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フェルメールからのラブレター展 コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ

ヨハネス・フェルメール Johannes Vermeer 《手紙を読む青衣の女》 "Girl Reading a Letter" 1663-64年頃 油彩・キャンヴァス アムステルダム国立美術館 c Rijksmuseum, Amsterdam. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

2011年12月23日(金・祝)-2012年3月14日(水)

Bunkamura ザ・ミュージアム

主な作品・作家紹介

ヨハネス・フェルメール Johannes Vermeer

《手紙を読む青衣の女》

手紙を読む女が、そこにはいない恋人のことばに夢中になっている静かな瞬間が捉えられている。天然のウルトラマリン・ブルー(ラピス・ラズリ)の青色が印象的な本作において、空間は色数を抑えた色彩とモチーフの重なり合いによって示唆され、両腕を体に引き寄せるというしぐさによってのみ、この女性の感情が表現されている。描かれた地図は多くの場合恋人の不在をほのめかすモチーフとされた。当時、船上や海外で働くことを余儀なくされたオランダの男たちにとって、安否を伝える手紙は重要な役割を果たしていたのである。しかし、アジアへの手紙は、商船によって多くの月日をかけて運ばれ、差出人が返事を受け取れるのは少なくとも2年先のことでしかなかった。

《手紙を書く女》

フェルメールの時代、日常的な場面にドラマをもたらす手紙のテーマは、絵画作品において、じつに多岐にわたって取り上げられた。手紙を書く手を一瞬とめ、穏やかにこちらを見つめる女性を描いた本作では、物語的な要素は最小限にとどめられ、光や色、構図を注意深く扱うことで、この瞬間の心理描写に焦点があてられている。髪の毛のサテンのリボンや真珠の耳飾り、アーミンの毛皮で縁どりされた黄色の上着や机の上のひと連なりの真珠など光の反射や材質の違いを巧みに描き分けたこれらの品々は、静謐な空間を見事に演出している。背景の静物画に描かれたヴィオラ・ダ・ガンバは愛と調和の象徴と解される音楽を意味し、美と愛の間の調和ある関係を示唆している。

《手紙を書く女と召使い》

夢中で羽根ペンを走らせる女性と窓の外を眺めて手紙が書き上がるのを待つ召使い。「手紙を書く女」の主題は恋愛と関連づけられていたが、一見穏やかそうなこの情景もよく見ると手前の床には投げ捨てられたような手紙と棒状のロウソク、赤い封蝋があり、激しい感情の高まりがあったことを思わせる。背景の壁に掛けられた≪モーセの発見≫の絵はモーセの母が「へブライ人の子を皆殺しにせよ」と命じたファラオの布告から守るために息子を籠に隠し、その子を見つけて育てたファラオの娘について語る旧約聖書の逸話を主題としている。当時この逸話は、人の心を鎮めるたとえとされ、本作においてはしばしば、恋人との和解を求める女性の心理と結びつけて解される。

<ヨハネス・フェルメール(1632-1675)>

デルフトに生まれたフェルメールは、市のマルクト広場にあった宿屋兼画商を営む両親のもとで少年時代を過ごした。徒弟時代についての資料は残っていないが、同郷の画家カーレル・ファブリティウス(1622-1654)について修業したと推測される。1653年に結婚した後、同年デルフトの聖ルカ組合に親方画家として登録され、画家として独り立ちを果たした。当初は大きなサイズの神話画や宗教画を描いたが、1650年代半ば以降は主に風俗画家として頭角をあらわした。聖ルカ組合の理事を数回にわたり務めていたことからも、生前から高い評価を受けていたことがわかる。妻と11人の子供を残して43歳で歿し、デルフトの旧教会に埋葬された。

《生徒にお仕置きをする教師》

豊かな人物表現と独創的な構図に定評のある多才な画家、ヤン・ステーンはユーモアのある風俗画で人気を博した。当時のオランダで読み書きの技能が重視されていたことをうかがわせるこの学校の場面において、画家は子供たちの表情や身振り、ポーズに重点をおくことで、ここで繰り広げられる小さな心理ドラマを見事に演出している。

<ヤン・ステーン(1625/26-1679)>

ライデン生まれのステーンは、ハーグ、デルフト、ハールレムなど多くの都市で仕事をし、ユーモアのある風俗画を描くオランダ画家として最もよく知られている。人生を壮大な喜劇ととらえたような温かみと活気に満ちた作品は、肖像画や歴史画、宗教の主題、鳥獣画、静物画など多分野にわたる。1672年にはライデンで宿屋を開いており、宿屋や祭りの集まりを描いた作品も多い。多才さ、豊かな人物表現、独創的な構図に加え、鮮紅色やばら色、淡黄色、青緑色などの色彩感覚には特筆すべき技術がみられる。また、本展に出品の《生徒にお仕置きをする教師》をはじめ、子どもを描かせたら天下一品であった。

《中庭にいる女と子供》

デ・ホーホがデルフトで制作した作品の1つ。同様の作品にもよく見られるあずまやや裏壁、井戸、石段は、同一の配置では描かれず、作品の構図全体の中で均衡と調和の感覚を達成することに画家の関心があったことがわかる。少女が持つ鳥かごの中の鳥は、壁によって家族の絆がまもられる中庭自体の象徴とも考えられる。

<ピーテル・デ・ホーホ(1629-1684)>

ロッテルダムに生まれたデ・ホーホは、1650年代~1661年頃の10年間をデルフトで暮らした。その頃描いた作品はデルフト派の代表的作風といえるもの。デ・ホーホの絵画は室内や中庭の情景をとらえたものがほとんどで、そこには人々が家事に勤しむ姿、娯楽やお祭りを控えめに楽しむ姿が描き出されている。フェルメールとデ・ホーホは同時期にデルフトで画家として活躍していたため、二人にはおそらく交流があったのではないかとされている。静穏で、ゆったりとし空気の流れを感じさせるデ・ホーホの作品はフェルメールにも多くの影響を与えたと言われる。本展ではデ・ホーホの代表作4点が並ぶ。

《アブラハム・カストレインとその妻マルハレータ・ファン・バンケン》

画家である父のアトリエで学んだヤン・デ・ブライは、ハールレムの傑出した肖像画家として名を成した。本作はヨーロッパで最も見聞の広い出版業者として名声を得たカストレインと妻の肖像画である。アフリカとアラビア半島を示す地球儀は、カストレインの見聞の広さや幅広いネットワークを示している。

《薬剤師イスブラント博士》

デルフトで活動したこの画家は、フェルメールやデ・ホーホと同様の精密な細密描写で、市民の生活を描きだした。ロッテルダムの名家出身の薬剤師、イスブラント博士を描いた本作では、肖像画と風俗画を融合させたデ・マンの技量が見てとれる。書物や楽器、天球儀は、博士の学問的な関心の幅の広さを示唆している。

《机に向かう簿記係》

若くして画家としての才を認められたリーフェンスは、1626年から5年間、ライデンでレンブラントと共同のアトリエをもち、制作を行った。この時期に描かれた本作では、帳簿をつける老人の顔を横切る光と影の巧みな描写などにレンブラントとの類似点が見られる。リーフェンスは筆の反対側の先で絵具を引っかくことで、髪の質感を強調している。

《手紙を書く女》

物の質感の優れた描写が際立つ優美な作品で知られるこの画家は、生前から大きな名声を得ていた。本作は羽根ペンを手に熱心に手紙を書く女の姿により、秘められた感情を伝える書き言葉の力が表現されている。リュートは愛のシンボルとされ、ここでは手紙の書き手が「音楽をともに奏でる」ことを望む恋人の不在の象徴と解される。