N響オーチャード定期

2024-2025 SERIES

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川瀬賢太郎

若くして神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を経て、現在、名古屋フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を務める川瀬賢太郎さんに、今回のN響オーチャード定期について聞きました。(2025年6月5日、Bunkamuraオーチャードホールにて)

川瀬賢太郎さんの写真1
これまでにN響とはどれくらい共演していますか?
N響との初めての共演は、2018年1月の都民芸術フェスティバルでした。バーンスタインの『キャンディード』序曲、小川典子さんの独奏でガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」というプログラムでした。次が、2021年10月の葛飾、足利、埼玉で公演があり、ベートーヴェンの交響曲第7番、『エグモント』序曲などのプログラムでした。今回、三度目です。
N響といえば、小さい頃からテレビの「N響アワー」で見てきたオーケストラ。日本にN響あり、ですから、緊張しますね。過去2回、とても良くしていただきましたが、独特の+αの緊張感を持つオーケストラなので、N響の指揮台に立つということは、その緊張に打ち克てるか、自分に対するチャレンジになります。
実際にN響を指揮してみていかがでしたか?
N響は、すごく良い音がしますよね。初めてのときは音圧にただただ圧倒されました。2度目の共演はベートーヴェンの交響曲第7番と『エグモント』序曲でしたが、響きの厚さと、指揮でドライヴすると動いてくれる凄さを感じました。
今回のプログラムはどのように決めましたか?
最初にピアソラのバンドネオン協奏曲「アコンカグア」が決まっていて、アメリカもの、中南米もの、そして、テーマはダンスというリクエストで、こういうプログラムになりました。できるだけいろいろな国の踊りの音楽を聴けるようにプログラムを組みました。
川瀬賢太郎さんの写真3
それぞれの曲の聴きどころを教えてください。
マルケスの「ダンソン 第2番」は、グスターボ・ドゥダメルとベネズエラのユース・オーケストラで世界的に有名になりましたが、僕もそれで知りました。僕自身は、デビュー2年目のときに、PMF(パシフィック・ミュージック・フィスティバル)のオープニングでアカデミー生たちのオーケストラと取り上げました。ノリノリな部分もあるし、始まりはムードがあるし、楽しんでいただける作品。演奏会の幕開けにふさわしい曲だと思います。
「アコンカグア」は2回目です。2022年1月に、小松亮太さんのバンドネオン、読売日本交響楽団で演奏しました。今回の三浦一馬さんとは初共演です。バンドネオンとオーケストラとの共演の機会は少なく、彼に胸を借りるつもりです。カッコよく、ピアソラらしい曲です。
ヒナステラの「エスタンシア」は初めてのレパートリーで、今、勉強しています。地に足が着いていて、大地を感じるような作品です。全部で4曲、15分かからない作品で、4曲目の「マランボ」はアンコール・ピースとしてよく演奏されます。全曲聴いてみると、そこにいくまでのストーリーも面白いのです。
そして、アメリカ音楽、ダンスといえば、『ウエスト・サイド・ストーリー』のシンフォニック・ダンス。これまでも何度か指揮しています。『ウエスト・サイド・ストーリー』については、バーンスタインが指揮して、キリ・テ・カナワとホセ・カレーラスが歌う、メイキングの映像を子供の頃からLD(レーザーディスク)で見ていて、親しみがありました。全曲盤のCDもありました。シンフォニック・ダンスは、タイトル通りシンフォニックにまとまっていて、マンボやチャチャなど、お客さまに楽しんでいただけると思いますが、僕は、最後、問いかけで終わるのが、すごく好きです。未来に何かを問いかける終わり方、そのハーモニーに今でもゾクゾクします。
バランスやリズムの感じ方、場面の切り替え、スウィングのフィーリングなどの塩梅の難しさもありますが、初共演でバーンスタインの『キャンディード』序曲をやった経験から、N響はそういうのも絶対に上手だと思います。どういうコラボレーションができるか、とても楽しみです。
オーチャードホールでの思い出はいかがですか?
まず、指揮者としては、辻井伸行(ピアノ)、東京フィルハーモニー交響楽団との演奏会(2019年)を思い出します。
最初にオーチャードホールに来たのは、父に連れられて、小学生のときでした。それが、初めて渋谷に足を踏み入れた日でもありました。沼尻竜典さんの指揮する『ダフニスとクロエ』第2組曲を聴いて、あたかも鳥が飛んでいるみたいだし、朝日が昇ってくるみたいだし、こんなすごい曲があったのかと、鳥肌が立ったのを思い出します。
川瀬賢太郎さんの写真2
現在、名古屋フィルの音楽監督、札幌交響楽団の正指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢のパーマネント・コンダクターを務めてられて、東京と行ったり来たりでたいへんですね。
ポストを持っている3つのオーケストラがすべて地方で、特に名古屋は音楽監督なので毎月のように行かなければなりません。うちの子はようやく「パパの仕事は指揮者」と言うようになりましたが、1年位前まで「パパの仕事は名古屋」と言っていました(笑)。
最後にメッセージをお願いします。
最近の日本の酷暑にぴったりの熱いプログラムです。涼みにではなく、さらに熱い思いをしに、足を運んでいただけたらと思います。ダンスがテーマになっているので、堅苦しくなく、自然に身体が動くような作品ばかりなので、気軽に楽し みに来てください。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)