第一章 風景画の誕生

ヨーロッパでは15 世紀以降、描かれた窓を通して風景が絵の中に取り入れられはじめ、次第に聖書や神話の物語の舞台として生き生きとした風景表現が登場します。

16世紀にアントワープで活躍し、美術史上初めて「風景画家」と呼ばれたと言われるパティニールは、聖なる主題と背景の風景の比重を逆転させ、はるかなる眺望へと観る者を誘うパノラマ風景を生み出しました。

窓の中の風景

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ホーホストラーテンの画家《聖母子と聖カタリナと聖バルバラ》1510年頃 油彩・板

聖書・神話などの舞台としての風景

ココに注目

アーチ状の開口部の前に立つ2人の人物。聖なる出来事に背を向けて背景に広がる眺望を見渡す彼らは、私たちに「風景を見る」楽しさを教えてくれています。

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南ネーデルラントの画家《東方三博士の礼拝》1520年頃 油彩・板

聖なる主題を小さく配したパノラマ風景

色彩遠近法

青が印象的なパティニールの風景。暖色は視覚的に前に出て見え、寒色は奥まって見えるという色彩の効果を利用し、奥行きのある画面を作り出しています。

ヨアヒム・パティニール《聖カタリナの車輪の奇跡》1515年以前 油彩・板

季節画
巡る季節の礼賛

何世紀もの間、巡りくる季節は、月ごとの農作業やレクリエーションによって描かれてきました。中世後期には、聖職者のための聖務日課書や聖職者でない平信徒のための時祷書に多彩な月暦画が描かれるようになり、次第に月々の営みが豊かな自然表現を伴って描写されるようになります。細部にわたり描写された風景には、1日の時間の流れや月々、あるいは季節ごとに移り変わっていく自然の様子が描かれています。

麦刈りという夏の労働の様子と束の間の休息を楽しむ人々の姿が描かれています。右遠景へと広がっていく風景の中には刈り取られた麦を運ぶ馬車が小さく描かれ、画面のさらに奥へと私たちの視線を誘っています。

ルーカス・ファン・ファルケンボルフ《夏の風景(7月または8月)》1585年 油彩・キャンヴァス

月暦画
「天の時間と地の時間」が織りなすカレンダー・ペインティングの世界

月暦画の世界を堪能できるカレンダー・ペインティングの間が会場中央に登場!

ココに注目

天空の時間の流れを示すため雲の中には黄道十二宮の星座のシンボル(ここでは双子座)が見られます。

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レアンドロ・バッサーノ(通称)《5月》1580–85年頃 油彩・キャンヴァス

ヨーロッパの原風景とも言える月々の営みが描かれた時祷書や月暦画について、『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』(ファクシミリ版)などの参考資料とともに解説いたします。

【参考出品】
《八月の鷹狩り》『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』より ファクシミリ版 個人蔵

牧歌 田園生活の美を謳う

牧歌的理想郷(アルカディア)の魅力あふれる田園生活を謳ったギリシアの『牧歌』(前3世紀)。その思想は、2世紀後のローマの『田園詩』に引継がれていきました。牧歌や田園詩はとりわけルネサンス期のイタリアで人気を博した後、アルプスの北側にも広まり、多くの絵画主題の典拠となっていきました。

ヤン・シベレフツ《浅瀬》1664–65年頃 油彩・キャンヴァス

第二章 風景画の展開

風景そのものの美しさへ

風景は17世紀になると聖書や神話の物語の舞台としてではなく、独立した主題として広まり、次第に専門分野へと分かれていきます。そして17世紀半ばのオランダの画家たちは、身近な風景をそれぞれの感性によって、誇りを持って描き出しました。

「風景画」というジャンル

アールト・ファン・デル・ネール《月明かりの下の船のある川の風景》1665–70年頃 油彩・キャンヴァス

廃墟に宿る美

16世紀以降、ネーデルラントの画家たちは、画家としての修練を積むためにイタリアへと赴きました。イタリアで古代の遺跡に触れた画家たちは、そこに小さな人物を配した「廃墟のある風景」という主題を生み出しました。

アダム・ペイナーケル《ティヴォリ付近の風景》1648年頃 油彩・板

旅の記念の風景画:ヴェドゥータ(都市景観図)

【ヴェドゥ―タとは】

都市の風景や建造物などを透視図法を用いて描きだした景観図。カナレットは18世紀のヴェネツィアを代表する画家で、グランド・ツアーでイタリアを訪れたイギリスの上流階級の人々の間で人気を博しました。

カナレット(通称)《ヴェネツィアのスキアヴォーニ河岸》1730年頃 油彩・キャンヴァス