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日常にもっと感動を。パリ・オペラ座へ通う、新たな生活。 パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2013~2014

晩春より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ

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「バランシン/ミルピエ」出演:エルヴェ・モロー氏 インタビュー

バレエやオペラの新しい鑑賞方法として注目されているライブビューイング。パリ・オペラ座の最新作を、生の舞台とはまた違った形で楽しめると好評だ。10月上映予定の「バランシン/ミルピエ」。ジョージ・バランシンの振付による「水晶宮」と、今秋にパリ・オペラ座の新芸術監督に就任するバンジャマン・ミルピエが振り付けた「ダフニスとクロエ」が鑑賞できる。

今回は「ダフニスとクロエ」で、ダフニスを踊ったエルヴェ・モローに、作品や女優ナタリー・ポートマンの夫としても知られる若き新芸術監督ミルピエについて話を聞いた。

 

—作品の見どころを教えてください。

 

僕自身は「この作品をこう見てください」と、これから観る人にはあまり言いたくないんです。でもあえて言うなら、(「ダフニスとクロエ」の)ラヴェルの音楽はとても現代的なので、ちょっとハリウッド映画を思わせるような雰囲気がありますね。映像ならではの美しさもあります。舞台としてだけでなく、ライブビューイングですから音楽や映像の美しさを合わせて見てもらえればと思います。

 

——エルヴェ・モローさん自身も、ライブビューイングを体験したことはありますか?

 

ありますよ。例えばサシャ・ヴァルツが振り付けた「ロメオとジュリエット」を見たことがあります。僕自身は映画館で作品を見ることができる素晴らしさは、やはり舞台ではなかなか見ることができない踊り手の表情を見られるところだと感じています。僕の母は舞台も見に来てくれますが、「あなたの表情も見られるし、スクリーンで見る方がいいわ」と言っています。もちろん生の舞台で見る良さもあるんですけど、いろんな要素があるから見落としてしまうことがあるんですよね。その点、スクリーンだときちんと(見るべきところを)誘導してもらえるので見落とさない。どちらも良さがあります。

 

—撮影されることに抵抗はありませんか?

 

カメラは通常、劇場の奥の方に設置されているので、踊り手はカメラの存在を気にしなくてすみます。だから困るということはありませんが、映像が生放送で中継されるときには「失敗できない」というプラスαのプレッシャーがありますね。

 

—「ダフニスとクロエ」はパリ・オペラ座の新芸術監督であるバンジャマン・ミルピエの振付で話題になった作品です。彼の印象はいかがでしょうか?

 

バンジャマン(・ミルピエ)はアイデアが次から次へと沸いてくるような人です。振り付けに対する文化的教養が高い人。これまで彼自身がダンサーとして様々な振付家と仕事をしていますし、若い振付家をフューチャーしたプロジェクトを立ち上げたりもしています。いかに良い作品にしていくかという、クリエイションの中心的な人物だと思います。実はパリ・オペラ座のなかで企画中の話なのですが、彼が芸術監督に就任したことによって、振付家養成のための部署を立ち上げようという話が持ち上がっています。実力のあるダンサー、若手ダンサーに関係なく、振付をやってみたいという人たちに、その方法を提供するのです。21世紀のバレエをもっと前進させようという、バンジャマンの意図がとても現れている企画だと思います。

 

—「バレエを前進させる」ということに、ライブビューイングも役に立っていると感じられますか?

 

そうですね。実際、バレエは、少しエリート的なお金に余裕がある人が見るものと思われ、閉鎖的な部分がありました。これがライブビューイングによってオープンになったのは、とてもいいことなんじゃないかな。特にクラシック・バレエは未だに偏見があって、甘ったるい、とか、退屈だと思われています。でも、もしライブビューイングのチケットを買っていただき、発見してもらえれば、これなら僕も好き、私でも見られる、と今度は劇場に足を運んでもらうきっかけになる。フランスではライブビューイングを楽しみにして映画館に駆けつけるファンというのが少なからずいて、今回の試みは大成功だといわれています。中継があったときはファンから送られてくるメールが多くなるし、ビビッドな反応が返ってきます。こういう風にバレエの世界が外に向かって開けて行き、大衆に近い芸術になるということは素晴らしいことだと思っています。

 

—日本のファンへメッセージをいただけますか?

 

毎回、来日公演ができることは幸せなことだと思っています。日本の方々は、私たちの芸術、つまりバレエをとても評価してくださっていることがわかっているので、そういう国に戻ってくることができるのはとてもうれしいことです。できるだけ来日公演の数を増やしたいと思っていますし、来年以降の企画もいくつか進行しています。どれかが実現すると思いますが、まずはライブビューイングで会いましょう。Bon spectacle.(公演を楽しんで。)

取材・文:山下由美