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日常にもっと感動を。パリ・オペラ座へ通う、新たな生活。 パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2013~2014

5月より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ

第6作 フィガロの結婚 Le nozze di Figaro [オペラ]

名歌手たちが楽しげに集う舞台 柔らかな光のもとで「人間喜劇」が花開く

 主要な登場人物が重なる、ロッシーニの『セビリアの理髪師』では、あんなに固く愛を誓い合ったアルマヴィーヴァ伯爵と夫人ロジーナ。平穏な日々を送っているかと思いきや、なんと伯爵は、以前は盛んに行われていた「初夜権」なるものを復活させようとしている。しかもその標的は、前作で伯爵と夫人の恋を取り持った、元・理髪師で今は伯爵の家来となったフィガロの婚約者スザンナ。彼女も小間使いとして伯爵夫人に仕えているから、これらの人間関係は何ともきな臭い。
 18世紀後半の高名な喜劇作家ボーマルシェの原作を、モーツァルトは後に『ドン・ジョヴァンニ』でもコンビを組むダ・ポンテにリブレット(台本)を書いてもらい、ストーリーと音楽の流れが理想的なオペラに仕上がった。
 物語の舞台は、スペイン、セビリア近郊のアルマヴィーヴァ伯爵邸。フィガロが小間使いスザンナと結婚する日が近いと知りつつも、夫人ロジーナに少し飽きてきた伯爵は、機会を狙ってはスザンナにちょっかいをかける。いや、そればかりか、封建領主には普通だった「初夜権」の復活まで匂わせて、フィガロとスザンナを不安にさせる。こうしたところに、ロジーナに横恋慕していた医者ドン・バルトロ、伯爵の小姓で恋多き若者ケルビーノ、音楽教師のドン・バジーリオなど、各々に個性的なキャラクターが次々に登場して、物語を引っかき回す。モーツァルトが天才的なのは、フィガロをはじめとする4人の主要人物たちはもちろん、これらの脇役たちにも素晴らしいアリアを作曲していることだ。特にオペラに詳しくなくとも、ケルビーノが歌う"恋とはどんなもの?"やドン・バジーリオのアリア"長いものには巻かれろ"などのメロディは、きっと聴き覚えがあるだろう。スザンナの従姉妹バルバリーナの"失くしてしまった"1曲とっても、本作が「類稀な傑作オペラ」と称される所以だ。
 この名作を、イタリアの伝説的演出家ジョルジョ・ストレーレルが手がけたのが本作。ストレーレルの演出は、物語の時代を思い起こさせるかのような、人工的な色合いを避けた柔らかな光が特徴。衣装も装置も、細かいところにまで気を配っている。指揮はフィリップ・ジョルダン。ルカ・ピサローニとエカテリーナ・シウリーナが演じる若いカップルと、ベテランのリュドヴィク・テジエ&バルバラ・フリットリの伯爵夫妻は、身分の差を超えた知恵比べを、はつらつと表現。大騒動の後の、愛の確認には、誰もが感動することだろう。ストレーレルの古典的な演出を甦らせることによって、作品に威厳すら加わった、奇跡的なプロダクションだ。

文:佐藤友紀

演目について

  • パリ・オペラ座での上演日:2010年
  • 上映時間(予定):3時間12分
  • 指揮:フィリップ・ジョルダン
  • 演出:ジョルジョ・ストレーレル
  • 言語:原語(イタリア語)上演
  • キャスト:ルカ・ピサローニ/エカテリーナ・シウリーナ/リュドヴィク・テジエ/バルバラ・フリットリ/カリーヌ・デエ他