N響オーチャード定期

2018-2019 SERIES

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パーヴォ・ヤルヴィ

NHK交響楽団の首席指揮者として初めてN響オーチャード定期に登場するパーヴォ・ヤルヴィさんに、今回指揮するメシアンの「トゥランガリラ交響曲」について語っていただきました。(2019年2月22日、Bunkamuraにて)

「トゥランガリラ交響曲」を初めて聴いたのはいつですか?
家族とともにアメリカに移ってからですね(注:パーヴォはエストニア出身)。1980年代始めに、初めて「トゥランガリラ交響曲」をレコードで聴きました。最初は変わった音楽だと思いました。その後、「トゥランガリラ交響曲」がバーンスタイン&ボストン交響楽団によって世界初演されたことを知り、私はバーンスタインの弟子なので、興味を持ちました。この曲を勉強し始めたのはカーティス音楽院に入ってからでしょうか。しかし、独奏ピアノ、オンド・マルトノなどを要する大編成の大曲なので、若者には実際に指揮する機会はありませんでした。
これまでにこの曲をどれくらい指揮されていますか?
フランクフルト放送交響楽団、シンシナティ交響楽団、パリ管弦楽団でそれぞれ2回演奏しています。パリ管弦楽団では、音楽監督を離れる、最後の1回前のコンサートでこの曲を取り上げました。「トゥランガリラ交響曲」は私にとって最も大切な曲の一つです。その物凄い情報量の音のジャングルに圧倒されますが、演奏するたびに、より魅了され、より面白く感じています。
「トゥランガリラ交響曲」のどのようなところに魅力を感じられますか?
「トゥランガリラ交響曲」は、私が初めて指揮したメシアンの作品です。私は、この作品を通して、メシアンの語法を学び、メシアンの世界に恋をしました。メシアンの語法に魅了されたのです。彼の和音の語法が大好きなのです。
また、「トゥランガリラ交響曲」はユニークなロジック(注:たとえば「不可逆リズム」など)に基づいて書かれていますが、聴いていてそう感じないのが面白いですね。「トゥランガリラ交響曲」は、リズミックな音楽ですが、打楽器的ではありません。内なるリズム、鼓動なのです。
「トゥランガリラ交響曲」は本当にユニークな作品ですね。
「トゥランガリラ交響曲」は、書かれたことのなかった画期的な作品です。新しい音楽は、最初はショッキングで、革命的であっても、50年経つとそんなにショッキングでなくなることが多いですね。たとえば「春の祭典」は、初演当時はショッキングでしたが、今ではそんなに驚きません。しばしば演奏されるようになったからでもあると思いますが、作品の暴力性やノイズがそんなに珍しくない世の中になってしまったからかもしれません。
「トゥランガリラ交響曲」は物凄くオリジナルな作品で、50年以上、聴衆にショックを与え続けています。今でもサプライズがあり、驚かされます。この曲をしばらく振らないで戻ってくると、作品の不思議さを感じます。演奏するたびにショックを受けるのです。そういうオリジナリティがあります。
フランス音楽の歴史のなかでも、メシアンの音楽言語はとてもユニークです。ラヴェル、デュティユー、ブーレーズというフランス音楽の流れは、ときにオールド・ファッションに(古臭く)感じられますが、メシアンは今でも新しく、魅了されます。学校で勉強した音楽とはまったく違う。今でもへんな曲だと思います(笑)。「トゥランガリラ交響曲」は、いつも新鮮に取り組める、20世紀の本物の傑作です。
「トゥランガリラ交響曲」はどのように聴けばよいのでしょうか?
「トゥランガリラ交響曲」では様々な音楽が多層的に楽しめます。まず、伝統的な西洋音楽、宗教的な音楽。彼は教会でオルガンを弾き、ミサで即興演奏をしていました。そして、ガムランやインドの影響が感じられるオリエンタルでエキゾチックな音楽も聴くことできます。また、鳥の声も聞こえてきます。彼は鳥が大好きでした。 メシアンにとっては、神を崇めることが重要でした。彼は神聖な高い力を信じていました。彼の調性の語法は、私たちが知っているものとは違います。調性が解決した感じがしないのです。
演奏する上で特に難しいのはどういうところですか?
この作品は、力強い暴力的な部分とゆっくりで静かな部分、という対照的な楽章や音楽からなっています。力強い部分は、良いオーケストラでないとうまくできない、チャレンジングな音楽です。静かな部分では、ガムラン的な音楽が出てきて、瞑想的になります。そして静寂に息吹を吹き込むと音楽が輝き始めます。この部分は、微妙で繊細で、説得力をもって演奏するのが難しく、レコーディングの際には時間を掛けるところです
この交響曲では、普段あまり聴くことのない、オンド・マルトノという電子楽器が活躍しますね。
この楽器がなければ、「トゥランガリラ交響曲」は成り立ちません。未来的な楽器で、この世のものとは思えない特別な音がして、作品のカギとなっています。初期のシンセサイザーのような電子音楽を思い浮かべますが、それでいて生の楽器なのです。オンド・マルトノは、エイリアンのようなコミカルで面白い音や大きな音、予期せぬ音で、この作品に生命感を与えてくれます。
ピアノ独奏には、ロジェ・ムラロさんを招きます。
彼は、メシアンの最後の弟子の一人でした。メシアンはパリの音楽史の一つのシーンでした。直接メシアンを知る、ムラロさんからメシアンの話を聞くのは大変興味深い。彼とは、パリで2度、この曲を共演しています。 今回、オンド・マルトノのシンシア・ミラーさんも交えて、裏も表も作品を知り尽くしているソリストたちで理想的なチームを作ることができました。
「トゥランガリラ交響曲」は、若き小澤征爾とN響によって日本初演された、N響ともゆかりの深い曲です。
1962年ですね。その年は私が生まれた年です。
作品との縁を感じますね。今回のN響との演奏についてはいかがですか?
N響は、どんなに複雑な音楽も演奏できるオーケストラ。技術の高い彼らにはぴったりの曲です。良い結果になると思います。
最後にメッセージをお願いいたします。
「トゥランガリラ交響曲」は、私にとって、とてもスペシャルな曲。今もサプライズを受けます。今回のN響オーチャード定期は、私自身にも意味のあるコンサートなるでしょう。ぜひ、聴きに来てください。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)

写真:Eiji ITO