今回の楽員インタビューは、1995年入団、ファゴット奏者として活躍する菅原恵子(すがわら けいこ)さん。今年2月の第92回オーチャード定期でロビーコンサートに、木管三重奏「トリオ・サンクァンシュ」でオーボエの池田昭子さん、クラリネットの松本健司さんとご出演いただきましたので、その時の印象から伺いました。

「あまりに沢山のお客様が集まってくださって、それも、自分たちの足元にまでいらっしゃってびっくりしましたが、緊張することもなく自然な流れで演奏することが出来ました。私たち三人もそれぞれお話しさせていただき和気藹々とした雰囲気で、お客様の感触が手に取る様に分かりとても楽しかったです。」

トランペットから、楽器は始めたそうですね。

「ニニ・ロッソ(『夜空のトランペット』、『水曜ロードショーのテーマ』でお馴染み)に憧れて、小学校5年生から始めて、プロになるつもりで音楽高校に進みました。ところが、当時藝大から教えに来ていた先生に「女性がトランペット奏者になるのは無理」(まあ、そういう時代だったのですね)と言われて、代わりにファゴットを渡されました。もう、ショックで、しばらくは、ファゴットの練習はしないでピアノばかり弾いていました。ただ、ファゴットを選んでくださった先生が、元N響首席奏者の山畑馨先生だったのは幸運でした。」

ファゴットに開眼したのは?

「大学1年生で聴いた、元N響首席奏者の岡崎耕治先生がドイツ留学から帰国した際のリサイタルが衝撃的でした。心の底から溢れる音を、全身で演奏しようという熱意を感じました。2年生になると、先生の最初の弟子になって、ドイツで学んできたことは全てお前たちに伝えるんだ、という強い意志、意気込みに圧倒されっ放しでした。」

岡崎さんは、どのような教え方でしたか。

「それまでの教え方とは全く違いました。感覚でとらえるのではなく、実に教え方が明確で細かく、論理的、誰が聞いてもはっきり分かる指導法でした。先生が目の前で実演されると、一目瞭然でした。それでいて、生徒それぞれの個性は大事にしてくれて、先生の色に染めることなく音色は様々、演奏の仕方は自由に任されました。
高校時代の山畑先生、大学時代の岡崎先生、この二人の先生との出会いがなかったら、今の自分はありません。それぞれ厳しい時代でしたが、タイミングが良くて幸せでした。」

オーケストラにおける、ファゴットの役割とは。

「私は、2番吹き(セカンド・ファゴット)なのですが、入団当初に「私の仕事はチェロ、コントラバスといった低弦楽器から音程をつかんできて木管楽器に伝える事だ!」と教わりました。私の音程がふらふらしてしまうと、木管セクションに迷惑をかけてしまいます。ファゴットは、音程をとるのが難しい楽器なんですよ。一音一音、自分の耳を使って、この音は高めこの音は低めと。それだけに、自分でどうにか合格点いったかなという演奏が出来た時には、他では味わえない達成感、喜びが得られます。その一瞬のためだけに、それまでの全ての苦労が報われます。まあ、一年に一度あるかないかですが。」

コントラファゴットは。

「これは、ファゴットから独立した仕事をする事が多いです。コントラバスと同じ譜面を演奏することもあります。有名なブラームスの1番は、スコアの下に“コントラバスに準ずる”と書かれています。N響は、最近、新しい楽器を買ったので、圧倒的に音程が良くなりました。まだまだ、楽器も発展途上、進化しているんですよ。」

尊敬する指揮者は。

「スヴェトラーノフさんが大好きでした。人間性、というか、とってもおちゃめなんですね。ロシアの素晴らしい音楽を、私たちに、楽しんで教えてくれる。昔、歌劇「ボリス・ゴドノフ」(ムソルグスキー)の曲(序奏・ポロネーズ)を演奏したとき、練習で、先ず、一回通しました。その後、マエストロが、突然、通訳の女性の手を取って、オーケストラみんなの前でくるくる廻りながら踊り出したんです。ボリショイ劇場に初めて子役として演じた想い出の曲だと言って。オペラの舞台の絵が目に浮かびました。そして、もう一度オーケストラが音を出すと、N響の音がすっかり変わっていたのです。まるで、魔法にかかったかのように。」

今でも、トランペットを吹いているそうですね。

「はい、数年前の誕生日に、N響トランペット・パートの皆さんからサイン入りのラッパをいただきました。家で、ミュート付けてさらっているんですよ。いつか、アマチュア・オケに入って吹いてみたいと思っています。」

その時には、聴きに行きます。ありがとうございました。