬らの演技と英国の俊英フィリップ・ブリーンの演出によって、シアターコクーンの舞台によみがえる。『地獄のオルフェウス』は、因習や偏見に満ちた米南部の街を舞台に、ある日突然現れた若い男が、街の人間関係に波紋を広げていく物語。破滅の予感も漂わせながら、男の自由な魂はそれでも突破口を求めてさまよう。

 時代の最先端を切り取る新作を数多く手掛けてきたシアターコクーンは、一方で演劇界の財産とも言える翻訳劇を洗練されたかたちで多くの観客に届けることにも意味を見出し、世界の作品や才能にも目配りしてきた。『地獄のオルフェウス』はその結実のひとつである。

 「社会のルールが私たちの心の底にある深い衝動を抑圧したときに何が起こるか」に着目した本作を「もろく傷ついた人たちに親近感を寄せ、受け止めきれないほどの激しい感情を持った人々に歩み寄れる愛情を持っている」というウィリアムズがしなやかな視線で描いたこの物語は、「世界共通のテーマを持っている」と指摘するブリーン。「その作品に才能豊かな大竹さんとカリスマ性を持つ三浦さんが出演してもらえるのはうれしい」と話す。

 ブリーンは蜷川幸雄の演出に強く惹きつけられた英国人のひとり。「言葉の表現を抑え、詩的な表現を加えていて、とても斬新だった」と感銘を受けた。歌舞伎や俳句、谷崎潤一郎など幅広く日本文化に興味を抱くブリーンは、「私を待ち受ける多くの経験を受け入れられるよう、真っ白なキャンパスのような気持ちで日本に行きたい」と心待ちにしている。

STORY

アメリカ南部。ありふれた町の洋品雑貨店。ガンに冒され、医師にも見放された店主ジェイブが二階に伏している。しかし、妻のレイディの関心は夫にではなく店の改装計画にあるらしい。彼女はイタリア移民の娘で、父がかつて開いていたワイン・ガーデンで過ごした少女時代の思い出を心に抱いている。そんなある日、蛇革のジャケットを着てギターを持った奇妙な青年が現れた。名はヴァル。彼のどこか野性味や純粋さを感じさせる人柄に魅かれ、レイディは彼を雇い入れる。

数週間後。彼女はいつの間にかほかの女性に嫉妬を抱くほどヴァルのことを思い始めていた。父の死後、金で買われるようにジェイブの妻となり、この異郷の地で苦汁をなめてきたレイディにとって、ヴァルは希望の光であった。しかし町には保守的で排他的な空気が澱み、タブーを犯した者には厳しい制裁が待ち受けている。

レイディは夫に内緒でヴァルを店の小部屋に住まわせようとする。彼女の思惑とその危険性を嗅ぎつけ、こっそり店を出ていくヴァル。だが二人の絆は強い。再び舞い戻ったヴァルとレイディは渾身の力で愛を確かめ合うのだった。

ところが、もう二度と床を離れることはないと思われていたジェイブが死神のごとく階段を降りてくる。驚きあわてるレイディとヴァル。さらに、町の女たちの注目を魅き、保安官の妻ヴィーとの中をも疑われるヴァル。瀕死の夫に構わず今晩の新装開店に奔走するレイディ。二人にこの町の因襲と暴力がのしかかってくる。保安官に町からの退去を命じられたヴァルは、レイディに別れ話を持ちかける。彼の裏切りに逆上するレイディ。だが自分がヴァルの子を宿したと知ると意気高らかに宣言する―――「たたかいに勝ったのよ、実を結んだのよ!」そしてその直後、喜色に満ちたレイディの顔面が急に青ざめていく…。