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2025.01.17 UP

文化

文化と暮らしと渋アート。―太田記念美術館『江戸メシ』と楽しむ江戸の味―

「日本の伝統文化」と聞くと何やら堅苦しさを感じてしまいますが、古くから現代に至るまで、日本人がずっと楽しみ続けている身近なものも、日本の伝統文化のひとつと言えるのではないでしょうか。

このシリーズでは、日本の伝統文化を様々な角度から楽しみ、暮らしの中で体験できるアイテムやスポットをご紹介しながら、渋アート連携施設や渋谷エリアの魅力をお伝えします。

今回は、太田記念美術館で開催中の『江戸メシ』と、浮世絵に登場する日本伝統の「酒」についてご紹介します。

※本記事は2025年1月の取材に基づいて掲載しており、現在本展覧会は終了しております。最新情報は渋アートサイト、太田記念美術館公式ホームページ等でご確認ください。

 

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「江戸メシ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

寿司、蕎麦、天ぷらなどの料理、和菓子などのスイーツ、屋台や料亭などのお店が浮かんだ方もいるでしょうか。技術革新が目覚ましい現代では、世界各国の料理をはじめさまざまな「メシ」を手軽に食べたり飲んだりすることができますが、交通手段も限られ電気もガスも通っていない江戸時代の人々もまた、あらん限りの手を尽くしてさまざまなグルメを堪能していました。

その様子を伺い知ることができるのが、太田記念美術館『江戸メシ』展。収蔵品およそ15,000点の中から「食文化」にスポットを当てて集められた約90点の浮世絵を展示しています。

太田記念美術館『江戸メシ』チラシ。

 

■時代を超えてつながりを感じる、江戸の食文化

浮世絵の中のグルメは、江戸の市井の人々と共に実に生き生きと描かれており、今見ても美味しそうで思わずお腹が鳴ってしまうものばかり。料理だけでなくスイーツも充実していたことがわかる作品や、旅の途中に茶店でちょっとお茶をしている姿を描いた作品、お祭りになるといろいろな食べ物を売る屋台が出る様子を伝える作品などから、江戸時代も現代の日本と同じような感覚で食を楽しんでいたのではないかと思うと、当時を生きた人々にも親近感が湧いてきます。

中には、料理ができるのを待つ間につまみでチビチビ始めている呑兵衛の姿や、料亭やお花見の席で美味しい食事とお酒を堪能している様子など、お酒好きな方ならきっと共感してしまう様子を描いた作品も多数展示されていて、浮世絵を見ているこちらもちょっと一杯やりたくなってしまいます。

《江戸名所百人美女 日本はし》歌川国貞(三代豊国) 安政4年(1857年)11月
長火鉢の前に座った女性が小鍋立て(小さな鍋で作る少人数用の鍋料理)が出来上がるのを待ちながら、タコの煮物をつまみにお酒を飲んでいます。現代でも“あるある”の姿です。

そこで今回は、『江戸メシ』で展示されている浮世絵の中に登場し、かつ今でも営業を続ける老舗の蔵元と酒屋さんを、作品とともにご紹介します。展覧会で浮世絵を見た後に、江戸の人々に想いを馳せながら飲む江戸のお酒は、いつもと違う特別な味わいになるかもしれません。

 

●歌川広重《東海道 ― 五十三次 日本橋》×剣菱酒造株式会社(兵庫・灘)

江戸時代以前、地酒は醸造技術が進んでおらず、江戸周辺で造られていたのは濁酒(どぶろく)に近いものでした。江戸時代に入り、樽廻船に乗って江戸に届けられるようになったのが、下り酒(くだりざけ)と呼ばれる伊丹・西宮・灘で造られた清酒。良質な米と水、そして高い醸造技術で造られた酒は、江戸の人々の舌を楽しませて大人気となり、江戸時代末期には年間100万樽、江戸の酒の8割を下り酒が占めたと言われています。

