N響オーチャード定期

2017-2018 SERIES

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ダレル・アン

シンガポール出身の新進気鋭のマエストロ、ダレル・アンさんにメールインタビューをしました。

3年前のN響との初共演(2014年6月22日、市川市文化会館でメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」やラヴェルの「ボレロ」などを演奏)の感想を聞かせていただけますか?そのときのN響の印象は?
思い出すのは、リハーサルの最初の数分のことです。NHK交響楽団という名高いオーケストラを前にして、すごく緊張しましたが、出だしの音から素晴らしく、皆さんはメンデルスゾーンの交響曲第4番をよくご存知で、オーケストラのどのメンバーもまさしくヴィルトゥオーゾでした。そしてオーケストラのサウンドとそのアンサンブルは群を抜いており、コンサート当日はさらに目覚ましいものでした。世界最高のオーケストラの一つを指揮したのだと、ひしひしと感じました。
指揮者になろうとしたきっかけは何ですか?
14歳の誕生日の夜、ある夢を見たのです。その夢の中で、私は指揮者の道に進むだろうという声を聞きました。信じられないかもしれませんが、その夢を見る以前には、指揮者というものが一体全体どういう存在で、何をするのかも知りませんでした。音楽家になったことすら、自らの意志ではなかったのです。
ロシアのサンクトペテルブルク音楽院とアメリカのイェール大学に留学されましたが、どうしてそこを選ばれたのですか? 教え方はどのように違いましたか?
ロシアのサンクトペテルブルク音楽院を選んだのは、ヴァレリー・ゲルギエフとユーリ・テミルカーノフのコンサートに感銘を受け、その伝統の中で勉強したいと思ったからです。音楽院の卒業試験でイェール大学の教授から誘いを受け、アメリカに渡ることにしました。
ロシアでは伝統とメソッドが重要で、そのどちらも欠けてはならないものです。一方、アメリカでは個々人に沿って学んでいくので、それぞれ何が必要で何が欠けているのかということに焦点が当たります。ロシアとアメリカでは、まったく異なるアプローチでした。
今回のプログラムについて、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を選んだ理由は何ですか?
私はロシアの伝統を誇りに思っています。私にとってゲルギエフはメンター(指導者)であり、毎月マリインスキー劇場で指揮するためサンクトペテルブルクを訪れています。「展覧会の絵」は日本の皆さんにも馴染みがあり、NHK交響楽団の皆さんももちろんよくご存知の作品ですし、私も自信をもって成功に導くことができると思っています。
オピッツさんについてはどのような印象をお持ちですか?
ゲルハルト・オピッツは世界のピアノ界で伝説的な存在であり、ヴィルヘルム・ケンプやヴァルター・ギーゼキングといったドイツ様式の真の継承者です。子どもの頃、彼のCDをすべて集めていました。残念なことに実現しませんでしたが、彼のもとで学ぶことを夢見ていたくらいです。今回、子ども時代のヒーローとついに会うことができ、共に演奏できることを心の底から誇りに思っています。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の魅力や聴きどころを教えてください。
「皇帝」は音楽史における偉大な作品です。そのメロディと描かれている感情の豊かさは、決して忘れられません。威厳があり力強く優美な第一楽章。それに続く第二楽章はおそらく世界中の音楽の中でももっとも美しいもののひとつだと思います。そして第三楽章は聴き手を巻き込んでいくエネルギーとともに踊るような音楽です。
「展覧会の絵」の魅力や聴きどころはどうでしょう?
「展覧会の絵」は、それぞれに異なる特徴を持つヴィクトル・ガルトマンの絵画が並べられた、完璧なる傑作です。どの曲もそれぞれの絵の違いをよく捉えており、ムソルグスキーはロシアのメランコリーとムードをそれらに描き出しました。ラヴェルのオーケストレーションが色彩感の違いを効果的に引き出し、この巨大な傑作が創り上げられたのです。
今回のN響との共演では、何が楽しみですか? 何を期待されますか?
NHK交響楽団の素晴らしい皆さんと、再び一緒に音楽づくりができるのを楽しみにしています。彼らの持つサウンドの美しさと、人気のあるこれら2つの作品は、日本のコンサートシーズンのハイライトとなるでしょう。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)