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奔放な想像力、疾走感溢れる筆力で、 予定調和を破壊する奇才小説家古川日出男が 蜷川幸雄に書き下ろす渾身の戯曲!

Bunkamura25周年記念 冬眠する熊に添い寝してごらん

作:古川日出男×演出:蜷川幸雄

2014年1月9日(木)~2月1日(土) Bunkamuraシアターコクーン

作品に寄せて

©中岡恵美

古川日出男/作

今の人たちは知らないと思いますが、僕が10代のころ、蜷川さんは「50歳になったら演出をやめる」と公言していました。「演出家の想像力なんてそんなにもたない」と。ですが、アッサリそれを裏切ったんです。しかも、そのまま30年近く突っ走っている。やはり蜷川さんは只者ではありません。

その蜷川さんから戯曲を書かないかと言われて、しばし躊躇しました。でも、やるからには小説家として勝負しよう、と。小説を一本書くくらいの想像力を濃縮させて投入し、異様に多いト書きと壮大な物語をカオスのまま書きました。結果的に蜷川さんへの挑戦状になりましたが、やはり奔放なまでに自由な話を書かなければ、古川が戯曲を書く意味がない気がするんです。

執筆にあたって決めたのは、無責任になること。蜷川さんがこれをどう演出するのかは関係なく、またどの役をどの役者さんがやるのかもあえて聞きませんでした。今までの舞台の世界にはなかった血を、強引に注ぎ込むようなものです。ぼくの想像力を勝手に輸血するような舞台になればと思っています。

僕は蜷川さんとコンビを組んでいた清水邦夫さんの戯曲に強い影響を受けてきました。タイトルをはじめ、言葉がとにかくカッコいい。清水さんの作品の多くはご自身の故郷、北陸が舞台です。そして兄と弟の物語。僕が好きな清水さんの世界が身体にしみ込んでいて、その血が自然に噴出してこの作品を書かせたのだと思っています。北陸のエネルギーの歴史をエンターテインメントの形で提示すると同時に、兄弟と女という若者たちが大きな柱として登場し、原初的な悲劇の構造を担う。なにしろ大仏から犬、熊まで出てくる芝居ですから、そうしたシンプルさが力を持つと考えました。

と、僕は言うだけなのでラクなものですが、蜷川さんがどんな舞台を創り上げてくださるのか楽しみにしています。

©大久保惠造

蜷川幸雄/演出

2011年に『血の婚礼』を観にきてくださった古川日出男さんに、その場で戯曲をお願いしました。古川さんの現代を捉える視点、文体を含めた疾走感に魅かれていたからです。そして戯曲が上がってきた今、あまりにも奔放すぎるイメージに途方に暮れています(笑)。「一体このシーンをどうするんだ?!」という具体的な課題と、日本の根源的な部分まで掘り下げなければ創れないだろうという中身の重さと、両方の意味で非常に重い戯曲です。上っ面を読むだけではとても太刀打ちできない。一気に時間が遡るかと思えば、突然、阿弥陀如来や回転寿司の機械が登場したりと、まったくもうメチャクチャなんです!古川さんの戯曲が持つイメージに、我々がどれだけ全力を挙げて近づけるのか。自己主張が強そうな上田竜也君という荒れ馬を乗りこなし、久々の井上芳雄君、鈴木杏ちゃんや勝村政信君という信頼する俳優たちとともに、誰も見たことのない演劇の力を見せられたらと思っています。来年も迷惑な幕開きになりそうです。

上田竜也/川下多根彦

舞台はこれが2本目ですが、ゼロからみんなで創りあげていく感覚が好きなんです。すべてが生モノなので感情の流れもリアルに出せますし、芝居の世界にどっぷり浸かれる稽古の時間も好きですね。もちろん緊張はしますし、足を引っ張ることもあると思います。でも、お金をいただいてお客さんに観てもらう以上、怒られるのは当たり前。もともと生ぬるいことが嫌いな性格なので、わからないことは蜷川さんや経験豊かなベテランの方たちに何でも聞いて、食らいついていきたいです。
僕が演じる多根彦はとにかく純粋で真面目。兄貴の一が好きすぎて、「好き」加減がイタいくらいで(笑)。その愛情が憎しみに変わった時の壊れ方、感情のあふれ方を想像するとイメージが湧きますし、今から稽古が楽しみですね。自分なりに役どころを整理して納得できるようにしていきたい。初めての現場に飛び込むワクワク感を胸に、古川さんの物語と蜷川さんの世界観に染まりたいと思っています。

井上芳雄/川下 一

10年前、『ハムレット』の経験は本当に衝撃的でした。芝居をするとはどういうことか、自分がいかに出来ないか、真正面から蜷川さんに教えてもらったんです。当時は「二度と台詞だけの芝居はやらない、自分には向いてない」と思いつめましたが、その後ミュージカルに戻ると「変わったね」と言われて。以来、ストレートプレイの必要性を自覚し、ミュージカルと往復しながら今に至っています。だからこそ、蜷川さんにまた呼んでいただけたことが何よりも嬉しいんです。
古川さんのこの戯曲は今までまったく経験したことのないタイプの作品です。でもせっかく蜷川さんと10年ぶりにやらせていただくんですから、「一体これは何だ?!」くらいに強烈なものの方がいいなと。設定や場面はぶっ飛んでいるけれど、絵空事ではなく切実な現実問題がたくさん描かれているんです。そこをどう演技に反映させていけるかは未知数ですが、上田君、杏ちゃんと結びつきを深めて立ち向かっていきたいですね。

鈴木 杏/ひばり

蜷川さんとはここ何年か再演でご一緒していて、ずっとやりたいと思っていた新作に呼んでいただけたことがとっても嬉しいです。私はロマンを感じられる作家さんが大好きなのですが、古川さんの小説には、疾走感と時空を自由に飛び越えるエネルギー、グツグツと煮えたぎるような情熱があって惹き込まれます。台本をいただいてみると、本当に嬉々として蜷川さんに挑戦状を突きつけていらっしゃるなぁと(笑)。どこか私の憧れているアングラ演劇の匂いもしますし、一人一人の登場人物が丁寧に愛らしく描かれていて、とにかく魅力的です。読むだけだったら素直に楽しめますが、いざ覚えようと台本を開くと、頭から煙が出ています(笑)。
ひばりは多根彦さんの恋人で、女詩人という少し特殊な役どころ。女詩人としてのエキセントリックな中に柔らかい女の子らしさもあり、お客様に一息ついていただけるような場面もあります。詩的で魅力的な台詞を自分の中に染み込ませて、さらにフレキシブルでいられる様に。出来る限りの準備をして稽古に臨むつもりです。

勝村政信/高祖父(伝説の熊猟師)

僕は 1985年に蜷川さんの下で芝居を始めたんですが、蜷川さんの下を離れてから 順風満帆な演劇生活が始まりました(笑)。30歳になった時、初めて来た役が「もぐら」でした。50歳を迎えて、初めて来た役が「マタギ」です。……20年ぶりに台本を叩き付けさせていただきました(笑)。どんな作品でも毎回大変ですが、その中でも今回はトップクラスです。動物が出てきちゃうし。熊とか犬とか。『盲導犬』のように人が犬に付き添っているわけでも、『アニー』のように 役として犬が登場するわけでもありません。着ぐるみの可能性もあるし(笑)。さらに薬売りやら代議士やら、具体的な目的を持った人たちも絡んでくる。とにかくやってみないとわからないですね。こういう大変な芝居は稽古場が重要ですから、楽しく、苦しみつつ創っていこうと思っています。

文:市川安紀