70年代前半、演劇界を賑わした蜷川×清水の久しぶりの組み合わせ。そのこともあってか、観客にはその原点を知っているだろう世代も数多く見られる。開演前から客席にまでスモークが漏れ、埃っぽく、泥臭い雰囲気が漂う。NINAGAWA VS COCOONシリーズの第1弾、『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』が開幕した。
 味方も少数となり、頭の怪我が原因で自分が「将門を討つ武将だ」と思い込む将門。そんな将門に戸惑う影武者たちや、恋人・桔梗の物語。将門を演じた、堤真一は“軽さ”と“重さ”、“狂気”と“正気”をシーンごとに使い分け観客をも煙に巻く。冗談なのか、本気なのか……堤の演技に観客たちも影武者たちと同じように振り回されるような感覚を味わうのではないだろうか。蜷川演出初登場の木村佳乃は、まわりに臆することなく堂々と桔梗の前を演じ、彼女が持つ知的さと、初々しさが舞台に新鮮さを与えている。段田安則は時に滑稽だけれど安定感のある演技で、その姿は将門をはじめ誰もが頼りにしている参謀・三郎そのもの。ゆき女の中嶋朋子は猥雑さをもった演技で、作品そのものにザラザラとした手触りを加えている。また高橋洋は野心のある五郎をスピード感をもって演じ、前半の物語を引っ張っていた。
 一面に階段を使ったセットは圧巻。劇中、本作が書かれた70年代を思い出させる効果音が使用されているが、そこに甘美な懐かしさはない。「今やるからこそ」という蜷川の意志を感じる。後半、照明のあたり具合で重厚に見えていたセットが、コンクリートの建物のような無機質な現代の空間に見える瞬間がある。そこでハッとさせられる。将門が戦った平安時代、70年代を経て、今の私たちはどうなのか?と。清水邦夫の言葉が、深く、痛く刺さる舞台だった。
text by 山下由美(フリーライター)

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photo by 大原狩行


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