CAS通信
2025.12.26 UP
第2期生 特別ワークショップレポート 第三弾 行定勲先生
11月27日の「コクーン アクターズ スタジオ(CAS)」特別ワークショップの講師は、映画監督の行定勲さん。映画のみならず、今年上演された『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』など、舞台演出も数多く手がけているとあって、「演劇と映画の狭間にあるものの探求」がテーマになりました。具体的には、「実験的演出と、そこから派生した演技を映像化」として、前半で試みたエチュードの中から行定先生が面白いと思ったものを、後半にカメラで撮影。映像の芝居の世界を実感できる時間になりそうです。
「松尾スズキさんはきっと、舞台だけじゃなく後に映像も経験していく人たちを排出したいと思っているはずです」。
受講者たちにそう発破をかけて発表されたエチュードの設定は──。「フードコートに人々が居合わせていてそれぞれが出会いを期待している。目線が交錯した人をいいなと思ったら誘って連れ出す。台詞は一切言わないこと」というもの。椅子が並べられた舞台上をフードコートに見立て、8〜10名のチームごとに誘い合いが始まります。

最初のチームはまず、連れ立って出ていく組ができるまでに時間がかかり、「映画的な体感時間は5分くらいがいい。もっと無駄をなくせる」と行定先生。また、出ていこうとジェスチャーをし合った二人に「何も説明しないで心の声を見せたい。それができるのが映画です」と、映画の核心を伝えてくれます。
その後は5分という時間制限を設けて各チームがトライ。動きが加速していき、行定先生も面白い芝居にコメントしていきます。
近寄って足先を軽く蹴った受講生には、「面白い。ただ、そのあと一回相手にボールを渡して、相手がどうするのかを見る時間がほしかった。もしかしたらその人は別の人のところに行くかもしれないし(笑)。そこでドラマが生まれる。そういうことを望んでます」。
さらに、椅子を蹴り倒すというバイオレンスな行動から相手を連れ出すことに成功した受講生も。先生は、「60年代の映画みたいだったね」と面白かった映画を例に出し、「大島渚監督の『青春残酷物語』とか、篠田正浩監督をはじめとした松竹ヌーヴェルヴァーグと言われた頃の映画に演劇っぽいアプローチがあって、リアルとリアルでないものが混在しているんです。さっきの椅子を蹴ったのも映像だったら、強烈な芝居をしたあとの背中がリアルになったり、両方が合わさると面白い」とアドバイス。
一人が足を踏み鳴らし、それに応えるように周りもタップで会話を始めて、そこから二人が抜け出していくという芝居や、一人が椅子を動かして並べ始めたことから椅子取りゲームが始まるという場面が生まれたときには、「足を使った会話のシーンは映画に挟めると思うし、椅子取りゲームはリアルから離れて不条理になっていくのが演劇ならでは」と、演劇的な芝居を面白がっていました。

そうして思った以上に演劇的な芝居が飛び出したことで、映像に収めきれないと判断した行定先生は、後半は、自身が作った設定で撮影をすることに。「一人の女が何かを期待して座っている。そこに一人の男がやって来て座り、自動販売機で飲み物を買うために立ち上がって女の前を通り、戻ってきたら女に近い席に座る。やがて女はその男に感情を残しながら立ち去る」という短いシーンに、先生が指名した男女が挑戦していきます。
1組目で早くも「これは短編映画の出会いのシーンになる」と実感した行定先生。「タイトルは『欲情』にします」と、ご自身の創造も膨らんだ様子です。それに従って、座る位置、座っている間の動き、目線、どこで立ち上がってどう動くかなど、それぞれが自由に考え、感情を作っていきます。最終的に全5組の中から気になった男女をピックアップして2組が再トライ。最後の組を「これが決定版」として顔のアップの撮影を追加し、質疑応答の間に編集されたものを全員で鑑賞しました。
決定版は何が理由だったのか、行定先生はこう締めます。「映画は80%くらいがキャスティングで決まります。自分のキャラクターがどれくらい出せるのか、そのキャラクターが撮りたいものに合っているかというところがポイントでした。ビジュアルも含め、最後の二人がしっくりきたということです」

別の設定であれば別のキャラクターを求めたとのこと。なかでも演劇的修練を積んでいる受講生には、「台詞があったらさらに面白くなると思った」と、誰にも可能性があることを示し、終了後のインタビューでもこんな言葉を残しました。
「僕自身も『Unknown to Known academy』というプロジェクトを主宰しています。まだ知らない人を知るという意味で命名しましたが、知るきっかけがないと消えていく才能はいっぱいある。だから松尾さんも、このコクーン アクターズ スタジオを始められたのでしょう。また、皆さん自身も己を知ることが大事かなと。自分のキャラクターを知って活かし、知らない自分を監督や演出家に引き出してもらうことで広がっていくと思います。
映画も演劇も今はいい状況にあるとは言えません。でも、衰退しているときがチャンスなんですよね。僕自身も低迷している時期に映画界に入ったからどさくさに紛れて監督になれたわけで(笑)、本気でやりたい人にとってはアピールしどきなんです。そして、こうして学んでいる人たちが熱量を持ってやっていけば、この衰退は止められるのではないかと思っています。熱量を持って次の世代につなげていってもらいたいです」

文:大内弓子