N響オーチャード定期

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2024.01.05 UP

【第127回】<ブラームス・チクルス>公演の聴きどころ

第127回には、近年、指揮者としても活躍している、ベルリン・フィル首席クラリネット奏者、アンドレアス・オッテンザマーが登場し、ブラームスの名曲をお届けする。周知のように、アンドレアスの父はウィーン・フィル首席クラリネット奏者であったエルンスト・オッテンザマーであり、兄はウィーン・フィル首席クラリネット奏者であるダニエル・オッテンザマーだ。父が存命の頃は、3人で「ザ・クラリノッツ」というクラリネット・トリオも組んでいた。
一番の注目は、ブラームスの晩年の名曲、クラリネット・ソナタ第1番をオーケストラ伴奏(ブートラック&オッテンザマー編曲)で披露することであろう。ある意味、ブラームスのクラリネット協奏曲ともいえるこの編曲版で、オッテンザマーのクラリネットの妙技が満喫できる。また、自らのソロ・アルバム「ブラームス:ハンガリアン・コネクション」に収めるなど、彼が愛する「ワルツ作品39-15」、「『愛の歌』作品52から〈一羽の小さなかわいい小鳥〉」、ハンガリー舞曲第7番の3曲が聴けるのも楽しみ。
もちろん、指揮にも注目である。「大学祝典序曲」や「ハイドンの主題による変奏曲」など、ブラームスにしては明るく楽しい曲が並び、親しみやすいハンガリー舞曲の第1番から第6番までが取り上げられる。誰もが耳にしたことがあるであろうハンガリー舞曲第5番のような超名曲をN響の演奏で聴けるのはうれしい。 アンドレアス・オッテンザマーは、2023年の東京・春・音楽祭の「イタリア・オペラ・アカデミー in Tokyo」で巨匠リッカルド・ムーティに学ぶなど、指揮の研鑽にも努め、これまでに、東京交響楽団、MDRライプツィヒ放送交響楽団などを指揮している。指揮者としては経験がまだ浅くとも、ベルリン・フィルのメンバーとしてキリル・ペトレンコやラトルなど現代最高峰の指揮者たちと共演し、音楽家としては既に十分なキャリアを積んでいる。N響との初共演が本当に楽しみである。


文・山田治生(音楽評論家)