N響オーチャード定期

2025-2026 SERIES

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原田慶太楼

アメリカを拠点に活躍し、4年ぶりのN響オーチャード定期登場となる原田慶太楼さんに、ジョン・ウィリアムズについて語っていただきました。(2025年12月24日・オーチャードホールにて)

原田慶太楼さんの写真
ジョン・ウィリアムズとの出会いは?
2010年、タングルウッド音楽祭(マサチューセッツ州でコンサートとマスタークラスからなる)でフェロー(指揮コースの受講生)として出会いました。ジョン・ウィリアムズはファンだったし、遠い世界の人だと思っていましたが、実際会うととてもフランクで、初対面のときから、「アイス、食べに行こう」と言われて、私とエリオット・カーター(アメリカの長老作曲家)とオリヴァー・ナッセン(作曲家)で一緒にアイスを食べに行きました。
数か月後、当時、私はアリゾナに住んでいましたが、ジョンがアリゾナ州フェニックスでコンサートを振るので、リハーサルを指揮しておいてほしいと頼まれました。
ちょうどシネマ・コンサート(スクリーンの映画に合わせて、生のオーケストラが演奏する)のトレンドが始まった頃でした。
ジョンの映画で最初にシネマ・コンサートで指揮したのは、クリス・コロンバス監督の『ホーム・アローン』でした。
ジョンの映画のシネマ・コンサートで振ることができるのは、ジョンがOKする世界で4~6人の指揮者だけで、私はその一人に入りました。そして、『スター・ウォーズ』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』『ハリー・ポッター(第3作まで)』『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』など、ジョンの作品を振るようになりました。いろいろなオーケストラを振れてすごく楽しかった。
『E.T.』のエリオットとE.T.が自転車で空に飛ぶ瞬間のタイミングは超ハイ・プレッシャーでした。みんなそれを生で聴きたいと思って来ているからね。あと、『スター・ウォーズ』のエピソード4で、ルークが空を見たときに太陽が2つ出る瞬間でのフォースのテーマとか。映像を見ながら、音楽を合わせていたのは、ジェットコースターに乗っているようでした。タイムとの競い合いですが、私はクリック無しで指揮しました。
『スター・ウォーズ』はエピソード1から9まですべて振っています。第1作にあたるエピソード4は、40回以上振ったと思う。数えきれないほど振った。20代の頃、毎週、振っていました。『ハリー・ポッター』は、オーケストラにも、指揮者にも、あまりに難しくて、たいへん。
あと、コンサートでトークが必要なときのネタを、ジョンからいっぱい教えてもらいました。いろいろなエピソードを教えてもらっているので、今回もしゃべりながらコンサートをします。あと、たとえば、ジョンとスティーヴン・スピルバーグと一緒の楽屋にいたときは最高で、そういう経験をコンサートのトークでシェアしたいと思います。
原田慶太楼さんの写真2

