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2024.03.23 UP

[report]
トークとミニ・コンサートで《魔笛》がもっと面白くなる!特別イベントレポート

Bunkamura35周年記念公演 ORCHARD PRODUCE 2024 鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博 モーツァルト作曲 オペラ《魔笛》の特別イベント「オペラ・作り方のひみつ~未来のオペラを想像する」が、2024年2月23日に東京・めぐろパーシモンホール 大ホールで行われました。

この特別イベントは、より多くの方にオペラに親しんでいただくため、普段はなかなか聞くことができない指揮者や演出家の考えに触れ、演奏の迫力を身近に感じていただくプログラムです。本番公演の休演日にも関わらずたくさんのお客様が参加したこのイベントに、オープンヴィレッジのスタッフも行ってきました!そのレポートをお届けします。

 

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はじめに、《魔笛》の指揮を務める鈴木優人さんが舞台上に登場。オペラの作り方についてお話いただきました。

 

鈴木さん 「昔、オペラという総合芸術を作るにはまず台本と楽譜が必要でした。『魔笛』の台本を書いたのはエマヌエル・シカネーダー。そして、作曲はヴォルフガング・A・モーツァルト。この2人のコラボレーションで、モーツァルトが35歳で亡くなる1791年にこの作品は誕生しました。200年以上も前の作品にいまだに私たちが心を動かされているという事実は、本当に驚くべきことだと思います」

 

客席の皆さん、鈴木マエストロのお話に真剣に耳を傾けます。

鈴木さん 「今の時代にオペラを作るには、劇場を持っている人、もしくは劇場を借りる人、つまりプロデューサーが“このオペラを取り上げよう”ということを決めます。そして、どういうスタイルでオペラを上演するかを決めていきます。
演奏会形式やセミステージといった舞台上でオーケストラと歌手が一緒になって上演するオペラもありますが、今回の《魔笛》は本格上演ということで、オーケストラ・ピットにオーケストラが入り、舞台上では歌手が歌うというスタイル。オーケストラ・ピットがある劇場だと、指揮者はピットの真ん中から舞台が一望でき、かつオーケストラがお客様と歌手の間にいるので、様々なバランスの調整がしやすいということがあります。
次のステップは、舞台上でどのような舞台装置や装飾を展開するかを考えます。今回は、日本画家の千住博さんに全面的にアートクリエイションに加わっていただき、千住さんのアートを映像のムーチョ村松さんが舞台上の紗幕という布を使って投影します。
そして、歌手が着る衣裳は、CFCLというブランドの高橋悠介さんがデザインを手掛けています。『魔笛』を現代に蘇らせるということで、今の時代に対してどういうメッセージを持っているのか、制作チームみんなでたくさん話し合いました。その中で、高橋さんのファッションが持っている哲学や現代性、カラフルなデザインが『魔笛』のキャラクターにピッタリ合いました。
本当にたくさんのクリエイティブなアイデアが集まってできるのが、オペラということなんですね」

 

様々なフィールドで活躍するトップクリエイターが集まって、新しい《魔笛》を作り上げていることがよくわかるお話でした。

次に、《魔笛》を演出する飯塚励生さんが舞台上に招かれ、劇中に登場する個性豊かなキャラクターや演出のアイデアについてお話いただきました。

 

飯塚さん 「『魔笛』の主人公は王子タミーノ。実は、もともと台本には“ジャパニーズ・プリンス”と書かれているんですよ。当時はジャポニズムのスタイルがだんだん始まってきた頃なので、ヨーロッパから見たいちばん遠い国、興味深い国の王子という設定だったのだと思います」

 

『魔笛』に出てくる王子が日本と関係があるとは、何だか親近感を覚えます。

飯塚さん 「鳥刺しのパパゲーノが担ぐ鳥かごは、他の公演で何度も観ているので何か違う形で表現したいと思っていたんですね。そうしたらちょうど、小道具の打ち合わせに行く前にウーバーイーツが目の前を通ったんです。“これはちょうどいい!”と思いました(笑)。なぜなら、『魔笛』はドイツ語で『Die Zauberflöte』と言って、『uber』という言葉が入っているんです。『Zauber』は“魔法”という意味ですが、『uber』は“そちらへ”とか“~を超えて”という意味もあって、それで鳥を運ぶパパゲーノには鳥かごではなくウーバーイーツのようなリュックを背負ってもらいました(笑)」

 

小道具の細かいところにも、現代の観客が楽しめる言葉遊びが隠されていたんですね。

 

