N響オーチャード定期

2017-2018 SERIES

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セバスティアン・マンツ

2月のN響オーチャード定期に出演するクラリネット奏者のセバスティアン・マンツさんにメールでインタビューをしました。

©Marco Borggreve

クラリネットを演奏するようになったきっかけは何ですか?
「私の生まれ故郷のハノーファーの音楽学校の教師であり、私の最初の先生であったヴィルフリート・ベルク氏のレッスンを受けていた頃、彼の教え方にとても心を動かされたのでした。先生は、私にクラリネットの多彩な表現(クラリネットではほとんどどんなスタイルの音楽でも演奏できるということ)を示してくれました。たぶん、それが、私がクラリネットを選んだ最大の理由です」
SWR交響楽団(かつてのシュトゥットガルト放送交響楽団)に入団したのはなぜですか?
「私は2010年にかつてのシュトゥットガルト放送交響楽団に入団しました。でもそれ以前は、私はハンブルク北ドイツ放送交響楽団(今のNDRエルプフィル)に入りたいなと思っていました。というのも、私は、ハンブルクに近いリューベックで学んでいて、そのオーケストラやハンブルクの歌劇場で演奏していましたから。ハンブルクでは、私は、北ドイツ放送響の常連のエキストラとして演奏していましたし、そこで働くのに心地良さを感じるようになっていました。しかし、シュトゥットガルト放送響のサー・ロジャー・ノリントンとの共同作業がとても特別でユニークなので、私はその一員になりたいと思いました。彼らがオーディションに招いてくれて、一番最初から相性がよく、私はシュトゥットガルト放送響での演奏活動を始めたのでした」
SWR響になって、シュトゥットガルト放送響時代と変わりましたか?(注:2016年にシュトゥットガルト放送響とバーデン・バーデン・フライブルクSWR響とが合併した)
「確かに違いますね。でも仕事は前より多くないし、たぶん、多くてもほんの少しだけです。変化はどの楽器のセクションにいるかによって違います。2年前の合併によって、ある楽器のセクションは他に比べて大きくなりました。私たちクラリネット・セクションは、これから5年、3人の首席奏者でやっていきます。でもより多く今私たちが抱えている企画があり、それは組織の問題となっていますし、かつての仕事に匹敵する量だと思います。来シーズンからの私たちの新しい首席指揮者であるテオドール・クルレンツィスとともに仕事は増えるでしょう。確かにそうです。でも、私たちは、世界最高の、世界をリードするオーケストラの一つになりたいという大きな望みがあります。それはたくさんの仕事をしなければならないということを意味しますね」
ソロに、オーケストラ、現在の活動の割合はいかがですか?
「ソロ、室内楽、オーケストラの3つの部分に分かれますね。室内楽が40パーセント、オーケストラが35パーセント、ソロが25パーセントでしょうか。でもそれはいつも変わります。平均的にどうというのは難しいです」
オーケストラで演奏する曲で最も好きなのは何ですか?
「敢えて言うなら、オーケストラの楽器を使って管弦楽の最大限の可能性を切り拓いた音楽ですね。一方で、ラヴェルやドビュッシーの音楽。彼らは楽器や音色の可能性を探究しようとしました。他方で、マーラーやブルックナーの大交響曲があります。それらの曲では、80人の同僚たちの真ん中に座って演奏していると鳥肌が立ちます。そして別の世界へと連れて行かれます。巨大オーケストラのレパートリーでは、ほとんどそのように感じることができるでしょう。でも私はワーグナーとリヒャルト・シュトラウスも好きな曲にあげたいですね。特にオペラですね」
モーツァルトのクラリネット協奏曲では、どのような楽器を使われますか?
「この12年来、私はモーツァルトのクラリネット協奏曲を自分のバセット・クラリネットで吹いています。2006年に、ドイツのマルクノイキルヘンの国際コンクールで優勝したときに、その賞金をバセット・クラリネットに投資したのでした。私の師であるザビーネ・マイヤーさんがそうするように勧めてくれたのです。そのとても柔らかい音の素晴らしい楽器を使って吹くと、個人的には、今でも別の作品を吹いているように感じられます。私が吹けば、あなたもわかると思います」
モーツァルトのクラリネット協奏曲の魅力を教えていただけますか?
「モーツァルトのクラリネット協奏曲は、オーケストラ付きのソロ協奏曲というよりも、大きな室内楽のようです。特にバセット・クラリネットの時は。突然、その音楽がはっきりとまったく違って聴こえるでしょう。この曲はどの楽器にとっても信じられないくらい良く書けています。モーツァルトは、どんな楽器でもその最高の姿を示す術を知っていました。感情的にも、この曲は最も自然に書かれた作品の一つです」
NHK交響楽団にはどんな印象をお持ちですか?
「NHK交響楽団との共演は今回が初めてです。もちろん、とても光栄ですし、このモーツァルトの不滅の傑作に仕える一つの音を一緒に作り上げられることを願っています。私はN響のいくつかの録音を聴いたことがありますが、生の演奏会で聴いたことはありません。N響には、過去の伝統的なクラシック音楽の掘り起こし方をよく理解し、最高のレベルで演奏しているという印象を持っています。ヨーロッパでは、私たちはN響のことをアジアのベルリン・フィルと言っています。今回の共演が一生忘れない経験となることは疑いありません」
今回、指揮をする広上淳一さんとは共演したことがありますか?
「マエストロ広上とは共演したことはございません。でも共演をとても楽しみにしています」
今回の演奏会への抱負をおきかせください。
「上でも述べたように、N響とともにモーツァルトための唯一の音を作り、室内楽作品のように演奏したいです。そしてモーツァルトの音楽上のユーモアを表現するのにはにかんだりせず、みんなで大いに演奏を楽しみたいですね。同時に、私たち誰もがずっと忘れられないような空気を作り上げられればと思います」

インタビュー:山田治生(音楽評論家)