ジョン・ウィリアムズ氏と楽屋での一枚

今回のコンサートの選曲について教えてください。
軸は『スター・ウォーズ』。お客さまもN響の『スター・ウォーズ』を聴いてみたいってなるじゃない。『スター・ウォーズ』はマストで、あと、『E.T.』『ハリー・ポッター』『インディ・ジョーンズ』『シンドラーのリスト』『スーパーマン』。それからオリンピック系の曲を2つ。映画音楽以外も凄いというのを知ってもらうために、オリンピックの曲を入れました。ロサンゼルス・オリンピックのための「オリンピック・ファンファーレとテーマ」はグラミー賞をとっています。
すごく迷ったのは、ジョンのシリアスな(クラシック系の)作品を入れるかどうか。ピアノ協奏曲はすごくいい曲だけど、めちゃヘビーなんだよね。そのほか、チューバ協奏曲やオーボエ協奏曲など、どうするか考えたけど、今回はやめました。
今回は、その音楽をホールで聴いたとき、人生での思い出がよみがえる、タイムスリップできるようなプログラムになっています。そういう思い出を振り返るようなひとときは、素敵かなと思います。
ご自身が初めて触れたジョン・ウィリアムズの音楽は何でした?
「金曜ロードショー」とかかな?テレビが最初だと思う。あと、子どもの頃から『ホーム・アローン』が好きでした。インターナショナル・スクールでは、サンクス・ギヴィングのあとからクリスマスの季節に、学校で『ホーム・アローン』を見せます。その音楽がジョンの曲なんだと知ったのは音楽家になってからでした。
『ハリー・ポッター』を初めて見たのは映画館でしたね。『ジュラシック・パーク』は小学校のとき映画館で見ました。CGを使った画期的な恐竜表現で映画史を変えた作品ですが、CGで描かれた恐竜シーンは6分ほど。あとの雰囲気は音楽が作ります。ジョンは天才だと思います。
原田慶太楼さんの写真2
今回のコンサートで軸となる『スター・ウォーズ』の選曲は?
エピソード4、5、6から選びました。「帝国のマーチ」(ダース・ベイダーのテーマ)、「ヨーダのテーマ」は、エピソード5からです。
エピソード4の酒場のバンドは、スティール・パンが必要。サックス、マリンバ、パーカッション、ピアノ、ドラムス、ベースなどで、超カッコいい。ベニー・グッドマンが宇宙人だったら、こんな音楽かな?というような曲で、クラリネットも入って、ジャズのインプロヴィゼーションもあります。
ジョン・ウィリアムズの音楽の魅力は?
彼は若い頃、スタジオ・ミュージシャンとしてピアノを弾いていて、『ウエスト・サイド・ストーリー』の録音にも参加しています。1950年代から60年代のハリウッドにいて、それらの映画の音楽のピアノは彼が弾いていました。だからこそ、彼は一般の人々が好きな音楽がわかっています。
現在でも、エレクトリックやシンセサイザーではなく、アコースティックのオーケストラのサウンドにこだわっているところがすごい。オーケストラだけで音楽をつくるのは彼のこだわり。今でも一番売れているオーケストラ・アルバムは、『スター・ウォーズ』エピソード4でしょう。
みんながすぐにわかるメロディ。今世紀最大のメロディストだと思います。
下手なオーケストラはジョン・ウィリアムズをやらない方が良いです。音楽は聴きやすいけど、オーケストラは難しいパートがあります。スコアが複雑で弾いている方は必死。『ハリー・ポッター』の最初の30秒。ヴァイオリンは冷や汗をかきます。「オリンピック・ファンファーレとテーマ」は、聴いている方が楽しいが、金管楽器が超たいへん。
N響との共演についてはいかがですか?
N響との共演はすごく楽しみ。N響はN響サウンドがある。それとジョンの音楽との化学反応がめっちゃ楽しみです。N響のみなさんとはほぼシリアスな音楽ばかりやってきたので、それらとはカラーの違う、自分が一番大好きなカラーをN響とコラボできるのは楽しみ。演奏会が盛り上がることを保証します。
私とオーケストラのマッチングがいいと思うので、そのエネルギーが伝わればいい。
シリアスな雰囲気ではないので、1回もコンサートに来たことのないような人のファースト・ステップになれたらいいと思います。
オーチャードホールについてはどうですか?
大きいイメージ。ダイナミックなサウンドが合っている。ホールのすべての壁と客席に音が飛ぶプログラムが合っていると思います。
N響オーチャード定期のオーチャードホールでの最後のコンサートで、このプログラムが指揮できてうれしく思います。
近況を教えてください。現在、アメリカのオハイオ州のデイトン・フィルとジョージア州のサヴァンナ・フィルの音楽・芸術監督を兼務していますね。
デイトンは、アメリカ唯一のオペラ、バレエ、オーケストラが一つの箱(建物)に入っている団体です。ワシントンも一つの箱に入っていますが、それぞれ団体が違います。
20代を劇場で、30代をほぼほぼオーケストラで過ごし、40代でまた劇場に戻れたのはうれしい。
可能性がいろいろあり、やりたい放題できる環境で、ヴェルディの『アイーダ』で、うちのバレエ団だけでなく、象や馬も舞台に乗せたりしました。
2026年はアメリカ建国250年なので、アメリカの新しい作品や古い作品をやります。5月にガーシュウィンの『ポーギーとベス』、9月にはバレエ団と一緒にバーンスタインの『ウエスト・サイド・ストーリー』を上演します。
オペラを振っているときが一番幸せな時間だから、もっと時間をとってやれるといいなと思っています。うちのオペラ劇場でオペラを作って、そのキャストと日本にもってくるのが夢ですね。
サヴァンナ・フィルでは、定期会員を25%から83%にまで引き上げました。定期演奏会は全完売です。次はどうするか?ホールをリノベーションします。そのためにパトロンを見つけてくるのも私の仕事。あと2年間残っているのでお金は集められると思います。
日本では、若手作曲家のプロジェクトは引き続きやっていきたい。1回で終わるのではなく、アフターサポートできるような環境を作りたい。コンサートで、新曲をカップリングして入れるのもいいと思います。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)
撮影協力:静岡グランシップ