Introduction見どころ
3年にわたり、 新たな軌跡が描かれる――
2022年ロン=ティボー国際音楽コンクールにて第1位、あわせて「聴衆賞」「評論家賞」を受賞した注目の俊英・亀井聖矢がオーチャードホールの新シリーズに登場!
3年にわたる全3回で、ピアノ・ソロ、ピアノ・トリオ、コンチェルトと、様々なアプローチでショパンの魅力に迫ります。
トークを織り交ぜながらお贈りする特別シリーズをお楽しみください。
日本の若手ピアニストとして最も注目され、加えてさらなる飛躍が期待されている亀井聖矢さん。2022年秋には、超絶技巧とフレッシュな音楽性でパリの聴衆を魅了し、ロン=ティボー国際音楽コンクールで優勝した。そんな亀井さんが、今、集中して学び、ステージで弾くことで理解を深めていきたい作曲家として選んだのが、ショパンだ。
ショパンはもちろん子供の頃から弾いてきたというが、「2020年に初めてオール・ショパンのリサイタルをしたとき、この繊細な音楽をどうするともっと大きくとらえ自然に作っていけるのだろうと苦労した」と振り返る。
今はまさに、活動の場を世界に広げていこうとする最中。そこにBunkamuraから、好きなテーマで3年間の企画を考えてほしいという提案を受け、「内面的な成熟を目指すうえで必要不可欠」だと感じるショパンに向き合うことにした。
「音数の多い難曲は、完璧に弾くだけでも形になります。これまでは好んでそれに挑戦してきましたが、今は少ない音で人を惹きつけられる表現を学ぶべき時だと思うのです」
まず第1回に取り上げるのは、ソロ作品。超絶技巧が生かされる華やかな作品だけでなく、マズルカやワルツのような小品も選び、「美しいレガート、ハーモニーのバランス、文化特有のリズム感も追究したい」。最近はショパンの時代の楽器にも関心があり、プレイエルやエラールも並べて演奏してみたいと意気込む。
そしてユニークなのが第2回の計画。ピアノソロが圧倒的に多いショパンから、唯一のピアノ三重奏曲を取り上げ、東亮汰(ヴァイオリン)、佐藤晴真(チェロ)と共演する。
「ショパンはチェロが大好きでした。5月にウィーンで室内楽の演奏会をする機会があり、チェロの歌を尊重して弾く経験がとても勉強になったばかり。それ以降、ソロ作品への取り組み方も変わりました。ショパンがチェロにどんな音色を求めて音楽を書いたのかを知る機会になりそうです」
最終回には、ショパンの二つのピアノ協奏曲と「アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズ」の管弦楽つき版を演奏する。
「オーケストラにピアノを乗せる時のタッチは、やはりソロと全く違います。自分が出す音だけでなく、その上で合わさった音を聴く感覚を持たないといけません。これからもっと勉強して、3年目にその成果をお見せしたいです」
シリーズ開始の2023年10月時点でまだ21歳。健康的な音楽が魅力の亀井さんだが、「ショパンのような、体が弱く繊細だけれど激しさも持ち合わせていた人が困難に直面する時、どんな感情の起伏を味わうのか。3年間で近づいていきたい」という。
聴衆にとっては、その変化を見届ける3年間になりそうだ。
高坂はる香(音楽ライター)