今回の楽員インタビューは、2013年10月入団、コントラバス奏者として活躍する矢内陽子(やない ようこ)さん。入団から約3年、最近の心境から伺いました。

「とても充実しています。しかし、自分がN響のメンバーという感覚がいまだにないのです。ここにいることが不思議で、信じられない気持ちです。」

オーケストラでは、五弦の楽器を弾いていらっしゃいますね。(コントラバスには、四弦と五弦の楽器がありますが、当然、五弦の方が大きい)

「そうです、五弦が好きなんです。一番下に低い音が加わることで、身体に伝わる振動がさらに心地よくて。音域も広がりますし。まあ、何と言っても、負けず嫌いなんです。」

中学校の吹奏楽で、コントラバスを始められたそうですね。

「私の生まれ育った群馬では、中学校の吹奏楽部に当たり前の様にコントラバスがありました(吹奏楽では「弦バス」と呼ばれますが)。そこで、独学で始めました。教則本を買って、『N響アワー』を見て。」

高校、そして、音大へと進みます。

「中学校で教えていただいた指揮者の先生にスカウトされて行きました。高校に入学してから半年ほど経ってから、初めてレッスンに通う様になりました。まあ、それまでは趣味で弾いていたのですが、これが運命だったのですね。やがて、音楽の道を進もうと決めて音大に入り、初めてオーケストラの中で弾きました。最初の曲は、リスト作曲の『レ・プレリュード』です。吹奏楽とは響きが違って、とても新鮮でした。オケの楽譜って、何て難しいのだろうと思いましたが、もう、のめり込んでいきました。」

オーケストラと吹奏楽の違いで衝撃的だったことは。

「それまでは、ずっとコントラバスは私一人でしたから、オーケストラではこんな大人数でどうやって合わせるのだろうと思いました。自然と合うのが不思議でした。また、オーケストラではプルトを組むので二人で一つの楽譜(譜面台)を使います。独り占めできないのもショックでしたね。それでも、大学院ではオーディションでヴァイオリンや他の楽器に競り勝って、大学のオーケストラをバックにコントラバス協奏曲(ボッテシーニ作曲)を演奏しました。」

オーケストラにおける、コントラバスの役割とは。

「家の土台みたいなものでしょうか、無ければ倒れてしまう。私たちが築いた土台の上にメロディが乗ったりして、オーケストラ全員でアンサンブルを作り上げます。決して派手ではありませんが、コントラバスがいなかったら、とても薄いものになってしまいます。存在する価値が有る。低弦(チェロとコントラバス)がいなければ、オーケストラは始まりません。」

尊敬する指揮者は。

「ブロムシュテット先生が大好きです。とても耳が良くて、もう来るたびに凄いなあと思います。リハーサルをする意味がある。先生の求める音があり、ゴールにしっかり向かっていく様に感じられます。そして、先生が好きなのは、絶対に低弦から出て、その上にメロディを乗せて行くから。年末の『第九』が、今から楽しみです。
 それから、マゼール先生は衝撃的でした。いつ見ても目が合う感じです。オケの集中力がハンパない!です。本番に持っていくエネルギーが凄かったですね。
 CDを買う時には、まずアバドです。ベートーヴェンやブラームスは素晴らしいですね。」

今後の抱負は。

「とにかく経験を積んで、派手なことはせず、地道に、きちんと積み重ねていきたいと思います。私は、筋が通らないことは嫌いなので。やっぱり、負けず嫌いなんです。きちんと年輪を重ねていきたいと。」

完璧主義ですね、何か“こだわり”と言えば。

「掃除です。絶対、毎日します。音楽のことは忘れて、「無」になるために。」

お裁縫が得意とか。

「母親がとても上手だったので。服や小物など何でも手作りでした。ですから、旅行に持っていく袋など、全部自分で作ります。大きさがきっちりあいますからね。生地屋さんに行くのが好きで、気に入った柄があると買っておきます。まあ、お裁縫も楽器から離れて「無」になるためです。演奏に集中して向き合うためにも、オン・オフを切り替えることは、私にとってとても重要なのです。」

ありがとうございました。