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日常にもっと感動を。パリ・オペラ座へ通う、新たな生活。 パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2013~2014

5月より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ

第1作 アイーダ Aida [オペラ] [新演出] ジュゼッペ・ヴェルディ アイーダ

神秘的な古代エジプトの恋物語を演出家ピが近代化 斬新さで客席を圧倒!

 あたかも現地に出かけてオペラ鑑賞しているような臨場感と、どんなにいい席で観ても得られない歌手たちの演技をしている時の表情をクローズアップで―― 一度味わうとやみつきになってしまうのがライブビューイングだ。しかも上演前の客席のざわめきや、この舞台を手がけた指揮者、演出家などのミニ・インタビューまであって、制作意図がわかるのも嬉しい限り。ヴェルディのオペラの中でも人気の高い「アイーダ」が、今回のオペラ・バスティーユ上演版は同劇場初ということだけでなく、パリ・オペラ座としても45年ぶりの公演といった事実も、解説者がまるで自分専用のガイドのように教えてくれる贅沢さ。
 まず幕が開いて目を引くのは、金色に彩られた装置の数々。しかも床が何層にも重なっていて、とても古代エジプトが物語背景には見えない。と、そこに各々かつてのイタリアとオーストリア国旗を持つ男たちが現われ、ますます混乱しているうちに、若き指揮者フィリップ・ジョルダンと気鋭の演出家オリヴィエ・ピの企みが少しずつわかってくる。「アイーダ」の物語本来のエジプトとエチオピアの対立を、ヴェルディが生きた時代のイタリアという国が体験した政治情勢、宗教、国家主義などをストーリー展開にダブらせたというのである。それゆえに「アイーダ」の代名詞とも言える約20分間にも及ぶ"凱旋の場"は猛々しいまでに強烈で、このオペラがアリーナ公演など、巨大化していったのも納得できる。もっとも、指揮者、演出家共に語るのは、「ヴェルディは本作のより私的で繊細な部分を感じてもらいたかったはず」ということだ。実際、ウクライナのオクサナ・ディカによるエチオピアの王女で今は奴隷のアイーダ、アルゼンチンのマルセロ・アルバレスが歌う若き将軍ラダメス、そしてある意味ではもっともせつない立場の王女アムネリス(イタリアのルチアーナ・ディンティーノが熱唱)の愛や嫉妬、後悔の念の表現は、一級の舞台劇のようにセンシティブかつ奥行があって、勇壮な大合唱との違いに心震える。演出の面でも、合唱を聴かせたい場面では舞台を広く使い、少人数の心理描写に焦点を当てる場面では、我々ライブビューイングを観ている人間が、まるで覗き見をしているような緊張感に包まれる。
 勝者の富や権力を象徴する金づくしの装置と、その真逆にあるアイーダとラダメスの永遠の愛を祝すエンディングの無彩色の場。そこにさし込む一条の光の美しさが、ヴェルディの旋律ととけ合っている!

文:佐藤友紀




演目について

  • パリ・オペラ座での上演日:2013年11月14日
  • 上映時間:3時間5分
  • 指揮:フィリップ・ジョルダン
  • 演出:オリヴィエ・ピ
  • 言語:原語(イタリア語)上演
  • キャスト:オクサナ・ディカ/マルセロ・アルバレス/ルチアーナ・ディンティーノ/セルゲイ・ムルザエフ
    ロベルト・スカンディウッツィ/カルロ・チーニ他