飯塚さん 「他には、物語の終盤でパパゲーノが魔法の鈴を鳴らすと、老婆に扮していたパパゲーナが本来の美しい姿で登場するシーン。その鈴の音色を鈴木マエストロがグロッケンシュピールという楽器で演奏するのですが、それが何となく新幹線が駅に到着するメロディーのような感じがしたんです。そこで、たまたま千住博さんのお母さまがずっと取っておいたという、千住さんが5歳の時に描いた新幹線の絵を提供してもらって、パパゲーナの登場シーンに使いました」

 

現在の美しい千住さんの絵と、5歳のかわいらしい千住さんの絵。その両方が舞台美術で使われている、歳月を飛び越えたユニークな演出。
他にも、今回の《魔笛》ならではの工夫やアイデアをお話いただき、モーツァルトとシカネーダーが初めて大衆のために市民劇場で上演した『魔笛』へのオマージュを感じるような、楽しいアイデアが散りばめられていました。

 

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そして、本公演はモーツァルトが生きた時代の楽器=古楽器(ピリオド楽器)を使って『魔笛』を演奏する日本初演であるということで、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のオーケストラメンバーから、古楽器が紹介されました。
フルートはモダン楽器ではシルバーやゴールドで作られているものが主流ですが、モーツァルトの時代には黒檀という硬い木でできていて、キーの数も作曲家の時代によって異なり、バッハの曲では1つ、モーツァルトの曲では4つか6つ、ベートーヴェンになると8つと、段々増えていきます。

  

トランペットやホルンも現代のものとは形が異なり、トランペットは全体的にシンプルな作りでピストンが無い一方長さは現代のものよりも長く、ホルンはバルブが付いておらず口や手で音階をコントロールする形。また、ヴァイオリンには顎当てや肩当てが無く、チェロも床に固定するエンドピンが無いため両足に挟んで演奏するなど、現代楽器とは異なる要素がたくさんありました。

  

形が違えば音色も違うということで、ここからは鈴木優人さんによる指揮、楽器の説明をしてくれたBCJのメンバーが演奏、そして、夜の女王のカバーキャスト・ソプラノの高橋維さん、タミーノのカバーキャスト・鈴木准さんを迎えて、ミニ・コンサートが始まりました。

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合奏アンサンブル バッハ・コレギウム・ジャパン

フルート:鶴田洋子さん/オーボエ:三宮正満さん/トランペット:斎藤秀範さん/ホルン:福川伸陽さん
ヴァイオリン:若松夏美さん(コンサートマスター)、高田あずみさん/ヴィオラ:成田 寛さん/チェロ:山本 徹さん/コントラバス:今野 京さん

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●第1幕 タミーノのアリア「助けて!助けて!死んじゃうよ…」
1曲目は、序曲が終わった後に、物語の冒頭からタミーノが大蛇に襲われ逃げ惑う様子が描かれる曲です。王子が必死に大蛇から逃げて助けを呼び、どうなってしまうのだろうとドキドキハラハラする始まりの曲でした。

●第1幕 夜の女王のアリア「恐れないで、若者よ」
2曲目は、夜の女王が初めて登場するシーンです。娘をさらわれた母親の深い嘆きと悲しみが、強弱の激しい歌唱と情感たっぷりの演技で、タミーノ、そして観客の同情を誘います。

●第1幕 タミーノのアリア「なんと美しい絵姿」
続いて3曲目、夜の女王の娘パミーナの美しい絵姿に一目惚れして歌うタミーノのアリアです。うっとりとした甘い歌声、そして運命の恋に目覚めた活力を感じる歌唱でした。

●第2幕 夜の女王のアリア「復讐の心は地獄の炎のように」
そして最後に、高僧ザラストロになびいている娘に怒りを爆発させて、“このナイフでザラストロを殺しなさい!”と命じる、夜の女王の真骨頂。手に汗握る超絶技巧で、夜の女王の燃えたぎる怒りに圧倒される一曲です。

ミニ・コンサートとは言いつつ、現代楽器とはまた違うアンティークな音色の古楽器の演奏、そして高橋維さんと鈴木准さんの素晴らしい歌唱と演技を堪能し、お客様からは「ブラボー!」のかけ声や、カーテンコールのような盛大な拍手が送られていました。約1,000席という贅沢な空間で、音楽や歌そのものの響きを全身で感じられる、そんなミニ・コンサートでした。

 

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そしてイベントの最後には、ご来場のお客様から抽選で5名の方が参加する鈴木優人さんご案内のオーケストラ・ピットツアー、20名の方が参加する飯塚励生さんご案内のバックステージ・ツアーが行われました。
抽選で選ばれたラッキーな参加者の皆さんは、休日ということもあってか若い方からベテランのクラシック好きの方、老若男女さまざまな方がいらっしゃいました。

