展覧会への期待メッセージ

中村孝則(コラムニスト)

花は憧れ。かつて花は、命を懸けて航海するほど、情熱やロマンの対象だった。花を愛でるという行為は本来、未知なる世界に想いを馳せる、崇高でラグジュアリーな営みでもある。その意味で、バンクスの軌跡を辿るということは、往時の人々が憧れた冒険旅行のダイナミズムを、追体感することに他ならない。『バンクス花譜集』は、貴重な学術記録を装いながら同時に"未知なる花へ憧れる"という、人間の潜在的な欲望のアレゴリー(寓意画)でもあるのだ。

吉谷桂子(ガーデンデザイナー)

命を懸けて追い求めた未知の植物の存在。1700年代のニューワールドで、伝染病や毒虫の危険に苛まれながらも密林の奥地に入り、バンクス一行が出会った植物は、どれほどの驚きと輝きに満ちていたことか。「はじめて見る植物」に対峙したときの感動と瑞々しさが、この花譜集に宿る。その魅惑的な ART FORM 、その色彩も、姿も、その多くが、私たちにとっても、また「はじめて」の出会いになるはずである。

いとうせいこう(作家・クリエーター)

人はどんどん密林に分け入って、未知の「有効成分」を自分のものとすべく植物を探す。だが、「好奇心」というものが根源だ。知らない花、知らない葉、知らない香りを人は体験したくなる。大金を出しても集めたくなる。「有益性」なんて資本主義による後知恵だ。人類はひょっとするともっと別な色の花が見たくて大陸や海を渡ったのかもしれない。そして、私はそれが果して、百パーセント人類側からの選択だろうか?と思う。植物がそう誘い、森の奥から出て来たのではないか、と。「プラントハンターが植物にハントされた記録」がこの展覧会である。

熊谷隆志(スタイリスト)

いつからでしょうか、6年前くらいかな・・・。 もともと植物好きだった私の頭の中にオーストラリアの植物が飛び込んできました。 tea tree、banksia、melaleucaそしてtea treeの中にもsnowinsummerなどなど、ルックスと同時に特徴的な名前がとても印象的でした。その後オーストラリアの植物は日本の気候にも合うことを知り、僕は自分の庭にも、仕事で行う植栽でも多数のオーストラリアの植物を使ってきました。このバンクスの花譜集はそんなオーストラリアの植物がとても可憐で華奢に見えます。いままで僕の中で男性的だったオーストラリアの植物ですが、このバンクスを見てとても女性的なのではないかと新しい感触を覚えました。 いまでは世界中どこに行ってもオーストラリアから渡ってきたであろう植物がたくさんガーデンやフラワーショップに並んでいます。 また、標本を最初に収集したバンクスの名にちなんで「バンクシア」という名前になった等、植物のルーツについても勉強してみたいなとこの花譜集を見て思うようになりました。

※グッズ売り場では、吉谷桂子氏のファッションブランド「shade」よりボタニカルアイテムのグッズや熊谷隆志氏セレクトのガーデニンググッズも取り扱いますのでお楽しみに!