POINT 見どころ

家族や社会に苦悩する帰還兵の喪失感と焦燥!
岩松了が問う戦争の意味、若き才能が躍動

『シダの群れ』シリーズ、『ジュリエット通り』とシアターコクーンで刺激的な新作上演を続けてきた劇作家岩松了。新作・書き下ろし第5作目は戦場から帰還した青年が家族の思いやりと戦争の残酷さの狭間で揺れる日々を繊細なタッチで描き、戦争の意味を静かに、しかし激しく問う『青い瞳』を上演する。 『青い瞳』は、ある戦争終結後の地域社会が舞台。神経のすり減るような戦場での経験を抱えながらそれぞれの故郷に帰る兵士たち。両親と妹のもとに帰ったツトムもそうした一人だった。厳格だったはずの父は気弱な物言いしかしてこない。母は心から帰還を喜び、前のめりになるほどの勢いでツトムに「社会復帰」の大切さを説く。家族もまたどう扱っていいのか正解が見つけられず、どこか不自然だった。
そんな中、妹のミチルははつらつとした若さをぶつけるようにツトムに一点の曇りもない青春を見せてくれるが、ツトムの心は晴れない。戦場に真実があるというのではない。多くの失った戦友たちの魂を思う自分と、故郷での日々はあまりにも距離があるからだ。ミチルがチンピラグループの一員のサムとつきあっていることに気付いたが、胸にとどめることにした。
酒場で知り合ったそのグループのリーダー格の青年アライには、ばかにされたような思いと同時に敗北感さえ感じてしまう。自らの価値のありかを見失い、ふさぎ込むツトムの前に現れたのは、かつて子どものころ自分を心の迷いから救ってくれた「タカシマさん」だった…。 2008年に岩松の『羊と兵隊』で圧倒的な演技を見せた中村獅童がこの繊細な心の持ち主ツトムを演じれば、チンピラグループに染まりきれないサムを人気グループ「KAT-TUN」の上田竜也がビビッドに表現する。ミチルはアイドル界の頂点に立ち、卒業後は次々とイメージを打破するような役柄に挑戦している前田敦子。タカシマさんには、蜷川幸雄の演出作品などで演技の腕を磨き、いまや縦横無尽の活躍が光る勝村政信が起用された。岩松自ら父を演じ、母には包み込むような優しさとクールな現代性が同居する求心力のある演技が評価されてきた伊藤蘭をあて、すきのない布陣で臨む。

※2015年9月18日現在のあらすじです。上演時には変更の可能性がございます。