


《映画『Beyond the Fringe』のキャスト(ダドリー・ムーア、ピーター・クック、アラン・ベネット、ジョナサン・ミラー)とモデル、『Esquire』》1962年頃 ゼラチン・シルバー・プリント/《カルメン、『Harper's Bazaar』》 1960年頃 発色現像方式印画/《赤信号》 1952年 発色現像方式印画/《足跡》 1950年頃 発色現像方式印画/《床屋》 1956年 発色現像方式印画/《ジェイ》 写真 1950年代・描画 1990年頃 印画紙にガッシュ、カゼインカラー、水彩絵具
ソール・ライター財団蔵 ©Saul Leiter Estate
1950年代からニューヨークで第一線のファッション・カメラマンとして活躍しながら、1980年代に商業写真から退き、世間から姿を消したソール・ライター(1923-2013)。写真界でソール・ライターが再び脚光を浴びるきっかけとなったのが、2006年にドイツのシュタイデル社によって出版された作品集だった。時に、ソール・ライター83歳。この新たな発見は大きなセンセーションを巻き起こし、その後、展覧会開催や出版が相次いだ。2012年にはドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」(日本公開は2015年)が公開され、その名前と作品はさらに多くの人々の知るところとなる。
本展は、ニューヨークのソール・ライター財団の全面的な協力を得て、同財団所蔵の200点以上の写真作品(モノクロ、カラー)、絵画作品、その他貴重な資料を一堂に集め、天性の色彩感覚によって「カラー写真のパイオニア」と称されたライターの創造の秘密に迫る日本初の回顧展である。
ソール・ライター 《タクシー》 1957年 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 ©Saul Leiter Estate
《ソール・ライターのスタジオ風景》©Saul Leiter Estate
絵のような写真、写真のような絵
色が、心に、焼ついて、残る。
残像がずっと。
そして、物語よりももっと、物語なのである。
大宮エリー(おおみや・えりー)プロフィール
主な著書は、『生きるコント』(文春文庫)、失笑エッセイ『なんとか生きてますッ 』(毎日新聞出版)、心の洗濯ができる写真集「見えないものが教えてくれたこと」(毎日新聞出版)。現在、「サンデー毎日」にて連載を担当。
また、近年では画家としても活動。小山登美夫ギャラリーから絵画展『EMOTIONAL JOURNEY』『painting dreams』を発表。2016年十和田市現代美術館にて、『sincerely yours』を開催。2017年は福井県 金津創作の森にて個展を開催。4月22日から6月11日まで。その他、ラジオパーソナリティを務めるなど幅広く活躍中。
©島袋里美
ソール・ライターをまだ知らない人は、この写真展を見たら、「こんなすごい写真家がいたのか!」と、びっくりすると思います。映画などでソール・ライターを知っている人も、「この人、こんなこともやっていたのか!」と、びっくりすると思います。写真好きの人には、大胆な構図や色彩感覚がきっと興味深いだろうし、写真音痴の人(僕もその一人です)も、門外漢を疎外しない温かさ、ユーモアに惹かれるにちがいありません。
柴田元幸(しばた・もとゆき)プロフィール
ポール・オースター『幻影の書』(新潮文庫)、スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』(白水Uブックス)、スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』(白水社)はじめ現代アメリカ文学の翻訳多数。著書に『ケンブリッジ・サーカス』(スイッチ・パブリッシング)など。文芸誌『MONKEY』、英語文芸誌Monkey Businessを責任編集。
ソール・ライターを知ったのはドイツのSteidl社から2006年に刊行された写真集の「Early Color」を見たとき。
画家を志していた彼らしい色彩、構図が絵画的で優雅な作品に一目で惹かれた。世界中で僕と同じ体験をした人が多かったようで、この写真集を通じて彼の作品は世界中に知れ渡った。ストリートを舞台に光で絵を描いていたソール・ライターの作品は、批評や説明なんて必要のない、時代を超えて現代に届いた視覚芸術だと思う。
中島佑介(なかじま・ゆうすけ)プロフィール
恵比寿の店舗は出版社の単位で定期的に扱っている本が入れ替わる本棚に加え、ドイツのSteidl社のメインラインナップが常に並ぶオフィシャルブックショップとなっている。2015年からはThe Tokyo Art Book Fairのディレクターに就任。
ソール・ライターは、歌川広重と同じ「眼」を持っている。
ライターの写真を見て、すぐさま思い浮かんだのが、広重の「名所江戸百景」という浮世絵であった。手前の大きなモチーフから奥をのぞき込む視線。画面から見切れているのに存在感がある人物。余分な説明をそぎ落とす潔さ。ライターと広重に共通するのは、誰もが目にするありふれた都市の日常を、クールに切り取る観察眼。そして、自分だけに見えた一瞬の風景を楽しむ、お茶目で温かな眼差しである。
日野原健司(ひのはら・けんじ)プロフィール
1974年、千葉県生まれ。2001年、慶應義塾大学大学院文学研究科前期博士課程修了。浮世絵専門の美術館の学芸員として、さまざまな浮世絵展を企画。主な著書に『ようこそ浮世絵の世界へ』(東京美術 2015)、『歌川国貞 これぞ江戸の粋』(東京美術 2016)、『戦争と浮世絵』(洋泉社2016)、『かわいい浮世絵』(東京美術2016)、『怖い浮世絵』(共著 青幻舎 2016)などがある。
街を歩く、立ち止まる、視線を注ぐ、カメラを向ける、シャッターを押す、そっと立ち去る。
ソール・ライターの写真が今しも動きだしそうな感覚を与えるのは、ワンショットの内部に、これら一連の時間が滔々と流れこんでいるからだ。
透明感のきわめて強い、都会的なふるまいによって印画紙に定着したNYの素描は、映画であり、音楽であり、あるいは詩そのものである。
平松洋子(ひらまつ・ようこ)プロフィール
東京女子大学文理学部社会学科卒業。生活文化や文芸を中心に執筆活動を行う。『買えない味』(筑摩書房)で第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。『野蛮な読書』(集英社)で第28回講談社エッセイ賞を受賞。近著に『食べる私』(文藝春秋)、『彼女の家出』(文化出版局)など。ロベール・ドアノー写真集「田舎の結婚式」(河出書房新社)監修。
飯沢耕太郎(写真評論家)
ソール・ライターのような写真家は珍しい。ファッション写真の分野で成功をおさめながら、1980年代以降、色彩とフォルムの純粋な美しさを捉えることを希求する「自分の写真」を撮ることだけに専念していく。彼の写真の被写体は、彼の自宅から歩いて行ける範囲の見慣れた日常の光景だ。斜め後ろから、そっと、愛おしむように掠めとられたニューヨークのストリート・シーン。そこにスナップすることの歓びが溢れ出している。
飯沢耕太郎(いいざわ・こうたろう)プロフィール
写真評論家。きのこ文学研究家。1954年、宮城県生まれ。1977年、日本大学芸術学部写真学科卒業。1984年、筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。主な著書に『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書1996)、『デジグラフィ』(中央公論新社 2004)、『きのこ文学大全』(平凡社新書 2008)、『写真的思考』(河出ブックス 2009)、『深読み! 日本写真の超名作100』(パイインターナショナル 2012)、『きのこ文学ワンダーランド』(DU BOOKS 2013)などがある。