N響オーチャード定期

TOPICS

2022.12.28 UP

【第122回】曲目解説

 

本日は「ウィーンのニューイヤー」のタイトルで、ヨハン・シュトラウス・ファミリーのウィーン音楽とミュンヘン出身のリヒャルト・シュトラウスのウィーンにちなんだオペラ「ばらの騎士」の組曲を中心に楽しみます。オペラ経験の豊富な沼尻竜典さんの指揮で、砂川涼子さんと宮里直樹さんという日本のオペラ界を代表する今が旬の歌手たちが歌うオペレッタの名曲も新年にふさわしい華やかなひとときを彩ります。


本日の演奏会は、二人のシュトラウスを中心にプログラムが組まれている。一人はミュンヘン出身のリヒャルト・シュトラウス(1864~1949)、もう一人はウィーン出身のヨハン・シュトラウス2世(1825~99)。
リヒャルト・シュトラウスは、作曲家としてのキャリアの前半は「ドン・ファン」や「英雄の生涯」などの交響詩に取り組み、後半では、「サロメ」、「ばらの騎士」、「アラベラ」、「カプリッチョ」などのオペラの傑作を次々と発表した。
一方、ヨハン・シュトラウス2世は、「ラデツキー行進曲」の作曲者として知られるヨハン・シュトラウス1世(1804~49)の長男として生まれ、”ワルツ王”と呼ばれたように、ウィンナ・ワルツ、ポルカ、オペレッタに数多くの名作を残した。そして、弟のヨーゼフ・シュトラウス(1827~70)、エドゥアルト・シュトラウス1世(1835~1916)らも作曲家として活躍し、シュトラウス・ファミリーは、ウィーン音楽の象徴ともいえる存在となった。



■R.シュトラウス:歌劇「カプリッチョ」より”弦楽六重奏曲”

「カプリッチョ」は、R.シュトラウスの最後のオペラ。1942年に初演されたとき、彼は78歳になっていた。1770年代のパリ近郊の貴族の邸宅を舞台に、「言葉が先か、音楽が先か」がテーマとなっている。前奏曲は、弦楽六重奏曲のために書かれ、しばしば単独で取り上げられる。本日は弦楽合奏で演奏。
 

 弦楽



■R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲

R.シュトラウスの最も人気の高いオペラといえば、「ばらの騎士」(1911年初演)に違いない。
若い貴族オクタヴィアンと不倫の関係にあった元帥夫人が、ゾフィーという若い娘の出現により、オクタヴィアンから身を引くというストーリー。ホフマンスタールは、“ばらの騎士“(結婚の前に、男性が女性に使者を使って銀のばらを贈る儀式)という18世紀半ばのウィーンに実際には存在しなかった貴族の風習を創作し、オペラの台本を作り上げた。
シュトラウスの書いた音楽が魅力に溢れている。第1幕冒頭の前奏曲では、オクタヴィアンと元帥夫人の官能の夜が描写される。第2幕のばらの騎士の到着や銀のばらの贈呈でのきらめく音楽も見事。元帥夫人のいとこのオックス男爵が口ずさむワルツ(18世紀半ばのウィーンは、まだレントラーやドイツ舞曲の時代で、ワルツが一般的になるのは19世紀になってからであったが、シュトラウスは、敢えてこのオペラにワルツを取り入れた)は、オーケストラが奏でる華麗なワルツとなる。そして第3幕最後の元帥夫人、ゾフィー、オクタヴィアンによる三重唱。シュトラウスは生前、もし自分が死んだらその葬儀ではこの三重唱を演奏するように、と遺言を残したという。
本日演奏されるのは、それらの聴きどころを組曲にしたものである。1945年にブージー&ホークス社から出版された楽譜には明示されていないが、指揮者アルトゥーロ・ロジンスキーによる編曲だと推測されている。

 

フルート3(ピッコロ1)、オーボエ3(イングリッシュホルン1)、クラリネット4(Esクラリネット1)、バスクラリネット1、ファゴット3(コントラファゴット1)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、スネアドラム、トライアングル、タンバリン、グロッケン、ラチェット、ハープ2、チェレスタ、弦楽


 

■J.シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲

「こうもり」(1874年初演)はJ.シュトラウス2世の代表的なオペレッタ。アイゼンシュタイン男爵は、ファルケ博士の誘いでオルロフスキー公爵の夜会に出ることになり、そこでハンガリーの貴婦人を口説こうとするが、彼女は実はアイゼンシュタインの妻ロザリンデが仮装していたのであり、アイゼンシュタインは浮気が妻にばれてしまう、というストーリー。

