N響オーチャード定期

2024/2025 SERIES

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福間洸太朗

今回、ショパンの「ポーランド民謡による大幻想曲」とリストの「死の舞踏」の2曲でピアノ独奏を務める福間洸太朗さんにお話をうかがいました。(9月25日・Bunkamuraにて)

福間洸太朗の写真1
ショパンとリストの2曲という今回の選曲について教えていただけますか?
テーマが「ダンス」と聞いて、私がこの2曲を提案させていただきました。全然性格の違う、コントラストのきいたダンスを取り上げたいと思いました。どちらも若い頃、譜読みはしていましたが、オーケストラと演奏したことはなく、いつか弾きたいなと思っていました。
ショパンの「ポーランド民謡による大幻想曲」は、生きる喜びに満ちたダンスがあり、ポーランド人の誇りや優しさがうかがえます。ショパンは、民族的な舞曲は数多く書いていますが、ポーランドの民謡そのまま使ったものはあまりありません。また、カロル・クルピンスキは、ショパンのワルシャワでの公式デビュー・コンサートを指揮した人でもあり、クルピンスキの曲を使っているところに、ショパンの彼への畏敬の念が感じられます。ショパンがまだポーランドにいた頃の若い作品です。後のショパンのピアノ協奏曲第1番第2楽章や同第2番第3楽章中間部、「黒鍵エチュード」と似ている部分もあります。15分ほどの曲ですが、いろいろ場面転換もあり、ピアニストにとっては、ブラビューラ(華麗な演奏技巧)の入る場面もあり、弾き応えのある良い曲だと思います。
リストの「死の舞踏」は、イタリア・ピサの墓地の外壁に描かれた『死の勝利』というフレスコ画がインスピレーションの源となっていたようです。14世紀の欧州は、大飢饉とペストの大流行で大変な数の死者が出ました。リストは、哲学、宗教に傾倒していたので、若い時から「死」について考えていたと思いますし、「死」をテーマとした作品も残しています。
グレゴリオ聖歌の「怒りの日」をテーマとしています。同じ「怒りの日」が出てくるベルリオーズの「幻想交響曲」の初演を、リストはパリで聴いていたようですし、私は関連性が高いと思いますね。「怒りの日」は、ペストで死に絶えていく民衆の怒りでしょうか。死神という人間以上の大きな存在の恐ろしさが表現されているように感じます。
この「死の舞踏」は、「怒りの日」をテーマとする変奏曲ですが、リストはピアノという楽器を知り尽くした人だったので、当時では考えられないような超絶技巧が散りばめられていて、ピアノの鍵盤の端から端まで駆け回ります。リストのピアノ協奏曲第1番や第2番に比べるとコンパクトで(15分程度)、コンサートではプログラミングしにくいのか、私も演奏会では、アルゲリッチがパリで弾いたのを一回聴いただけです。
ショパンとリストは、どちらも当時、世界第一線のピアニストでした。性格はまったく違っていましたが。そんな二人の大天才がパリで知り合い、同じサロンで弾き、素晴らしい才能と触れ合い、お互いに刺激を受けたのです。
そんな二人のあまり演奏されない15分ほどのピアノとオーケストラの作品を「ダンス」というテーマで並べて弾かせていただけるのはうれしいです。
福間洸太朗の写真2
NHK交響楽団についてはいかがですか?
初共演は2016年5月ですから、8年半ぶりです。そのときはラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏しました。日本のトップのオーケストラと言われるだけあって、奏者の一人一人が素晴らしい音楽家ですし、演奏していて、どんなに複雑な箇所でもピタッと合わせていただき、ハッとする「奇跡的な美しさ」を感じられたことが、印象に残っています。
今回は、特に「死の舞踏」が楽しみですね。管弦楽が充実して、掛け合いもありますから。
そして、「ポーランド民謡による大幻想曲」はショパンのまだ若いところのある作品ですが、N響だからこそ魅力的に奏でていただけるのではないでしょうかね。こんなに面白い作品だったのだと新発見させていただけるような演奏を期待しています。
キンボー・イシイさんについては、いかがですか?
昨年末、びわ湖ホールのジルヴェスターコンサートで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を共演しました。紳士で優しく、でも音楽においては情熱的で素晴らしいと思いました。私の演奏の希望もきいてくださる方なので楽しみです。
横浜みなとみらいホールでの思い出を話していただけますか?
何度も演奏している素晴らしいホールです。初めて弾かせていただいた2012年の30歳になった直後のリサイタルは小ホールでしたが、私の名前にある「洸」の字が連想させるイメージ「Shimmering Water(煌めく水)」をテーマとして、それに合う曲をこの海辺のホールで弾きました。また、2018年の横浜みなとみらいホールの20周年記念コンサートでも、クロード・モネがテーマだったので、「水」の部でドビュッシー「喜びの島」などを弾きました。横浜みなとみらいホールは、私にとってアイデンティティといえる「洸」の文字に素晴らしく合ったホールだと思っています。
コンチェルトも何度か弾いています。昨年は日本フィルとプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を、神奈川フィルとはバーンスタインの生誕100周年記念演奏会で彼の交響曲第2番「不安の時代」を演奏しました。
今年、日本デビュー20周年を迎えられましたね。
現在は、東京、ベルリン、オランダのライデンを拠点に演奏活動を行っています。
この20年で実に多くの方にサポートいただきましたが、私が目指すものを一緒に見据えて長期的にサポートくださる方、私の演奏を聴くことを生きがいにしてくださる方など、素晴らしい出会いがありました。そういう方達の御恩を忘れずに、これからも精進して成長していきたいですね。
レパートリーに関しては自分の拘りといいますか、リサイタルではコンセプトを大切にして、チャレンジングな難曲、大小かかわらず知られざる作品、そして現代音楽も積極的に取り上げてきました。
現代曲は、パリに留学してから、リゲティのエチュードを弾いて、こんなに面白い音楽があるのかと思いました。今生きている作曲家の音楽を届けるのは大切だと思っています。今年6月にパリとケルンで邦人の作品ばかりのプログラムを披露しました。パリで初演した野平一郎さんの「水と地の色彩」を11月11日のサントリーホールでのリサイタルで、日本初演します。
今回のコンサートに向けてメッセージをお願いします。
私はダンスとのコラボレーションが大好きで、マチュー・ガニオさん、首藤康之さん、中村恩恵さん、森山開次さん、羽生結弦さん、ステファン・ランビエールさんら、バレエやフィギュアスケートの方々との共演もしています。自分自身は踊れないですけど、来世はフィギュアスケーターになりたいと、現世では陸上でジャンプの練習をしています(笑)。今回の2作は違う要素をもっているので、ダンスの幅広さを感じていただけると思います。みなさんに客席で一緒に踊っている感覚を味わっていただけるとうれしいですね。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)

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