オーケストラ・ピットツアーでは、ふだん立ち入ることのないオーケストラ・ピットに入り、劇中に出てくる小道具を間近で見たり、鈴木優人さん自ら参加者一人ずつ指揮台に案内して2ショット写真や指揮のポーズで記念写真を撮ったり、指揮台からの舞台の見え方を体感したりと、サービス精神旺盛な鈴木さんによるツアーが始まりました。質問は何でもOK!ということで、オーケストラ・ピットの深さについて、それぞれの楽器はどの場面でどんなふうに奏でるのかなど、参加者のみなさん興味のあることを直接鈴木さんに投げかけていました。グロッケンシュピールやバロックティンパニなど、あまり見ることのない古楽器を観察して、「へぇ~」「知らなかった」と、感心する声が聞こえてきます。鈴木さんからは、「今回のパパゲーノの笛は、役を演じている大西宇宙さんが実際に舞台上で吹いているんですよ」「歌手の方が歌って演技をしながら指揮者の位置が分かるように、暗いオーケストラ・ピットの中でも指揮者の後ろの壁だけ白くしているんです」など、客席から覗くだけでは知りえない秘密や工夫を教えてもらい、参加者皆さんのワクワクした笑顔が印象的なオーケストラ・ピットツアーでした。

一方、バックステージ・ツアーでは、飯塚励生さんの先導で舞台の裏側を見学しました。舞台袖から舞台中央へ移動すると、そこは《魔笛》の世界。まずは、千住博さんのアートを投影するバトン(舞台の天井付近にある物を吊るための棒)に吊られた紗幕を確認します。紗幕は間近で見ると網目のような模様になっていて、紗幕越しに客席が見えるかどうかを体験しました。舞台上の階段に施されている仕掛けを見学するなどして、再び下手袖に戻り、バトンの昇降を操作するコントロール盤や、指揮者に合図を送るランプを見ました。「大声でマエストロに“準備出来ましたー!”というわけにはいかないですからね(笑)」と、飯塚さん。次に、袖に置いてある小道具を見学。“パミーナの絵姿”は、通常の『魔笛』では平面の絵を使用することが多いですが、今回の《魔笛》では透明なボール。その中にキラキラした装飾に包まれたパミーナの姿が見えます。その他、千住博さんが5歳の時に描いた乗り物の絵や、石になってしまうパンなども。舞台裏を通って上手袖に移動すると、衣裳の早替えができる簡易試着室のようなスペースがあります。楽屋まで戻る時間がない時に使用します。

舞台の上からスタートしたバックステージ・ツアーは、下手袖から舞台裏を通って上手袖に抜け、上手袖からまた舞台に戻るまさに《魔笛》一周ツアー。飯塚さんは、舞台機構の基本的な説明だけでなく、それを今回はどう生かしているのか、別の劇場だとどうなのかといったことまでたっぷり紹介してくれました。参加者の皆さんは、舞台の上を見上げたり、舞台から客席までの近さに驚いたり、小道具やセットを間近に見たりと、興味津々。飯塚さんの熱いお話から、観客に舞台を楽しんでいただくための舞台裏での色々な工夫が伝わってきて、これからのオペラ鑑賞では新たな視点も加わりそうです。最後に「ここでみなさんが見たことはヒミツで!」といたずらっぽく笑う飯塚さんが印象に残るバックステージ・ツアーでした。

ORCHARD PRODUCEやBunkamuraオープンヴィレッジでは、今後もよりオペラ作品に親しみや興味を持てるようなイベントやワークショップを企画してまいりますので、どうぞご期待ください。

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【オペラの世界をバーチャル空間で楽しむ<Bunkamuraメタバース>オペラ特集公開中!】

より多くの方々に文化・芸術に触れて楽しんでいただくために、先月<Bunkamuraメタバース>がオープンしました。現在オープンを記念し、Bunkamuraメタバース Galleryにて、Bunkamura35周年企画ポスター展「Bunkamuraオペラの軌跡~これまで、そしてこれから~」を開催中です。

《魔笛》特別イベントでは、舞台上の大きなスクリーンに<Bunkamuraメタバース>空間を投影し、アバター"masato"が体験ツアーをご案内。未来の可能性を感じる新しい鑑賞体験をご紹介しました。1989年から刻まれるオペラ公演のポスターや、貴重な映像資料、そして《魔笛》特別展示コーナーでは歌手の紹介やクリエイターからのメッセージ、衣裳写真展示などをお楽しみいただけます。ぜひ「文化芸術×メタバース」のバーチャル空間をお楽しみください。
なお、今回の《魔笛》特別イベントのダイジェスト映像も、Bunkamuraメタバース Theatreにて公開中です。

◆Bunkamuraメタバースはこちら >