そんな江戸の人気下り酒ブランドの1つが『剣菱』。歌川広重《東海道 ― 五十三次 日本橋》にも剣菱のマークが印された菰樽が登場しており、当時の人気ぶりが伺えます。

歌川広重《東海道 ― 五十三次 日本橋》 嘉永2~5年(1849~52)

様々な人や物が行き交い賑やかな江戸・日本橋の様子を描いた作品の右下に、剣菱の印が入った菰樽を担ぐ男性2人が描かれています。

室町時代に伊丹で創業した剣菱酒造は、約500年もの間、さまざまな家がバトンを継承しながら江戸時代を経て、現代の私たちにも変わらぬ味を届け続けている兵庫・灘にある蔵元です。

左)【兵庫・剣菱酒造(株)】剣菱『極上黒松』デラックス
右)歌川広重《東海道 ― 五十三次 日本橋》より。菰樽に今と同じデザインのしるしが使われています。

この『極上黒松』をはじめ剣菱酒造で現在販売されているお酒にも、浮世絵に描かれている剣菱のしるしが使われています。時代が移り変わり、酒造りに携わる人々もそれを嗜む人々も変化していく中で、変わらない想いが綿々と受け継がれているのがわかる、歴史とともにあるお酒です。

 

●斎藤月岑編・長谷川雪旦画《『江戸名所図会』巻之一》×株式会社 豊島屋本店(東京・神田)

日本の伝統行事のひとつであるひな祭りでは、白酒を飲む風習があります。現代では子どもも飲める甘酒を飲むのが一般的ですが、白酒は童謡『うれしいひなまつり』の歌詞にも登場する、ひな祭りには欠かせないお酒です。

江戸時代、その白酒を販売し人気を誇っていた酒屋『豊島屋』を描いているのが、斎藤月岑編・長谷川雪旦画《『江戸名所図会』巻之一》です。《江戸名所図会》は、江戸近郊の名所や名物をまとめた観光ガイドのような本で、全7巻20冊の大作のうち、巻之一では江戸の中心部の様子が伝えられています。

斎藤月岑編・長谷川雪旦画《『江戸名所図会』巻之一》天保5年(1834)
絵にはたくさんの江戸の人々が生き生きと描きこまれ、まるで喧騒が聞こえてくるよう。じっくり細部まで見ていただきたい作品です。

豊島屋は、慶長元年(1596年)に神田鎌倉河岸(現在の千代田区内神田)に創業した酒屋兼居酒屋で、創業者・豊島屋十右衛門が白酒作りをはじめ、江戸の女性たちに大人気となりました。

《『江戸名所図会』巻之一》に描かれている絵からは、大きな建物の前に数え切れないほど大勢の人が桶を持って群がっているのがわかります。左上には「毎年2月末になるとひな祭りの白酒を求めて夜明けから、遠くからも近くからも客が押し寄せて賑わう」というような内容の文章が添えられており、観光ガイドに載るほどの盛況ぶりだったことが伺えます。

この豊島屋は、現在も東京最古の酒屋として神田で営業を続けており、毎年2月末には白酒の販売も行っているそうです。

左)【東京・豊島屋】江戸の草分 豊島屋の白酒
右)斎藤月岑編・長谷川雪旦画《『江戸名所図会』巻之一》より。作品の右下、豊島屋の法被を着た人が持っている提灯に今と同じデザインのしるしが見られます。作品の中に同じしるしが他にも描かれていますが、いくつ見つけられましたか?

