N響オーチャード定期

2025-2026 SERIES

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トゥガン・ソヒエフ

世界のトップ・オーケストラからオファーが相次ぎ、多忙を極めるマエストロ・ソヒエフに、今回の演奏会についてのメール・インタビューに回答していただきました。

トゥガン・ソヒエフさんの写真
映画で使われた音楽がテーマとなっていますが、マエストロは普段どんな映画をご覧になりますか?
時間があるときには映画を見るのを楽しんでいますが、ここ数年はスケジュールがあまりに詰まっていて、新作を追いかける時間がほとんどありません。そのため、つい古典的な名作に戻ってしまう傾向があります。
今回、『英国王のスピーチ』、『時計仕掛けのオレンジ』、『プラトーン』、『地獄の黙示録』、『2001年宇宙の旅』で使われた音楽がプログラムにあげられていますが、その中でご覧になった映画はどれですか? その感想を教えてください。
今日のプログラムで取り上げられた映画の中では、『英国王のスピーチ』を一番多く観ていると思います。実在の歴史上の人物が、世界的舞台の中で非常に人間的で共感できる問題に向き合う物語であり、私のお気に入りの作品です。美しい演出、卓越した俳優陣、そしてアレクサンドル・デスプラによる素晴らしい音楽が組み合わさっており、何度観ても、ベートーヴェンの交響曲第7番のアレグレットが最後のスピーチの場面で使われる瞬間は胸を打たれます。このシーンは、音楽が映画の感情的なインパクトを高め、完璧なドラマ効果を生み出す素晴らしい例だと言えるでしょう。
ベートーヴェン、ロッシーニ、バーバー、ワーグナー、ヨハン・シュトラウスIIとは、多彩なプログラムですね。特に楽しみにしている作品はどれですか?
私はベートーヴェンの交響曲第7番を楽しみにしています。
マエストロは、2023年のウィーン・フィルとの日本公演でもシュトラウスIIのワルツを取り上げられましたね。今回の「美しく青きドナウ」がとても楽しみです。
今回のプログラムでは、いわゆるクラシック音楽の作曲家が手がけた音楽を使用している映画を選ぶことにしました。とはいえ、現代作曲家の音楽を評価していないというわけではありません。アレクサンドル・デスプラ、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズといった作曲家たちは、その分野の巨匠だと考えています。ただ、このプログラムを組み立てるにあたり、思い浮かんだ映画が、結果的に古い作品であり、現在では“クラシック”と見なされるものが多かったということです。
スタンリー・キューブリック監督の作品を取り上げないわけにはいきませんでした。彼は、音楽への広範かつ多彩な造詣、そしてそれを極めて精密かつ綿密に使うことで最も有名な監督のひとりだからです。彼の音楽の選択には、画面上のドラマを反映するものもあれば(『地獄の黙示録』の「ワルキューレの騎行」など)、逆に直感に反するような使い方をすることもあります。例えば『2001年宇宙の旅』では、「美しく青きドナウ」のワルツが、宇宙空間を飛ぶ宇宙船の映像に時を超えた優雅さとバレエ的な感覚を与えています。これは、映画冒頭で流れる「ツァラトゥストラはかく語りき」の壮大で宿命的な宇宙の描写とは、対照的な効果をもたらしています。彼の映画には選びたい音楽があまりにも多く、本当に「宝の山」状態なので、今回はプログラム全体のバランスを考えて選ばざるを得ませんでした。
「美しく青きドナウ」はちょうど2025年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と何度か演奏する予定があったため、日本でもこの作品を披露できたら素敵だと考えました。
とても多忙なマエストロが、ほとんど毎シーズン、N響を振りに来てくださる最大の理由は何ですか? N響の魅力とは?
私は長年にわたりN響と共演していますが、毎回約3週間近く東京に滞在するため、東京は“もう一つの我が街”のように感じており、N響の皆さんは私にとって“音楽上の家族”のような存在です。N響との最初の出会いはとても特別なものでした。まず感じたのは、楽団員全員が私と同じ目標――共に音楽をつくり上げ、可能な限り最高の演奏を実現すること――を共有していました。団員の皆さんは決して現状に満足することなく、常に音楽が求めるものに柔軟に応え、作品ごとの精神や響きを体現する能力を持っています。さらに、演奏の中で自発性を発揮し、一回一回の公演にて、独自の何かをもたらすことができます。そしてもちろん、個々の奏者の水準が卓越しているため、表現の可能性は無限であり、このオーケストラを指揮することは常に大きな喜びです。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)