「バラの宮廷画家 ルドゥーテ展」


秋のバラのシーズンに贈る思いっきりフェミニンな展覧会
 バラは特別である。ヨーロッパでは古来から、数ある花の中でこれほど人を魅了し、美しさの代名詞となってきた花はないだろう。大切なものを包み込むような花びらの重なり、茎や葉とのバランス、甘い香り、そして蕾や実でさえも、そのすべてが人々を虜にしてきた。そして当然この花は、多くの画家たちが描くのだが、ルドゥーテの描くバラは特別である。それは香り以外のバラの魅力を最大限に伝えているだけではなく、まるで新たな品種が登場したような、独特の美の体系を築き上げたからである。
 ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテは、18世紀半ばベルギー南東部サンチュベールに生まれ、若い頃は盛花を描いたオランダの静物画に惹かれていた。そして20代でパリに渡り、植物学の基礎を身につけ、本格的な植物画家として活動を始めた。
 早くから才能を顕わしていた彼がこの世界の第一人者になる過程には、王族や上流階級の人々との出会いがあった。特にルイ16世王妃マリーアントワネットの博物収集室付素描画家に任命されたことは決定的であった。また革命後もナポレオン皇帝妃ジョゼフィーヌらの庇護のもと宮廷画家として賞賛され、「パリ中のすべての貴婦人を弟子にした」といわれている。一方技術的には、点刻彫版(スティップル・エングレーヴィング)という技法のおかげで、繊細な筆遣いを忠実に再現した版画が多くの人に享受されたことも、彼の名声が広まった理由であった。
 ガーデニング・ブームの近年、目にする機会が多くなったボタニカル・アートの中でも卓越した地位を誇るルドゥーテの作品。本展は彼の最高傑作とされる『バラ図譜』を中心に構成され、バラ以外にも『美花選』、『ユリ科植物図譜』、『ジャン=ジャック・ルソーの植物学』からえりすぐった図版を紹介し、ルドゥーテの優れた業績を展観する。また日本が誇る植物学者・牧野富太郎の作品も特別出品される。
 本展は、本物のバラのガーデニングショウとは一味違った、描かれた花で織り成すガーデニングショウといえるだろう。



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