今回の楽員インタビューは、チェロ・セクションの次席として活躍する藤村俊介さんにお話を伺った。ちょうど2月の定期演奏会でもネヴィル・マリナー指揮でドヴォルザークの交響曲第7、8番(NHKホール)を取り上げていたが、そのリハーサル後に取材させて頂いた。

3月9日のオーチャード定期では、ブラームスのヴァイオリン協奏曲とドヴォルザークの交響曲第8番という組み合わせ。後期ロマン派の名曲ですね。

実は、今日もリハーサルをしていたのですが、ドヴォルザークの交響曲は本当に良い曲ですね。第7番も、あまり演奏されていないのが不思議ですが、素晴らしい作品です。

ドヴォルザークの交響曲では、演奏されるのはやはり第7番以降がほとんどですね。

第7番もそれほど演奏機会がありませんよね。それ以前の交響曲はぜんぜん演奏したことがありません。

それだけ第7番以降がよく出来ているのかもしれませんね。改めて第8番を聞き直してみたのですが、本当に豊かな音楽が溢れていました。

素朴で、しかも美しい音楽ですね。第1楽章はチェロがリードして始まりますし、チェロが意外に目立つ交響曲です。

チェリストにとってドヴォルザークはやはり大事な作曲家のひとりですね。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲は憧れですからね。もしかして、ジュニア・オーケストラの経験のある人なら、ドヴォルザークは『新世界より』から入ったという方もいるでしょうが、僕の場合はドヴォ・コンに憧れていましたから、中学生の時に、いきなり挑戦してみたこともあります。まず他の練習用の協奏曲をさらってからじゃないと弾けないのですが(笑)。
 大学生の頃、桐朋で鈴木秀美先生に教えられて、ロストロポーヴィチがチェロ、ターリッヒ指揮チェコ・フィルによるドヴォルザークの協奏曲の録音を聴いたことがあるのですが、その素晴らしさには驚きました。ガット弦の響きの美しさは、格別なものがありますね。

ドヴォルザークの音楽の中には、やはりチェコの人にしか分からない独特の魅力というのもあるのでしょうね。

素朴だけれど、ちゃんと熱っぽさ、情熱も感じさせてくれる音楽ですし、ボヘミアのメロディが美しいです。オーケストレーションもとても見事に出来ています。

ドヴォルザーク自身はヴィオラ奏者として活躍していた時代もありました。そういう意味では、弦楽器の扱い方がとても上手という印象があります。

内声部、ヴィオラとかチェロなどの動かし方が自然で、巧いと思います。室内楽にもたくさんの名曲を書いていますし、その経験は交響曲を書く時にも生きていたのでしょうね。

ところで、藤村さんはいまチェロの次席として活動されているのですが、この次席の役割とはどういうものですか?

単純に言うと、実際の演奏の時に首席奏者と、それ以外のチェロ・セクションの間のバランスを取るということになると思います。指揮者がいて、その情報を首 席が受け取り表現する。その時には、様々な可能性があり、表現の幅があると思いますが、それを感じ取って、もしチェロ・セクションの他のメンバーが理解し ていないと思ったら、それを後ろの席の奏者に伝えます。また全体のバランスが取れていないと思ったら、それをまとめるような方向で演奏する、という役割です。

なかなか聴き手には分かりにくい仕事かもしれませんね。今回はブラームスのヴァイオリン協奏曲も演奏されますが、協奏曲の時もソリストと指揮者、そしてオーケストラの意思疎通が大事になるのでしょうね。

ケース・バイ・ケースですが、例えばチェロの協奏曲の場合、ソリストが客席を向いているので、その演奏する音は後ろのほうの奏者には伝わりにくい時もあります。そういう時は、ソリストのやりたい表現を他の奏者に伝えて行くというのも重要な仕事になります。ヴァイオリン協奏曲の場合は、そこまで難しくはないと思いますが、常にソリスト、指揮者のやりたい音楽というのは意識して演奏しています。
 その時に大事なのは、やはりセクションとしてのまとまりだと思うのですが、いまのN響のチェロ・セクションの場合は、とても意思疎通がしやすいです。チェロ・セクションの4人で「ラ・クァルティーナ」というアンサンブルを作って演奏していますが、そういう経験もオーケストラの演奏の中で役立っています。

現在のチェロ・セクションは12人で構成されています。

そうです。仲が良くて、演奏中の意思疎通もしやいすですよ。12人で演奏することもありますし。年齢的にも30代、40代が多いので、世代ギャップがないのも良い点です。ただ、本来ならもっと若い世代も必要なのですが、今はちょうどそういう転換期にあたっているようです。

藤村さんは桐朋学園の出身ですが、桐朋といえば有名なチェロ奏者を輩出してきましたね。

先輩の世代は、やはり斎藤秀雄先生の直接の指導を受けているので、本当に熱い想いをいまだに持っている方が多いです。チェロだけのアンサンブルがあり、一度その演奏会に参加させて頂いたことがありますが、お互いに昔からよく知っているということで、遠慮ない言い方でリハーサルをされていて、びっくりしました。先輩、後輩もない。音楽的に言いたい事があれば、お互いにけんかするぐらいの勢いで言い合う。あぁ、これが昔の桐朋の雰囲気だったんだなと納得しました。

さて、3月9日の演奏会、ロマン派の名曲2曲を楽しみにしています。

本当に素晴らしい傑作2曲です。どちらの曲もチェロに聴かせどころがありますので、演奏するのも楽しみです。楽しんでください。

インタビュアー:片桐卓也