パッケージにはかわいらしいひな人形のイラストと共に《『江戸名所図会』巻之一》にも描かれている豊島屋のしるしが今でも使われていることがわかります。今年のひな祭りは、江戸の女性たちのひな祭りのマストアイテム・白酒を堪能しながらお祝いするのもいいですね。

 

 

 ◆    ◇ ◆渋アート的視点◆ ◇ ◆

太田記念美術館のアイドル!?『そばかぶりねこ』

『江戸メシ』のポスターにもなっている、四代歌川国政《志ん板猫のそばや》。店員さんもお客さんもみんな擬人化した猫の姿で描かれている、ちょっとファンタジックでかわいい浮世絵です。

このお蕎麦屋さんの真ん中に、店員猫がひっくり返した蕎麦を頭からかぶってしまったお客猫が描かれていることにお気づきでしょうか?なんとこのユーモラスな表情のお客猫、太田記念美術館でピンバッジとアクリルスタンドになって販売されています。

『そばかぶりねこ』ピンバッジ450円(税込)、アクリルスタンド700円(税込)。太田記念美術館受付で購入できます。

「あっ!」という声が聞こえてきそうな表情と躍動感で、見るたびに和ませてくれる『そばかぶりねこ』。ぜひ連れて帰ってご自宅で楽しんでいただきたい一品です。

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■今回ご紹介した展覧会

『江戸メシ』 ※本展覧会は終了しました
会期:2025年1月5日(日)~1月26日(日)
会場:太田記念美術館

 \オンライン展覧会 配信中!/
今回ご紹介した『江戸メシ』をオンラインで楽しむことができます。美術館で見たけれどもっと近くでじっくり見たい!という方、遠方にお住まいの方、美術館になかなか行けないという方にもおすすめです。

『江戸メシ』オンライン展覧会はこちら> ※外部サイトに遷移します

 

■今回ご紹介した商品

●【兵庫・剣菱酒造(株)】剣菱『極上黒松』デラックス

 \渋谷で買える/
渋谷 東急フードショー 和洋酒売場(渋谷マークシティ地下1階)
東急百貨店がプロデュースするリカー専門ショップ。「SAKE Terminal」をコンセプトに、ワインやクラフトビール、日本酒など150種類以上の日本の酒を一堂に集めた“NIPPON no SAKE”コーナーや、上質なワインを管理できる試飲機器を導入。ワイン、日本酒を中心に世界のさまざまな銘酒約2,000種類取り揃えています。
   店舗情報、お問合せはこちら> ※外部サイトに遷移します

<東急百貨店のその他の取り扱い店舗>
  たまプラーザ店 和洋酒売場(地下1階)
  吉祥寺店 和洋酒売場(地下1階)
  日吉東急アベニュー 和洋酒売場(1階)
  青葉台 東急フードショー 和洋酒売場(地下1階)
   店舗情報、お問合せはこちら> ※外部サイトに遷移します

東急百貨店 ネットショッピング
 https://www.tokyu-dept.co.jp/ec/p/20FD-sake220506 ※外部サイトに遷移します
  ※入荷状況により、品切れの場合があります。

 

●【東京・豊島屋】江戸の草分 豊島屋の白酒 180ml

店頭発売は2月10日(月)から、ネットショッピングは現在受注承り中で、2月10日(月)以降のお届けとなります。数量限定のため、なくなり次第終了となります。

 \渋谷で買える/
渋谷 東急フードショー 和洋酒売場(渋谷マークシティ地下1階)
  店舗情報、お問合せはこちら> ※外部サイトに遷移します

<東急百貨店のその他の取り扱い店舗>
  たまプラーザ店 和洋酒売場(地下1階)
  吉祥寺店 和洋酒売場(地下1階)
  日吉東急アベニュー 和洋酒売場(1階)
  青葉台 東急フードショー 和洋酒売場(地下1階)
   店舗情報、お問合せはこちら> ※外部サイトに遷移します

東急百貨店 ネットショッピング
 https://www.tokyu-dept.co.jp/ec/p/20FD-sake250104 ※外部サイトに遷移します
 

 

取材協力:株式会社東急百貨店

参考:剣菱酒造株式会社ホームページ https://www.kenbishi.co.jp/ ※外部サイトに遷移します
   株式会社豊島屋本店ホームページ https://www.toshimaya.co.jp/ ※外部サイトに遷移します


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