序曲は、喜歌劇の聴きどころをつなぎ合わせた名曲でしばしば単独で演奏される。オーケストラの全奏で華やかに始まり、ヴァイオリンが優美な旋律を歌う。そして、鐘の音。流麗なメロディのあと、活発な舞踏会のワルツとなる。その後、一転してオーボエが物悲しい旋律を歌うが、それも陽気なポルカやワルツに変わって、華々しく結ばれる。

 

フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、大太鼓、シンバル、スネアドラム、トライアングル、チャイム、弦楽



■J.シュトラウス2世:喜歌劇「ヴェネツィアの一夜」より”さあゴンドラにお乗り”

喜歌劇「ヴェネツィアの一夜」(1883年初演)は、カーニヴァルの夜、女好きのウルビーノ大公グイードがヴェネツィアの女たちにしてやられるというストーリー。「さあゴンドラにお乗り」は、大公に仕える理髪師カラメッロが、ゴンドラ漕ぎとなって、女性を船に乗せる舟唄。

 

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、ティンパニ、ハープ、弦楽


 

■レハール:喜歌劇「ジュディッタ」より”私の唇は熱いキスをする”

フランツ・レハール(1870~1948)は、20世紀を代表するオペレッタ作曲家。ハンガリーで生まれ、ウィーンで活躍した。「ジュディッタ」(1934年初演)は、レハールの最後の大作。陸軍大尉オクターヴィオと人妻ジュディッタとの恋を描く。「私の唇は熱いキスをする」は、ナイト・クラブの歌手となったジュディッタによって歌われる。

 

フルート3(ピッコロ1)、オーボエ2、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、タンバリン、カスタネット、ハープ、弦楽


 

■ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」

ヨーゼフ・シュトラウスは、ヨハン・シュトラウス2世の弟。彼のワルツの抒情的な美しさは、兄のそれに勝るとも劣らない。42歳の若さで急逝。彼の代表作の一つである「天体の音楽」は、ウィーンの医学生の舞踏会からの依頼に応えて書かれ、1868年に初演された。天体のハーモニーと神秘を感じさせる名曲である。

 

フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2、クラリネット2(Dクラリネット1)、ファゴット2、ホルン4、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、スネアドラム、トラアングル、ハープ、弦楽


 

■レハール:喜歌劇「ほほえみの国」より”君はわが心のすべて”

「ほほえみの国」(1929年初演)は、ウィーンと北京を舞台とした、伯爵令嬢リーザと中国の外交官スー・チョン殿下の悲恋の物語。愛するスー・チョンが中国のしきたりによって4人の女性と結婚しなければならないことを知ったリーザに、スー・チョンは「君はわが心のすべて」と歌う。

 

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、大太鼓、シンバル、ハープ、弦楽


 

■ジーツィンスキー:ウィーン、わが夢の街

ルドルフ・ジーツィンスキー(1879~1952)はウィーン生まれ。彼の代表作である「ウィーン、わが夢の街」は1914年に作曲され、作詞も彼が手掛けた。ウィーンへの思いを歌う甘美な旋律は世界中の人々に愛されている。

 

 弦楽


 

■J.シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」

「美しく青きドナウ」。もともとは、ウィーン男声合唱協会の指揮者からの依頼で、1867年に合唱曲として作曲された。そして、パリの万国博覧会で演奏されたオーケストラ版が大人気を博し、以後、世界中でこのワルツが演奏されている。冒頭、弦楽器のトレモロにのって吹かれるホルンの旋律に、ドナウ川の源流と森が目に浮かぶよう。

 

フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン1(バストロンボーン1)、テューバ、ティンパニ、大太鼓、スネアドラム、トライアングル、ハープ、弦楽


 

■レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より二重唱”とざした唇に”

「メリー・ウィドウ」(1905年初演)はレハールの代表作。とある小国のハンナは、亡夫の莫大な遺産を受け継いでいた。パリ駐在の大使ツェータは、ハンナがパリで外国人と結婚して、遺産が他国に流出することを怖れ、大使館書記官のダニロに彼女と結婚させようとする。ハンナとダニロには過去があり、それが二人の関係をこじらせていた。 「とざした唇に」は、物語の終盤、誤解が解け、ハンナとダニロが歌う愛の二重唱。

 

 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トロンボーン3、ティンパニ、ハープ、弦楽

 


曲目解説 山田治生(音楽評論家)